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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第六章 歴史における試練
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第53話 平助君の悩み

【桜庭瑞希】


「……瑞希は、僕が伊勢津藩主の……ご落胤、であるということは、新八たちから聞いていますか?」

「ああ、うん、知ってるよ」

「……あまり、驚かないんですね」

「驚くって、なにを?」

「……ご落胤、ということは、つまり、僕は妾の子供、ということになるんです」

「それがどうかしたの?すごいよね、平助君のお母さん。そんな偉い人に見初められるなんて、よっぽど綺麗な人なんだろうね!!」


平助君は美少年だし、そのお母さんってことは清楚系な美女なんだろうなぁ……。


「……」

「ん?平助君?」


こちらの方をぽかんとした表情で見下ろしている平助君に、私は首をかしげた。


あれ?


私今、変なこと言ったっけ?


「……嫌悪したり、しないんですか?」

「へ?なんで?」


嫌悪?

いったいどこにどう?


「だって、僕はつまり正妻の子供ではないんですよ?……確かに、母はそれなりに父に愛されてはいたんでしょう。幼い頃から、不自由のない暮らしはさせていただきました。けれど、所詮、母は妾。後のことはただの同情からで、たった一夜限りのことだったのかも……」

「ダメだよ、平助君」


私は平助君の言葉を遮り、彼まっすぐに見上げた。


「そんな、平助君のお母さんと平助君自身を卑下するみたいなこと、言っちゃダメだよ」

「っ……!!」


澄んだ大きな瞳が見開かれる。


「私には、正妻だとか、妾だとか、そういうのはわからない。……そもそも、私には本当の両親がいないから」

「っ……それは……」

「いいんだよ、それは。別に気にしてないから。だけど、だからこそ、ちゃんとした両親のいる平助君には、たとえどんな事情があってもその人を卑下してもらいたくない。平助君のお母さんは、ちゃんと君を愛してくれたんでしょ?もちろん、お父さんも」

「……はい」

「だったら、もっと、自身持ちなよ。そもそも、どんな事情があろうと、どんなことが起ころうと平助君は平助君じゃん。出生だとか、そんなことでそれが変わるわけじゃない。私がそんなもので平助君を嫌いになったり嫌悪するわけないでしょ」

「……瑞希……」


紺碧の瞳が少しだけ泣きそうに揺れる。

私は安心させるように笑顔を見せ、話の続きを促した。


「……話、途中で切っちゃったね。続けて、平助君」

「………はい。………僕、さっき街で兄を見かけたんです」

「兄って、もしかして異母兄弟の?」

「そうです。……けど、すぐに見失ってしまいました。……あの人は、僕と違って正妻の子供です。それで。その……」

「ちょっと、気になった?」

「……はい。僕はあまり兄のこと、知らないですから。けど、僕が話しかけても、迷惑かもしれないって。兄は僕のことを嫌っているかもしれないし」


ーーーそう言って平助君は困ったような、曖昧な表情を浮かべた。


「……ねぇ、平助君は、お兄さんと立場が変わりたいって、思ってる?」

「え……?そ、そんなことは……」

「私は、変わって欲しくないなぁ」

「え?」

「だって、平助君がご落胤じゃなくて、正妻?の子供とかだったらさ、つまり跡取りじゃない?そうなったら平助君は壬生浪士組に入れないし、それってつまり、私たちと出会えないってことでしょ?それは嫌だなぁってさ」

「あ……」

「平助君がご落胤だったから、私はここでこうして平助君とあんみつを食べられるわけだし。ま、このままでいいんじゃない?前向きに考えなよ」

「……。そう、ですね」


どこか眩しそうに目を細め、口元に笑みを浮かべる平助君。


「さ、て、と!そんじゃあ帰ろっか!私たちの『家』に!!」

「はい!」


どこか吹っ切れたような、清々しい笑顔の平助君の手を握り、私たちはいつのまにか変わっていた夕日の中、屯所へと走りだしたーーーーーーーー。



********************



【???】


ーーーなるほど、ね。


今回の事件は……大阪力士乱闘事件はそのままにすることにしたのね。

賢明な判断だわ。

あれは、壬生浪士組になんの害もないもの。


ここからが本場よ。


私は、あなたたちに願いを託す。


今度こそ。


今度こそ!!


歴史の歯車を「変える」のよーーーーーーーーーーーーー。


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