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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第六章 歴史における試練
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第47話 島原の任務

【桜庭瑞希】


5月も終わりに近づいた頃のある日。


私と晴明君は土方さんの部屋へと呼び出された。


そこには新八君、沖田さん、山南さんたちが集まっていた。


「お、来た来た」


相変わらずな人懐こい笑みの新八君が片腕をあげてひらひらと振る。


「瑞希と小鳥遊か。これで全員揃ったな」

「えーと、土方さん?私、何か怒られるようなこと、しましたっけ?」


取り敢えず、ここのところは何もしていない……はず。


……多分。


「馬鹿だねぇ瑞希君。土方さんに怒られるようなことしてるのは君と新八くらいなものじゃない?」

「俺もかよ!」

「うるせぇぞだまれ」

「す、すんません……」


土方さんに怒られた新八君を黒い笑顔で嘲笑う沖田さん。

相変わらずえげつない。


「まぁまぁ土方君。みんなも静かにしようね」


その場を諌めるように柔らかい笑みでそう言う山南さんはこちらもあいも変わらずの大人である。


「まぁいい。今日お前達に集まってもらったのは、やってもらいたい任務があるからだ。場所は島原」

「……土方さん、まさか、島原の芸者さんを墜としてこいって任務じゃないですよね?」


そりゃあ、土台無理な話である。


「……馬鹿かお前は?んな任務受けるわけねぇし、受けたとしてもお前にやらせようとなんて思うわけないだろうが。それなら新八とお前抜いて左之入れたほうが賢明だ」

「俺も!?」

「……ごもっとも」


原田さんならそりゃあ女の子にモテるだろう。


ーーー新八君、かわいそ。


「続けるぞ?今回の任務は、揚屋の主人に頼まれたものだ。ここの連中はよく世話になっているから引き受けた。それに、内容が内容だからな」

「島原っていうと……ストーカーとか?」


ほら、島原の芸者さんってみんな美人だし。


「すとーかー?なにそれ?」

「え、沖田さんストーカー知らな……あ」


しまった!

ストーカーなんて言葉、この時代にあるわけがないではないか。


「……いえ、なんでもないです」

「……瑞希。お前、もう話に水を差すな。黙ってろ」

「……はい」


とうとうしびれを切らした土方さんに怒られてしまった。

おお怖。


「話を戻すぞ。……実は、3日前、島原のある遊女の部屋で侍が殺された」

「えっ!?遊女の部屋で!?」

「だから新八、お前も黙ってろ!これ以上口を挟みやがったら瑞希共々舌を引っこ抜くぞ!!」

「そ、それだけは勘弁!!」

「なんで私まで!?」

「あはっ★御愁傷様♪」


沖田さんが打ちひしがれる私たちに黒笑で追い討ちをかける。


「……事故や病死ではなく、殺人である根拠がある、ということですか?」

「ああ、そうだ」


晴明君が硬い表情でそんな質問を口にする。

それに対し、土方さんは苦い顔で頷いて言った。


「……詳しい事情は話せないが……今回の件は奉行所に届けることはできない。それで俺達のところに話が回ってきた」

「……土方さん」

「なんだ、総司?」

「それってつまり……犯人を内々に見つけてこちらの判断で処分しろ(・・・・)ってことですよね?」

「……ああ。つまりはそういうことだ」


沖田さんの冷ややかな笑みに無表情で肯定する土方さん。

二人の会話に、私は背筋にスッと冷たいものが流れたような気がした。


「それでだが……瑞希、小鳥遊」

「は、はい!?」

「はい」

「お前達、女装して島原で働け」

「はぁ!?」


なに言ってんのこの土馬鹿(ひじばか)さん。


「なるほど……潜入だね?」

「山南さんの言うとおりだ」

「いやいやいや!!無理があるでしょ!!ってか、なんで私たちが芸妓に化ける必要があるんですか!犯人がまた島原に来るなんてわからないでしょう!!」

「いや、犯人は内部の人間だ」

「な、なんでわかるんですか?」

「……凶器が、遊女がよくつけている簪だった。それで首筋を一突きだ。殺されたのは武士だ。いくら得物がなかったとはいえ、その時島原に来ていたのはどこぞの商人だったらしい。殺された方はそこまで酔ってなかったらしいからな。みすみす遅れはとらないだろう」

「な、なるほど……」


確かに、遊女とかなら、ハニートラップ的な感じで近づいて殺せるかもしれないけど……。


「でも動機は?」

「そんなもん知らん」


そんな、身も蓋もない。


「っでもっ!!私、お客さんと、その……で、できませんよ!?」


幾ら何でもそれは嫌だ!!


私は最初の相手は好きな人って決めてるんだから。


「馬鹿野郎!!確かに島原で働けとは言ったが、なにもそっちが専門の遊女になれとは言ってねぇ!!」

「で、ですよねー」


そとそも、私はともかく、晴明君はまずいだろう。


……最も、晴明君の容姿なら、男でもお客さん取れそうだけど。


私なんか多分いろいろ負けてるだろうし。


「……女装、ですか……。その、僕以外の方々ではいけませんか?」


珍しく心底嫌そうな表情を浮かべた晴明君に、土方さんは、


「他って言ったって、まさか山南さんにやってもらうわけにはいかないだろうが。新八がやっても笑い者にすらならねぇ、気持ち悪い」

「そ、そこまで言わなくても!?」


まぁ、確かに。

新八君の女装は私も見たくない。

絶対似合わないから。


「じゃあ沖田さんは?」


私の提案に、冷ややかな、人を刺し殺すような視線が突き刺さる。

発生源は言わずもがなだ。


「馬鹿野郎。んなデカイ女がいてたまるか」


確かに。沖田さん、平成的に見ても背が高いもんね。

まぁ、別に晴明君も小さいわけじゃないけど、多分165くらい?だと思う。

これなら女装守備範囲内だ。


「じゃあ……土方さん、とか?」

「……瑞希。お前、斬られたいのか?」

「……いえ、なんでもありません」


凍てつくような殺気に身の危険を感じて私は思わず頭を下げた。


魔王様、マジで怖い。


「……ところで桔梗君。やっぱり女装するの、嫌なの?」


気を取り直して気になった質問をしてみると、苦々しい表情で頷いた。


「……そもそも、女装を嫌がらない方がいるのか疑問に思いますが……あまり、女装にはいい思い出がありませんので」

「え、やったことあるんだ?」

「……」


驚いて聞き返してみたが思い出したくないのか沈黙を返されてしまう。


おう、残念。


「とにかく、これは副長命令だ。二人とも、いいな?」

「了解です」

「……はい」



かくして私たちは島原殺人事件の調査をすることとなった。



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