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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第四章 壬生浪士組と平和なる日常
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第31話 ツンデレ土方さん

今日は土方さんと夜の巡察へ行くことになった。


「うわ、暗っ」


初めてこの時間の巡察を担当したけど、道に街灯とかがないせいでめちゃくちゃ暗かった。


「夜が暗いのは当たり前だろう」


土方さんが私を、まるで変なものでも見るような目で見てくる。


失敬な。


「そりゃあそうですけど……あ!」

「なんだ?」

「すごい!!星が綺麗ですっ!!」


土方さんを見上げる過程で目に飛び込んできたのは無数の星たちだった。


「……はぁ?星なんていつもあんなもんだろ」


土方さんにはそうかもしれないけど、私にとって、これは綺麗な空なんですよ!!


平成の日本ではこんな星空、田舎でも見られないだろう。

こう見るとどれだけ現代の私たちが空を汚染しているかが分かるよ。

環境保護って大切だよね。


「お前って、何見ても反応するよな。俺はお前が一体どんな所で今まで過ごしていたのか疑問に思うぞ。洞窟にでも住んでいたのか?」

「……原始人ですか、それ」


平成の日本です、とは言えない。

頭のおかしい子だと思われるから。



そういえば、確か沖田さんに私が未来から来たと教えても、頭のおかしい子だとは思われなかったよね。

笑われたけど。

真っ向から否定されて狂人扱いはされなかった。

そう考えると本当にあの人は変人だって言えるよね。


「でも土方さん。夜の巡察って、なんだか不気味じゃないですか?お化けとか出てきそうで」

「……お前は何を言ってるんだ?」


呆れられてしまった。


「!!」


と、急に土方さんが厳しい顔つきで前方に視線を向けた。

遅れて私も「その」気配に気づく。


……誰か、来る。


そう思ったのもつかの間、私たちはいきなりやってきた乱入者たちに取り囲まれてしまった。


「ふん……よほど死にたいようだな」


土方さんはそう冷ややかに言うと刀を抜く。

向こうの方……現れた5、6人の男たちもそれに合わせて刀を抜く。

私も土方さんの助太刀をするため、腰のレイピアを抜いた。


一斉に襲いかかってくる男たち。


私は彼らの動きを先読みし、素早く避けながら彼らが持つ刀を叩き落とし、剣の柄で鳩尾をついて気絶させる。

私が2人の男を倒し終わった時には土方さんは残りの男たちを倒し終えていた。


私は、地面に広がっていた真っ赤な「それ」を見て息を飲んだ。


地面に倒れ伏している男たちから流れ出てくる、むせかえるような鉄錆の匂いをさせたそれは、とめどもなく流れ、地面に不吉な模様を描いていく。


私は信じられない思いで土方さんを見上げた。


「ひ、土方さんっ!?まさか、殺っ……」


いいかけ、しかし私は全てを言えなかった。


「死ねぇっ!!」

「!?」


私が気絶させたはずの男が、まだ起きていたのか、刀を持って切りかかってくる。

とっさに応戦するが間に合わない。


ああ、もうダメだと思って私は目を閉じた。


が。


「ぐあっ!」


苦痛の悲鳴をあげて倒されたのは男の方だった。


続いてもう一度、ひらりと刀が舞う。


絶命している男を冷ややかに見下ろし、私が気絶させたもう一人をも切り捨てた土方さんはそうして刀を収めた。


「な、なんで……っ!!」


私は思わずそう叫んだ。


けれど、私は自分の言葉が八つ当たりのようなものだということを深く理解していた。


助けてくれた土方さんに、お礼を言わなくちゃいけない。


……それなのに。


溢れる感情を抑えきれず、私は土方さんを睨みつける。


そんな私を、土方さんは静かな視線しばし眺め、が、すぐにくるりと背を向けた。


「お前は、甘い」

「っ……!!」


ぎゅっと拳を握りしめ、うつむく。

土方さんは振り返らずに続けた。


「俺が手を出さなければお前は殺されていた。敵に情けは無用だ。向こうから襲ってきたんだ。向こうだって、斬られる覚悟はできているはずなのだからな」

「でもっ……」

「お前がそういう甘さを持ち続ける限り、お前は何度も失敗を繰り返す。今度は、本当に死ぬぞ?」

「っ……」


わかってる。

そんなのわかってるよ、土方さん。


殺さなければ、私が殺されてた。

それくらい、わかってる。


だけど。


割り切れるわけないんだよ。

だって、私は、たとえ武術を習っていたとしても、本当の斬り合いとは無縁に生きてきたんだから。


平成では、人殺しは犯罪だ。


この時代で、それが通用しないことくらい私だって理解している。


けど。


それを割り切っちゃったら、もう終わりだと思うんだよ……。


「……瑞希」


振り返った土方さんと目が合う。


その瞬間、視界がぐにゃりとぼやけるのがわかった。


私の瞳から、あつい雫が落ちる。


止めなくちゃ、って思うのに、うまくいかない。


「……ごめ、なさい。わかって、いたんだよ……。でもっ……!私っ……!」

「瑞希」


もう一度、土方さんが私の名前を呼ぶ。

そういえば、土方さんに私の名前を初めて呼ばれた気がする。


「今すぐ割り切れと言ってるんじゃない。初めて人から本気の殺意を向けられて刀を抜けただけで上出来だからな」

「え……」


土方さんが、慰めてくれてる……?

いつも鬼みたいに冷たくて怖い土方さんが……?


涙はいつの間にか止まっていた。


「……ありがとうございます、土方さん」


目尻の涙をぬぐって笑顔を向ける。


すると土方さんはムッと怒ったように眉根を上げてそっぽを向いた。


「別に、俺はお前を励ましたわけではない。ただ、一般論を言っただけだ」


……。


……これは、ひょっとして。


土方さんって、ツンデレ?


「何をボーッと突っ立っていやがるっ!さっさと行くぞ!」


くるりと私から背を向けて早足に歩き出す土方さん。


「はいっ!」


土方さんの意外な一面を見られたことで気分が上昇した私は大きく返事を返し、土方さんの後を追ったーーーーーーー。




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