第45話 「ごめんなさい」
【桜庭瑞希】
「……晴明君」
もっと、頼って欲しかったな。
もちろん、晴明君が、昨日のこともあって、私を気遣ってくれたんだろうことはわかっている。
もっとも、隠したところでこうやって倒れちゃうと、皆んなにもばれることは予想できたはずだけど、多分、熱でそこまで頭が回らなかったのかもしれない。
山南さんが用意したらしい、もう緩くなった手ぬぐいを濡らして晴明君の額に置く。
苦しそうな彼の顔を見ていると、ぎゅっと胸が締め付けられるように痛んだ。
「苦痛を分けられたらなぁ……」
そしたら、少しでも楽になれるのに。
こんな時、私がお医者さんだったらなぁと思う。
タイムスリップしても、それなら現代の医学を駆使して治せるのだから。
ほんと、私って役にたたないなぁ。
「……い」
「え?」
「……ごめ、なさ、い……」
「っ!」
晴明君の唇がかすかに動き、小さな弱々しい声が漏れ聞こえた。
「ごめんなさい」。
多分、これは私にかけられた言葉じゃない。
ーーー誰への謝罪……?
「……ごめ、なさ、い……」
「っ……」
晴明君。
君は一体、誰に謝っているの?
なんでそんなに悲しそうなのーーーーーーーーーーーーーー?
「あ……」
そうだ。
私は、知らない。
晴明君のこと、実のところ何にも知らないんだ。
「安倍晴明」。
彼は平成の世でも、優れた陰陽師として、もうほとんどが伝説的なものになっているが、それでも名が知られていることは間違いない。
たくさんの式神と契約していて、京の街を救ったとか、半妖だったとか、いろいろなことが伝えられている。
けれど。
私は、晴明君自身から、彼が平安という時代で、どのように過ごしてきたのか、一度も聞いたことがない。
そう、今まで、たったの一度も。
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【???】
ーーーーー。
ーーーーーーーー晴明。
また、あなたは熱を出したのね。
…………昔から変わらない。
ーーーあなたは禁忌の半妖。
そして、あなたの母親は私の父と違って、高位の妖。
その力は神に近いと言われているほどに。
あなたが母親から受け継いだその大きすぎる力は、人の血が入った体には、到底受け止めきれるはずがない。
莫大なその力は、あなたの体を蝕み続ける。
ーーーまるで呪いのように。
だからこそ、無理は禁物なのに。
それなのにあなたは人のために、無理を重ねる。
必要以上に。
ーーーずっと、そう。
どんなに疎まれても。
何度化け物と蔑まれても。
あなたは「あの人たち」を救い続けた。
ーーーただ、笑顔を浮かべて。
その努力すらも、報われないと知っていながら。
それでもあなたは、笑って己の身を削り、人を救おうとする。
ーーーあなたは優しすぎるから。
ーーーその結果、あなたは「あの日」、自分自身を呪った。
あの悲劇は、あなたを縛り続ける。
ーーーせっかく、「前の傷」が癒えて、あなたが心から笑えるようになったのに。
あの悲劇は、あなたを絶望の底へ、容赦なく叩き落とした。
ーーー晴明、あなたは、「彼女」と、ある約束をしたと言った。
けれどそれは。
あなたを苦しめているのではないの?
だって晴明。
あなたはあの日から。
◾️◾️が嫌いになったじゃない。
いえ。
あなたはずっと昔からーーーーーーー。
「桜庭瑞希……」
あなたは、己の「価値」を知った時、その「真実」を知った時、どう思うのだろうか。
あなたに今、芽吹きかけている「その思い」。
せめて私がもっとうまくやっていたら。
「私は」
ーーー晴明。
私はあなたが◾️◾️。
あなたが私を救ってくれたその時から。
だからこそ。
今度こそ。
失敗は許されない。
そろそろ、あれの限界が近づいているから。
待っていて。
私は今度こそ、あなたたちを救うわ。
この、「運命」と言う名の呪いから、解き放つために。
その道は恐ろしく過酷だけれど。
「……我、その名において、申し奉る……」
だけど今は、どうか。
元気になって、晴明ーーーーーーーーー。




