第41話 阻害された占術
【安倍晴明】
……嫌な予感がする。
瑞希さんに出ていた「失せ物の相」は、「龍之介」という少年だった。
だから、今の瑞希さんには気になる相はない。
けれど。
何かが起こる前兆のような、嫌な気が瑞希さんにまとわりついているのを今朝、見てしまったのです。
彼女に降りかかる悲劇はまだ終わっていない……?
それに……。
昨日、あの少年が亡くなる前に「視て」みたとき、なぜか何も見なかった。
いや……。
見なかったのではなく。
あれは……。
見えなかった。
まるで、誰かが阻んでいるように。
……ですが、いったい誰が?
安倍晴明の術を阻める人間なんて……。
1人しか、いない。
「……道満」
あなたが、術を阻害している?
「ならば……」
手を叩き、術払いの結界を張る。
ーーー何か、引っかかっていたものが取れたような気がした。
「やはり……」
僕の占術が阻害されていたーーー。
それが可能なのは、彼女だけ。
ーーーけれど今はそのことを考えている暇はありません。
瑞希さんは今、屯所にいない。
おそらく、犯人を探しに行ったのでしょう。
……手遅れになる前に。
そこで僕が見たのはーーーーーーーーー。
「っ……」
僕は片付けもそこそこに屯所を飛び出した。
外は傘が役に立たないほどの大雨で、出た途端、来ている着物が冷たい水を吸っていくのを肌で感じながら、さっき「視た」場所へと足を速める。
「っ、瑞希さん……」
あの光景が本当ならば。
きっと今頃あなたは。
ーーーやはり、無理だったのでしょうか?
憎しみを捨てることなどできないのでしょうか?
かつての自分を思い浮かべ、しかし、首を振る。
ーーーあのときの僕とは、事情が全く違う。
あのとき僕には恨める人がいませんでした。
なぜなら。
恨むべきなのは。
◾️◾️だから。
そして僕は◾️◾️を憎んだのです。
「あった……」
この店です。
この、裏に、きっとーーーーー。
そして、僕は地面に座り込む彼女を見つけた。
赤く染まった地面で呆然としている彼女に。
今にも脆く崩れてしまいそうな彼女に向けて、僕は精一杯に叫んだ。
「瑞希さんっ!!」
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【???】
「……っ」
術払いの結界。
しかも、強い。
本気の彼に勝てるなどと思っていないのでそれ以上の干渉はやめておこう。
どうせ無駄だから。
「……第一の目的は達成したわ」
ーーー桜庭瑞希。
あなたは多分、私がずっとずっと探していた人。
あなたがここにいる理由はわからない。
……彼ーーー晴明がいる理由も。
ーーー誰かが時廻りの木を使ったとしか考えられない。
だけれどいったい誰が?
「……まぁいいわ」
とにかく、初めの目的は達成した。
あの少年たちには悪いけれど、これは必要なこと。
桜庭瑞希には、乗り越えてもらわなくちゃいけない。
ーーーこの時代で生きることの意味と、そして、その覚悟。
あなたは今回の一件で深く知ることになるわ。




