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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第五章 命を負う覚悟
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第45話 「ごめんなさい」

【桜庭瑞希】


「……晴明君」


もっと、頼って欲しかったな。


もちろん、晴明君が、昨日のこともあって、私を気遣ってくれたんだろうことはわかっている。

もっとも、隠したところでこうやって倒れちゃうと、皆んなにもばれることは予想できたはずだけど、多分、熱でそこまで頭が回らなかったのかもしれない。


山南さんが用意したらしい、もう緩くなった手ぬぐいを濡らして晴明君の額に置く。


苦しそうな彼の顔を見ていると、ぎゅっと胸が締め付けられるように痛んだ。


「苦痛を分けられたらなぁ……」


そしたら、少しでも楽になれるのに。


こんな時、私がお医者さんだったらなぁと思う。


タイムスリップしても、それなら現代の医学を駆使して治せるのだから。

ほんと、私って役にたたないなぁ。


「……い」

「え?」

「……ごめ、なさ、い……」

「っ!」


晴明君の唇がかすかに動き、小さな弱々しい声が漏れ聞こえた。


「ごめんなさい」。


多分、これは私にかけられた言葉じゃない。


ーーー誰への謝罪……?


「……ごめ、なさ、い……」

「っ……」


晴明君。


君は一体、誰に謝っているの?


なんでそんなに悲しそうなのーーーーーーーーーーーーーー?


「あ……」


そうだ。


私は、知らない。


晴明君のこと、実のところ何にも知らないんだ。


「安倍晴明」。

彼は平成の世でも、優れた陰陽師として、もうほとんどが伝説的なものになっているが、それでも名が知られていることは間違いない。

たくさんの式神と契約していて、京の街を救ったとか、半妖だったとか、いろいろなことが伝えられている。


けれど。


私は、晴明君自身から、彼が平安という時代で、どのように過ごしてきたのか、一度も聞いたことがない。



そう、今まで、たったの一度も。



********************



【???】


ーーーーー。


ーーーーーーーー晴明。


また、あなたは熱を出したのね。

…………昔から変わらない。


ーーーあなたは禁忌の半妖(・・)


そして、あなたの母親は私の父と違って、高位の妖。


その力は神に近いと言われているほどに。


あなたが母親から受け継いだその大きすぎる力は、人の血が入った体には、到底受け止めきれるはずがない。


莫大なその力は、あなたの体を蝕み続ける。


ーーーまるで呪いのように。


だからこそ、無理は禁物なのに。

それなのにあなたは人のために、無理を重ねる。


必要以上に(・・・・・)


ーーーずっと、そう。


どんなに疎まれても。


何度化け物と蔑まれても。


あなたは「あの人たち」を救い続けた。


ーーーただ、笑顔を浮かべて。


その努力すらも、報われないと知っていながら。


それでもあなたは、笑って己の身を削り、人を救おうとする。


ーーーあなたは優しすぎるから。


ーーーその結果、あなたは「あの日」、自分自身を呪った。


あの悲劇(・・・・)は、あなたを縛り続ける。


ーーーせっかく、「前の傷」が癒えて、あなたが心から笑えるようになったのに。


あの悲劇は、あなたを絶望の底へ、容赦なく叩き落とした。



ーーー晴明、あなたは、「彼女」と、ある約束をしたと言った。


けれどそれは。


あなたを苦しめているのではないの?


だって晴明。


あなたはあの日から。


◾️◾️が嫌いになったじゃない。


いえ。


あなたはずっと昔からーーーーーーー。



「桜庭瑞希……」


あなたは、己の「価値」を知った時、その「真実」を知った時、どう思うのだろうか。


あなたに今、芽吹きかけている「その思い」。


せめて私がもっとうまくやっていたら。



「私は」


ーーー晴明。


私はあなたが◾️◾️。


あなたが私を救ってくれたその時から。


だからこそ。


今度こそ(・・・・)


失敗は許されない。


そろそろ、あれ(・・)の限界が近づいているから。



待っていて。


私は今度こそ、あなたたち(・・・・・)を救うわ。

この、「運命」と言う名の呪いから、解き放つために。


その道は恐ろしく過酷だけれど。


「……我、その名において、申し奉る……」


だけど今は、どうか。


元気になって、晴明ーーーーーーーーー。



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