第5話 捕獲されました。つまり、死亡フラグ
「あなたたち、怪しいですね。長州の者ですか?」
What?チョウシュウノモノ?
「はぁ……?」
「聞こえなかったんですか?あなたたちは長州の者ですかと聞いているんですよ?」
私は突然話しかけてきた人物をじっと観察した。
背はスラリと高く、少し色の薄い茶色の髪は頭の後ろで一つに結わえられている。
……多分、といたら背中までいくかな?
顔立ちは涼やかに整っており、隣で不思議そうにその青年を眺めている晴明君ほどではないにしても、どちらかといえば中性的で、目元の泣き黒子が印象深い美青年だ。
が、それ以上に、剣道でもやるかのような袴に、左の腰に差した刀から、彼が武士か何かであることは悲しいほど深ーく理解させられた。
この時代じゃあ刀を持ってるのは武士だけだからね。
いきなりやってきた死亡フラグ。さてどうしようか。
とりあえず、今言いたいことは。
……ねえ、神様。私なんかあなたの勘に触るようなことした?
「おい、何かあったのか、総司」
と、青年の後方からもう一人、男がやってくる。
おいおい、なんかもう1人来ちゃったよ。しかも多分、この涼やか美青年さんのお味方さん。
刀持ちの武士っぽい人2人に対し、こちらは丸腰2人。はい詰んだー。
クソッ、神様後で覚えてろよ。
「あ、土方さん」
青年はその人物を見てヘラリとした笑みを浮かべた。
「なんか、怪しい人見つけましたよ。長州の者ですかねぇ?」
「怪しい者だと?」
後からやってきた男の方も、青年に負けないほどに整った顔立ちをしていた。
その、彫りの深い甘いマスクに、青年と同じように漆黒の髪を1つに束ねた髪型。
それは歴史好きの私には覚えがありすぎるものだった。
「……土方、歳三……」
……嘘でしょ。
この人、本物?
いや、今更コスプレでしたとかそんなオチはないだろうから、本物だよね?
この顔はまさしく歴史の授業で習った、「あの人」そのもの。
それに、隣の泣き黒子の人。
「総司」って、呼ばれて、まさか……。
あの有名なーーーーーーーー!!
もしそれが本当なら、私も晴明君も、今日が命日になりかねないんですが!?
「……何故俺の名前を知っている?」
「え……」
あっ。
しまった。私、声に出しちゃったよ!?
私はただの馬鹿か。
ますます怪しまれるよね!?
いや、そもそもが怪しまれているから同じかな。
状況が悪化しただけだね、うん。
あ、全然良くなかった!
「ねっ、怪しいでしょ?」
ニコニコと笑顔の青年が私たち2人を見比べて言う。
顔は整っているけれど、だからなのかその薄ら笑いが寒々しい。というか、怖い。
あと、ちょっと腹も立つ。
ーーーっていうか、待ってください。
なんか、明らかにまずい状況になってるんですけども。
死亡フラグが立ったどころかそのまま棺桶まで突っ走ってるよね私たち。
ネギ背負ってオーブンに自ら入っていったカモだよ、まさに。
「ねぇ君たち、ここじゃなんだし、とりあえず、屯所まで行きましょう♪」
とりあえずってなんだ、とりあえずって。
未来の新選組の他のメンバーに会ってみたい欲求はあるけど、今この状況ではマジで勘弁してほしい絶対行きたくないお願いします。
笑顔なのに、有無を言わさぬ迫力はもういいですよ満腹です。
晴明君は状況を理解したのか、緊張した表情で私と青年たちを見比べている。
ごめん、晴明君。
私たち、本気で詰んだかも……。