第40話 私が初めて罪を犯した日
「お前が……殺したのか?」
この女の子を。
「お前が『辻斬り』なのか?」
龍之介を殺したーーー?
ジャリ
「……」
「そいつ」は私の問いかけには答えず、無言で足を踏み出した。
「答えろっ!!」
腰に差してあったレイピアを抜き、「そいつ」に向ける。
「お前が龍之介を殺したのかっ!?」
「……知るか」
「なに……?」
「そいつ」は地面に倒れ伏した女の子を、冷ややかに見下ろし、私を嘲笑うように見返す。
その顔には狂気的な笑みが浮かんでいた。
「斬った人間のことなど、知る訳がないだろう。死んだ弱者など、そこらの畜生と変わらぬのだから」
「なん、だと?」
ーーー死んだ弱者は畜生と変わらない?
龍之介が?
お母さんを守ると強い眼差しで言っていた龍之介が?
「……ああ、お前が言っている龍之介とやらは昨日俺が斬った坊主か。あれは面白かった。弱いくせに俺に剣を向けたのだからな。しかもその辺で拾った棒切れで応戦するとは。せめて身の程をわきまえて逃げていれば助かったやもしれぬものを。少しずつ切り裂いて嬲り殺してやったわ。馬鹿というのも、あそこまでになるともはや生きる価値もないな」
ーーー目の前が、赤く染まる。
今までに感じたことのないほどの強い激情に、心が悲鳴をあげている。
沸き起こる感情を抑えきれずに、私は「そいつ」に飛びかかった。
私の動きに触発されるように、「そいつ」もまた、刀を振りかぶって斬りかかってきた。
キンッーーー!!
激しくぶつかり合う剣と刀。
「そいつ」の一撃は重く、私の体は後方にジリジリと押しやられる。
普段ならおそらく受けずに避けるはずの刀を私は迷うことなく受け止めた。
ーーー憎い。
龍之介を、私の大切な友達を殺した奴が。
ーーー憎い。
龍之介の勇気も何もかも全部を嘲笑ったこいつが。
ーーー憎い。
龍之介の命を奪っておきながら笑っているそいつが。
憎い。
「……てやる」
憎い。
カキンッ!!
力任せに相手の刀を弾くと「そいつ」は驚いたように目を見開いた。
憎い。
「……殺して、やる」
憎い。
こいつが、憎い。
殺して。
「殺してやる」
殺してやる。
「……!?」
素早く身を翻し、予想外に刀を弾かれて硬直している相手の顔面めがけて渾身の付きを入れる。
「ぎゃあああああああああいあっっ!!」
私の目の前に「赤」が散る。
絶叫をあげ、のたうち回りながら地面に倒れ伏す「そいつ」に。
私はそれでもなお。
レイピアを差し入れた。
ーーー何度も。
「ぐっ、ぎっ」
ーーー何度も。
「や、やめてくれ」
ーーー何度も。
「お、お願いだっ!!やめ、やめてくれ頼むっ!!」
ーーー何度も。
だって。
龍之介は死ぬときもっと苦しんだでしょ?
殺されるとき、龍之介だって助けてって、叫んだはずだよ?
だから。
「や、やめ……ぎぃゃやああああああ!!」
ーーー何度も。
外道のくせに私を見上げるな。
お前に、その価値はない。
「死ね」
私はそう呟き、もう動く気力もない「そいつ」の胸を突き刺した。
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…………………………………。
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………………………………………私は。
「……っ、あ……」
目の前に横たわる、「そいつ」の残骸。
「う、あ……」
私が、殺した、ソレ。
「うぐっ……」
私は喉の奥から這い上がってきたものを吐き出した。
「っ……」
雨が私を責めるように体を打つ。
私は。
人を。
殺した。
脳裏に蘇るのは昨日、「あの約束」をしたときの、晴明君の顔。
私は。
彼との約束を破ってしまった。
「……はははっ」
焼けるように痛む喉から乾いた笑い声が漏れた。
ーーー今の私を見たら、晴明君はなんて言うだろうか?
軽蔑する?
悲しむ?
怒る?
「……どうでもいいや」
もう、そんなことどうだっていい。
私は。
龍之介を殺した奴と同じになった。
ーーーごめんね、龍之介。
「……もう、龍之介に兄ちゃんなんて、呼んでもらえないな……」
だって、もう……。
私は……。
「瑞希さんっ!!」




