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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第六章 歴史における試練
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第52話 僕の話を聞いてくれますか?

【桜庭瑞希】


犯人の夢野さんの死によって終わったあの島原殺人事件から数日が経った。


あの夜、原田さんに私が女だということがばれたのだが、不思議とそのあと何かをしてくるということもなく、つまりはからかわれただけだった、という事実には腹が立ったが、まぁ、何事もなく、普段通りに接してくる原田さんに、こちらとしても何も言う必要もないだろうと、とりあえず放っておくことにしている。


というのも。


今、私にとってはそれよりも重大な事実に気づいてしまったがために、急遽、私の部屋に晴明君と、そして沖田さん……つまり、取引き(・・・)に関わっている例のメンバーを集め、緊急集会を行うこととなった。


「……で?この面子を集めたってことは……つまり、何か起こるの?」

「はい、起こります。しかも明日に」


今日の日付は文久三年、6月2日。


つまり。


「明日、私がいた未来でも超有名なあの事件が起こります」


ーーー大阪力士乱闘事件。

あれは確か、文久三年、6月3日の出来事だったはず。


「明日、『壬生浪士組』の名前を語って大阪で悪事を働いていた人を、大阪奉行所の依頼で取り締まりに行くんです。まぁ、その件に関してはすぐに片がつくんですけど、その夜、みんなで船遊びをするんですけど、確か……そうだ!!斎藤さんが体調不良で船を降りることになって、その時道に迷って、芹沢さんが大阪の力士と揉めるんです。で、そのあと酒宴の場に力士たちが報復で乗り込んできて乱闘になる、っていう事件です」

「で、死人は出るの?」

「えっと……確か、力士の方に死人が……」

「こっちの方には?」

「でません」

「じゃあ放っとこう」

「ええっ!?」


そんな、身も蓋もない。


「……芹沢さん、ですか」

「?どうしたの、晴明君」


最近、私は他の人がいない時には晴明君と呼ぶようにしている。

まぁ理由はなんとなく、だけど。

ちゃんと周りに気を使って入るから、大きな声では呼んでないけどね。


「……いえ、なんでもありません」


ふわっといつもの優しい笑み浮かべ、首を横に振る晴明君。


晴明君はこのあいだの夢野さんの件で少し元気なかったのだが、新八君たちが色々としてくれたみたいで、最近は元の調子を取り戻りていた。



********************



緊急集会の後。

私は散歩がてらに甘味所にでも、と思い、お気に入りの店、「弥生」までの道のりをぶらぶらと散策していた。


「ん……?あれは……?」


平助君?


なにやら、誰かを探すように周りをキョロキョロと見渡している。


その様子をじっと見つめていると、


「あ」


目がバッチリとあう。


向こうも瞬時に気づいたみたいで、目を丸くしている。

このまま通りすぎるのもなんなので声をかけてみることにした。


「平助君!」

「……瑞希。どうしてここに?」

「いや、私はちょっと散歩ついでに甘味所にでも行こうかなぁと。それよりも平助君はなにしてるの?なんか、まるで誰かを探しているみたいだったけど、なんなら手伝おうか?」

「いえ……。勘違いみたいでしたから」

「勘違い?」

「……はい」


困ったように笑う平助君はどこか落ち込んでいるようにも見えた。


「ねぇ」

「はい?」

「平助君、甘味好き?」

「え?ええっと、好きですけど……」

「それじゃあいいお店があるんだ!行こう!!」

「へ?ちょ、瑞希!?」


戸惑った様子の平助君の手を引き、私は甘味所、「弥生」へと連れ込む。


「ほら、座ろ!ここの甘味、とっても美味しいんだ♪」

「は、はぁ……」


困惑気味の平助君にお品書きを見せる。


「よし、私はあんみつにしよう。……女将さん!!あんみつ一つ!」

「はいよ!」

「平助君は?まだ決めてない?」

「えっと……それじゃあ瑞希と同じもので」

「はいはい!女将さんっ!あんみつもう一つで!」

「あんみつ二つだね?」

「そうです!」


顔なじみの女将さんはニコニコと注文をとって奥へと入っていった。


「……あの、瑞希」

「ん?なに?」

「……なぜ、僕をここに……」

「誘ったのか、って?」

「……はい」

「んー、なんか、平助君が落ち込んでるみたいだったからさ。元気になるには美味しいものを食べたらいいんだよ!」


と、そこでちょうど女将さんがあんみつを持ってきてくれた。


「おお……!!久しぶりのあんみつだ♪……んんっ!美味しい♪」

「……本当だ。美味しいですね」


あんみつを口に含み、笑顔になる平助君。


「お、やっと笑った!」

「え……?」

「ほら、言ったでしょ?落ち込んでるみたいだったって」

「……理由は聞かないんですか?」

「そりゃあ知りたいけど……そういうのって人に言いづらいでしょ?」

「……」

「けど、私は平助君が頼ってくれたりしたら嬉しいかな。ほら、この前は、色々と、さ」


龍之介の一件の時。

一番そばにいたのは平助君だった。


「……僕はなにもしていませんよ?結局、瑞希を慰めたのは桔梗でしたし」

「そんなことないよ。人ってさ、落ち込んでる時とか、そばに誰かにいてもらえるだけで安心するものなんだよ。……最初に私のそばにいてくれたのは平助君じゃない?」

「っ……それは、そうですけど……」


照れたように視線を落とす平助君の頰はほんのりと赤くなっていて言ったら怒られそうだけど可愛いなと思う。


それからしばらく、私たちは無言であんみつを頬張った。


そしてお椀が空になった頃。


「あの、瑞希」

「ん?なに?平助君」

「……僕の話を、聞いてくれますか?」


不安げに揺れる、澄んだ瞳。


私は待ってましたとばかりに頷いた。


「もちろん!!」



********************



【藤堂平助】


街で「あの人」を見かけた。


けれどすぐに見失ってしまい、探していると散歩中だという瑞希と会った。


なんだかわからぬままに連れてこられたのは「弥生」という甘味所だった。


瑞希は僕を、「落ち込んでいるよう」だったから連れてきた、と言ってたが、その理由を直接訪ねてくることはなかった。


それを疑問に思って訳を聞いてみると、


「そりゃあ知りたいけど……そういうのって人に言いづらいでしょ?」


……確かに。


その後に彼はこう続けた。


「けと、私は平助君が頼ってくれたりしたら嬉しいかな」


彼はこの前の龍之介の件について言っているらしい。


……あの事件では、僕はなにもしてあげられなかったのに、それでも、「側にいる」ことが大切だと、そう言ってくれた。


それからしばらく無言で甘いあんみつを食べた。


確かに、僕には、今、悩み……みたいなものがある。

それを誰かに言ったことは今までに一度もなかったし、その必要はないと思っていた。


けれど。


「あの、瑞希」

「ん?なに?平助君」


瑞希になら、話してもいいかもしれない。


僕は意を決して彼に向き直り、


「……僕の話を、聞いてくれますか?」


その僕の言葉に。


瑞希はわずかに目を見開き。


そして。


「もちろん!!」


太陽みたいなキラキラした笑顔で頷いた。


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