第44話 高熱
「う……」
頭が激しく痛む。
ピクリと体を動かすと身体中の関節に激痛が走った。
「っ……!」
「……気が付いたかい?」
目を開けると書物を片手に持った山南さんと目があった。
頭の上に、何か冷たいものが載っている感触がした。
「ああ、動かないほうがいい。かなりひどい熱だからね。身体中が痛いだろう?」
「っ……ここ、は」
「君の部屋だよ。私がここに来た時、君が部屋の中で倒れていてね。高熱を出して意識を失っていたみたいだから布団に寝かせたのだよ」
「……。……ありがとう、ございます」
また、人に迷惑をかけてしまったようですね……。
「全く……どうしてこんなになるまで放っておいたんだい?土方さんから聞いたよ。君、ここに来た時もこうして倒れたんだってね?」
「……」
声を出す気力も湧かず、小さく頷く。
「まあとにかく。今は休みなさい」
「はい……」
言われた通りに目を閉じたとたん、耐えがたい睡魔に襲われ、そのまま意識を手放したーーーーーー。
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【山南敬助】
「聞きたいこと」ーーーといってもたいしたこではないのだがーーーがあったために桔梗君の部屋を訪れると、彼はひどい熱を出して倒れていた。
白い面は青ざめて、しかし反対に体は驚くほどに熱く発熱していた。
「これはまずいな……」
彼の部屋の布団を敷き、少し袴を緩めてそこへ寝かせた後、たらいに水を汲んで冷やした手ぬぐいを熱を持った額に乗せる。
手ぬぐいはひどい高熱のせいですぐに緩くなってしまった。
「そういえば、桔梗君は今朝も顔色が悪かった」
大方、瑞希君を思っての行動だろうが、ここまで無理をするのはいただけない。
そもそも、今、彼がこの状態であることを瑞希君に隠し通すことができるか……。
そうこうしているうちに桔梗君は1度目を覚まし、が、すぐに意識を失うように眠りについた。
このまま放置するわけにもいかないので持っていた書物を広げるが、暗闇のせいですぐに断念した。
「ケホッ、ケホッ……」
重い咳と共に瞼が震える。
「っ……」
薄く開いた瞼の隙間から力ない潤んだ紫の瞳が覗く。
「ケホッ」
もう一度咳を繰り返し、端正な顔を苦痛に歪める桔梗君の額に、もう一度冷たく冷やした手ぬぐいを乗せた。
紫の瞳は見えているのかいないのか、焦点はあっていないが、彼の意識が眠りについてはいないことは容易に理解できる。
……あまりの高熱のせいでよく眠れないのだろう。
小刻みな、けれど荒い息遣いがそれを証明していた。
しばらくの間、起きたり眠ったりを繰り返していたが、次第にその体力すら尽きたのか桔梗君が意識を失うように目を閉じた頃、飲みに行っていた瑞希君たちが帰ってきた。
「桔梗君っ!?」
帰ってくるやいなや、桔梗君の現状を理解した瑞希君が大きな瞳をまん丸に見開いた。
「シッ、静かに。今、やっと眠れたみたいなのだから……最も、単に体力が尽きて意識を失っているみたいだけれど。とにかく座りなさい」
「あ……ごめんなさい、山南さん」
桔梗君の枕元に腰を落ち着けた瑞希君は肩を落として俯いていた。
私は桔梗君を起こさないよう声を潜め、隣の彼に声をかけた。
「他のみんなは?」
「……みんな、ほぼ酔いつぶれています」
「そうか……」
「……あの、どうして山南さんが、ここに?」
「少し、聞きたいことがあって、ここに来たんだが、部屋で彼が倒れていてね」
「それじゃあ……桔梗君、ずっと無理してた……?私、全然気づかなかった……」
「悔やんでも仕方ないよ。どうやら、彼はそういうことを隠すのがうまいみたいだからね」
「桔梗君が具合悪いの隠したのって……」
「多分君の予想通りだと思うよ。けど、それで君は自分を責めてはいけないよ?」
「でも」
「桔梗君は、君を思ってやったんだから、その思いを無駄にしてはいけないよ、瑞希君」
「……はい」
素直に頷く瑞希君の頭をぽん、と優しく叩く。
「ああ、そうだ。瑞希君、少しここに残っていてもらえるかい?私は医者を呼んでくるよ」
「あ、はい。わかりました」
あいにく、今は他の隊士の大半が巡察なり遊びなりで出払っている。
危険な状態の桔梗君を一人残して医者を呼びに行くわけにもいかなかったが、瑞希君が来たから問題はないだろう。
後のことは瑞希君に頼み、私はその場を後にした。




