第43話 持つべきものは友
次の日。
私は晴明君、平助君とともに龍之介と彼のお母さんのお葬式に出席した。
お葬式、といっても、小さな簡素なものではあったが、それでも近所の人がたくさん出席してくれていて、龍之介親子はみんなに愛されていたんだなぁと、しみじみ感じた。
昨日の一件について、新八君たちも昨日私が帰ってきた時の様子からなんとなくは察していたみたいで、けれど、それについて尋ねてくることはなかった。
この時代は、ああした斬り合いは日常茶飯事だし、ある意味で暗黙の了解的なところがあるから私自身に罰が下ることはない。
それでも、私は今度こそ、晴明君との「約束」を守ろうと心に決めていた。
ーーーちゃんと、前を向いて進むために。
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お葬式からの帰り道。
私たちはなんとなく、会話することもなく無言で帰路についていた。
ーーー長い沈黙が続く。
けれど、その沈黙はどこか心地よかった。
「おーい!!」
ーーーあと少しで屯所に到着する、というところで、私たちは予想外の人物たちに出迎えられることとなった。
「……新八君!?それに……沖田さん、原田さんも……」
隣を歩く二人も驚いたように目を丸くした。
「やっと帰ってきたな。待ちくたびれたぜ?」
「……ずっと待っててくれたの?」
「おう!」
とびっきりの明るい笑顔でそう言い切る新八君。
ほんのりと心が温かくなるのを感じた。
「おかえり、三人とも。お別れは済んだかい?」
「はい。ちゃんとお別れしてきました。ね、瑞希、桔梗?」
「うん」
「……ええ」
「それは良かったね」
その日は妙なスキンシップをしてくることはなく、原田さんは薄く微笑を浮かべてそう言った。
「沖田さんも……待っていてくれて、ありがとうございます」
原田さんの隣に立つ沖田さんに目を移すと皮肉めいた視線を返された。
「別に?僕はただ、捨てられた犬みたいにしょげた顔で帰ってくるであろう君の顔を拝みに来ただけだよ?」
「んなこと言って。実は結構心配してただろ?三人を出迎えようって提案したの、総司だし」
「え、そうなの?」
再び沖田さんを見上げると、ふん、と、そっぽを向かれた。
ーーー前から少し思ってたけど、沖田さんってツンデレ?
ーーーなんか、ちょっと萌えるかもしれない。
いや、別に私はそっちの趣味がある人じゃないよ?
「ああ、そうそう。今は巡察でいない一と土方さんから伝言があるよ。すぐに伝えて欲しいからって」
「え?」
突然のことに首をかしげる私へ、原田さんは妙に美声な低音ボイスでその伝言とやらを告げてきた。
「一からは『今度また手合わせしよう』って。実に彼らしい文句だね」
「……ですね」
なんとなく、それを言っている斎藤さんの顔が想像できて私は晴明君たちと顔を見合わせて少し笑った。
「で、土方さんからは、『明日からの巡察、免除はしないからな』だそうだよ」
「うわ、それも土方さんらしいな。絶対こーんなしかめっ面で言ってたんだろうな」
そう言って土方さんのモノマネをする新八君の顔は眉間にグッとしわがよっていて、それがものすごく面白く、みんなドッと笑った。
「新八、そんなことすると、土方さんに怒られますよ」
「っと、絶対言うなよ!?平助」
「はいはい」
瞬時に身の危険を感じた新八君がさっと青ざめて釘をさす。
そんな新八君を真っ黒な笑みな沖田さんが見下ろして言った。
「ふーん?言いつけてやろうかな」
「ちょっ、勘弁してくれよ総司っ!!」
さっきのお返しなのか、沖田さんの笑みはいつもの数倍ましで黒かった。
おお怖。
「そんなことより!折角みんないる事だし、今から飲みに行こうぜ!!なんなら島原でも行くか!」
「ああ、それいいね」
「ま、いいんじゃない?」
新八君の話のちよっと慌てたような提案に、笑いながら原田さん、沖田さんが賛同する。
話を反らせてほっとした顔のほっとした顔をする新八君。
「……そうですね。たまにはいいかもしれません」
「だろ、平助!桔梗も行くよな?」
と、今日はなぜか口数の少ない晴明君にも声をかけた。
「お誘いいただいて恐縮ですが……申し訳ありません。今日はやめておきます」
が、困ったような微笑を浮かべた晴明君はやんわりと首を振った。
「少し、体調が優れないので」
「え……。それって、昨日雨で濡れたから……」
昨日、晴明君も私も、雨でびしょ濡れになったのだ。
風邪をひいてもおかしくはない。
ーーー全くピンピンしている私はいかに、とも思うが。
「いえ……。瑞希さんのせいではありませんよ。僕の事は気にせず、皆さんで楽しんできてください」
「そっか……。お大事にな」
心配げな新八君の言葉に、晴明君は淡い微笑で返した。
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【安倍晴明】
「っ、ケホッ、ケホッ……」
私室に戻った途端、膝から力が抜け、今の今まで我慢していた咳が喉の奥からこみ上げてくる。
たまらず咳き込み、床にたおれこむと、刺すような激しい頭痛が襲ってきた。
「ケホッ、ケホッ……」
……なんとか間に合ってよかった。
もし、瑞希さんの前でこんな姿を見せていたら彼女は自分を責めるでしょうから。
気が抜けて一気に上がったらしい熱のせいで、体が思うように動かない。
昨日、あれだけびしょ濡れになっていて、無理をすれば必然的にこうなる事はわかっていた。
……幼い頃からお世辞にも丈夫とは言えず、しょっちゅう体調を崩しては床に伏していたのだから。
「っ……」
体が燃えるように熱く、意識が朦朧とする。
「桔梗君、少し聞きたい事があるのだけれど、入っても構わないか……桔梗君!?」
意識が完全に飛ぶ間際。
誰かの声がした気がしたーーーーー。




