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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第六章 歴史における試練
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第54話 大阪力士乱闘事件・前編

【桜庭瑞希】


文久3年、6月3日、早朝。


私は局長室に召集された。


そこには、沖田さん、新八君、原田さん、斎藤さん、山南さんに加え、私があまり関わったことがない人たちーーー井上源三郎さん、平山五郎さん、野口健司さんに加え、大阪力士乱闘事件の発端となる芹沢さんが集められていた。


「大阪で、『壬生浪士組』の名前を語って押し借りなどの悪事を働いている奴がいるとの連絡が大阪奉行所から入った。君たちにはその調査を行ってもらいたい」


ーーーやっぱり。


ちらりと沖田さんの方を見ると、何やら嬉しそうな視線を返された。


……面白がってる場合か!


かくして私たちは大阪へ下ることとなった。



********************



一旦自室に戻り、大阪へ行くための準備をしていると、早々に準備を終えたらしい沖田さんと、それと晴明君が私の部屋へやってきた。


「瑞希ちゃんの言う通りになったね」

「まぁ、何にもしてないんで、そりゃあ歴史は変わんないとは思いましたけど」

「……今回の件は、事実上、こちらにはあまり害にならないんですよね?」

「そうだよ、晴明君」


ふむ、と少し考えるように眉根を寄せる晴明君。

何かを考えるとき、まぶたを少し伏せるのが彼の癖のようだ。


「念のため、これを渡しておきますね」

「?これは……ひょっとして、式神?」

「はい。あくまで連絡用の、ですが。効力は今日までですけれど」

「どうやって使うの、それ」


興味津々な沖田さんが私の手のひらからそれを取り上げて言う。


「何かあったときは、それを両手に包み、『縛』と唱えてください。そうすれば僕に連絡が行きますから」

「おー、なるほど」


さすが、平安を代表する陰陽師、安倍晴明。


「ああ、瑞希ちゃん、そろそろ行こうか。近藤さんたちも準備できただろうから」

「あ、そうですね」


遅れたら申し訳ない。


「それじゃあ行ってくるね、晴明君!」

「行ってらっしゃい。お気をつけて」


穏やかな笑顔の晴明君に見送られ、私たちはは屯所の玄関へと急いだ。



********************



「で、やっぱり壬生浪士組の名前を語った不届き者はあっさり捕縛できましたね」

「歴史通りってこと?」

「はい」


大阪に着いた私たちは早速、例の奴をあっさりと捕まえ、これまた歴史通りなことに、近藤さんと源さんーーー道中仲良くなった井上源三郎のことーーーを除いた私を入れて計9人でせっかくだから、と、船遊びをすることとなった。


「本当に何もしなくていいんですか、沖田さん」

「別にいいんじゃない?」


これから乱闘があるというのにお酒を飲みまくっている沖田さんに白い眼を向けるがどこ吹く風だ。


「……っていうか、沖田さん、お酒強いですね」

「んー?まぁ、一君ほどじゃないけどね。……あと晴明君」

「あーーーあれは規格外ですよ」


晴明君はお酒が強い、っていうか、一体どんな肝臓してるんだ、と思うほどだし、


「瑞希ちゃんは飲まないの?」

「……未来じゃあ、20歳まで飲んじゃダメなんです」

「ふーん?ま、いいや。ところで瑞希ちゃんって何歳なの?」

「え、今更ですか。15ですよ?今年の12月で16です」

「……それ本当?嘘だよね?」

「なんでそんなところで嘘つく必要があるんですか」

「……のわりに発育遅いね」

「ほっといてくださいよ!!そういう沖田さんこそ何歳なんですか!?」

「僕?確か、20」

「いや、確かって何ですか」

「だって年齢なんてどうでもいいじゃん」

「人に聞いといてそれですか」


本当に何なんだこの人は。


「ちなみに平助、僕と同い年」

「えっ、うそっ!?」

「そんなことで嘘つく必要ないって言ったのは君だよ?」

「えええっ!?」


へ、平助君が二十歳……というか、年上だったなんてっ!!


「本人、年下に見られること気にしてるからその反応、彼の前ではしないほうがいいよ」

「き、気をつけます……」


そりゃあ、嫌だろう。

私だって経験あるし。


「そういえば……晴明君って、何歳なんでしょうね?」

「……確かに、彼って年齢不詳だよね」

「容姿はちょっと年上か、私と同い年ぐらいだけど……あの、なんというか、悟った感じな性格的には断然上だし……」

「案外年下かもね」

「……それは……」


いろいろショックなんですけど。


「帰ったら聞いてみましょう」

「だね」


今頃晴明君、くしゃみしてるだろうなぁ。

噂したから。


「あ、そうだ斎藤さん!!」


大阪力士乱闘事件で、確か斎藤さんは具合が悪くなるんだった!!


「ちょっと様子見てきますね!」

「……ああ、そうだね」


ん?

なんか今、沖田さんが少し機嫌が悪くなったような?


「行くなら早く行きなよ」

「あ、はい」


沖田さんの様子はこれといっていつもと違いはない。

いつも通り胡散臭い笑みを浮かべているだけだった。


……気のせいか?


とりあえず今はそう思うことにし、私は少し離れたところでお酒を飲んでいた斎藤さんのところへ駆け寄った。



********************



「斎藤さん!!」


少し遠くから呼びかけるも、気づいていないのか、斎藤さんはうつむいたまま、動かない。


……ひょっとして……?


近寄ってみると、眼に見えて斎藤さんの顔色が悪い。


「斎藤さん!」

「……桜庭?」

「ちょっと!!顔色悪いですよ!!」

「……いや、大丈夫だ」

「いえいえ、どこがですか!!」

「おい、どうした?」


騒ぎを聞きつけたのか、少し酔った様子の芹沢さんが近づいてくる。


「ん?斎藤、どうした?真っ青だぞ?」

「あ、芹沢さん!すみません、少し船を止めてもらえますか!?斎藤さん、具合悪いみたいです」

「……いいだろう。そういうことなら仕方ないな」


おお、やった!

……いやまぁ、この先の歴史を知ってる私としてはよくはないけども。


でも今はとりあえず、斎藤さんの介抱をしないと!


芹沢さんの命令で船は止められ、私が足元のふらついている斎藤さんに手を貸して船を降りようとすると、


「君、その小さな体で一君を運ぶつもり?僕がやるよ」

「あ、沖田さん!」

「……沖田か。すまん」


申し訳なさそうにそういう斎藤さん。


ーーーと、その時。


「貴様、俺をなんだと思っている!!」



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