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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第一章 時代を超えたタイムスリップ
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第4話 ここは未来/過去ですか?

「こっちです」


迷いのない足取りで進む晴明君の後を追い、森の中を進む。

私にはどっちに進めばいいか全くわからないのに迷いなく道を選ぶ晴明君を少し不思議に思う。

やっぱり、さすがは陰陽師ってことなんですかね?

私にはどっちに進めばいいか、てんでわからん。

……方向音痴なわけじゃないよっ!?


「人の『気』を辿っているのですよ」

「あ、そうなんだ……って、どうして私が考えてることが分かったの!?」


あなたはエスパーか。


「それはまぁ……僕は陰陽師ですから」


いたずらっぽい笑みを浮かべ、晴明君はそう言った。

え、ちょっと、なにそれ。思考ダダ漏れだったりしたら怖いんですけど。

それになんか、誤魔化された感があるし。


「ふぅん……って、のあぁっ!」


引きつった顔で頷きかけた私は、自分でもあまりに色気がないなぁと思う情けない声をあげ、足元の石につまずいてすっ転んだ。


あ、倒れる、と思い、ぎゅっと目を瞑る。悲しきかな。私の鼻が潰れてしまう。受け身……は、普通に無理だわ。南無三。


が、いくらたっても衝撃がこないので目を開けてみると……。


「うぇ?」


すぐ近くに晴明君の綺麗な顔があった。


「大丈夫ですか?」


心配げに眉根を寄せる晴明君。

うわぁ、すっごいまつげ長い……って、なにこの状況っ!?乙ゲーか!


混乱のままに口をパクパクとアホな金魚みたいに開閉させる私に、晴明君はますます心配げな表情を浮かべ、その整った顔を近づけてくる。

抱きしめられるようにしてまわった晴明君の腕から伝わる暖かな感触に、私の顔へ熱が集まるのを感じた。

……お願いします。やめてください心臓に悪いっ!


「あの、顔が赤いですが……どこか痛いところはありますか?」

「い、いや、なんでもないっ!!」


ブンブンと首を振り、あわてて晴明君の腕から抜け出す。


当の晴明君はというと、不思議そうに首を傾げてこちらを見つめていた。


ああもうっ!!

なんで名前呼んだり服装では恥ずかしがるのにあんなことは顔色変えずにできるのかなっ!?

この麗しさで自覚なしの天然タラシとか、人を殺す気か。


ドクリドクリと激しい音を立てる心臓をなんとかなだめ、赤くなっているであろう頬を手であおいで冷ます。


「……桜庭さん、本当に大丈夫ですか?」


晴明君の、私の名前を呼ぶ声にドキッと心臓が跳ねる。


「だ、大丈夫……」

「そうですか?もし、何かありましたら遠慮なさらずにおっしゃってくださいね?」

「う、うん、わかった……」


君のその優しさが、ある意味つらい(泣)。


そういえば、抱きとめられた時、晴明君からなんかいい匂いしたなぁ……って、私はなんだ、変態か!

……それにしても、本当、女の子みたいに華奢な腕だった。

そんなこと考えているとは絶対言えないけど。

……知られたらもう二度と晴明君と顔合わせらんないし。

恥ずかしすぎて私死ぬ。


「は、早く行こう。日が暮れちゃうよ」


まだ赤いほおを誤魔化すように言い、私は足を速めた。


「……あの」

「ん?なに?」

「……そっちはさっき来た道ですよ」

「……」


……泣きたいんだけど。

誰でもいいから私を慰めて。

だ、断じて方向音痴じゃないんだからね(泣)!



********************



「もうすぐ森を出られそうですよ」

「あ、本当だ!!出口!」


小一時間ほど歩き続け、私たちは森の出口らしきところを発見する。

もっとも、ここは森だからどっちが入り口でどっちが出口かなんてわからないけど。


小枝や葉に遮られて光のあまり届かない森に、そこで森が途切れているらしく、その部分だけはまるで光明がさしたように明るい。


ーーーけれど。


喜びもつかの間、私たちはその先に広がっていた光景に息を飲んだ。


「え……」

「これは……」


そこには、私が普段見慣れているような、ビルなどの高層建築物はなく。

もちろん平安味溢れる豪華なお屋敷があるのでもなく。


そこにあるのは、背の低い、瓦屋根に木造の家やらお店らしきものやらで。


そう、それは、まるでーーーーーーーーーーーーー。


歴史の教科書でよく見る江戸時代(・・・・)かのような光景だったーーーーーーーーーーーーー。


「うそ、でしょ?」


ここ、多分だけど江戸時代らへんだね、うん。こういう光景、よく時代劇とかで見るもん。しかも、おそらく城下町的な、江戸で言う所の都会。

だってほら、着物着た人たちがいっぱい歩いてるし、商人っぽいのもいるもん。


……はい。これでもともと風前の灯だった希望がかけらも無くなりました。

せめて永住だけは何としても避けたいところです。


「ここは、桜庭さんのいた時代……ではないようですね」

「うん、ちがうね。多分なんだけど、私がいたのより200年前……ぐらいだと思う」

「ということは僕にとっては1000年後の未来、ということですか」

「そうなるよね……」


そう考えると色々とすごいよね。

200年前だよ、200年前。

電気も水道も電車もなにもないよ。夜とかきっと、街灯ないから真っ暗だよ。星とかすごい綺麗に見えそう。排気ガスないし。……車、ないから。


「……」


ーーーなんて現実逃避している場合では断じてない。

それに自分で言ってて悲しくなってきた。


「晴明君、ここは、たぶんだけど、『江戸時代』だと思うんだ」

「えど?」

「うん。私の時代でいう、『東京』。晴明君いた時代ではほとんど人の住んでない荒地だよ。京よりずーーーっと東にある、ね」

「京より東……。そんなところが、未来ではこれほどまでに栄えるのですか……」

「うん。江戸時代じゃあ、ここがいわば都みたいなものだから」

「京は都ではなくなるのですか!?」


ーーー紫色の瞳をまん丸に見開き、驚きの声を上げる。


「うん。晴明君には信じられないかもしれないけどね」


信じられないのも、無理はない。

平安より前の時代には、もちろん奈良に都が置かれた時もあったが、近畿地方から出たことは一度もなかったからね。


それよりどうしようか、この状況。

なんか私たち、めちゃくちゃ注目されてるような?


まぁ、それもそのはず。

私の格好も、晴明君の格好も、この時代にとっては明らかに異質だ。

それに、黒髪の私はともかく、晴明君の真っ白な髪と紫色の目は注目を浴びるには十分すぎる。


「と、とにかく移動しよう?このままだと悪目立ちする」

「そう、ですね。ですが、一体どこに……?」

「……。わ、わかんない」

「……」


すいません、ノープランです。この時代に知り合いなんて、いるわけがない。いたら怖いわ。


ーーーと、その時だった。


「あなたたち、怪しいですね。長州の者ですか?」

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