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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第四章 壬生浪士組と平和なる日常
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第30話 「嘘」であなたが見えないよ

晴明君と皆の交流を促すためのお花見宴会の翌日。


壬生浪士組屯所内には朝から阿鼻叫喚が響いていた。


「……頭痛い……。気持ち悪い……」


青白い顔をした新八君たちの、まるで幽鬼か何かみたいな様子に思わず笑みがこぼれる。


「……何を笑っているんですか、瑞希。他人事だと思って……」


げっそりとした表情の平助君が恨みがましい視線を向けてくる。


ちなみに、昨日の宴会で二日酔いにならなかったのは全く飲んでいない私と晴明君だけである。

晴明君に関しては驚きで、酒に強い上に二日酔いになったことは皆無だという。

新八君たちほどではないが沖田さん、山南さんもそれなりの量を飲んだせいか気分は悪そうだった。



「おい桜庭」

「うわ、土方さん」


いきなり後ろから現れたMAX不機嫌顏の土方さんに、私は思わず後ずさる。

土方さんも二日酔いらしく、機嫌はマリアナ海溝よりも最下層を漂っている。


「な、なんでしょう、土方さん」


蛇に睨まれたカエルのごとく縮こまる私を土方さんは冷ややかに見下ろして言った。


「こいつらが、二日酔いで殆ど使えねぇ。お前が責任とってこいつらの巡察もこなしてこい」

「ええっ!?何で私が!?」

「昨日の宴会はお前の提案だろうが馬鹿野郎っ!!お前が責任取るのが筋だろうがっ!!」


そ、そんな横暴な!!そんなことまで面倒見きれませんよ!!


……などとは大魔神な土方さんには言えず。


結局、私は今日の昼と夜の巡察を両方引き受けることになったのだった。



パワーハラスメント、反対っ!!



********************



腰にレイピアをさし、京の街の巡察に向かう。


「すみません桜庭さん。僕が皆さんを飲ませすぎたせいで……」


今日の巡察担当の晴明君が申し訳なさそうに俯く。



目尻に涙すら浮かべた儚げな晴明君のことをいったい誰が責められよう。


答えは否だ。


「桔梗君のせいじゃないよ。悪いのは調子に乗って飲んだあっちの方だもん」


特に土方さん。お酒弱いくせに勝手に飲んで部下にあたる上司なんて最低だよ!!



「ところで、巡察って、何をすればいいんでしょう?」

「ん?ああ、桔梗君は初めてだったよね、巡察。っていっても、お昼の巡察は大したことないよ。ちょちょっと見回りして終わりでいいんだけど……あ、そうだ!!どうせだしあそこ(・・・)によっていこっかな」

あそこ(・・・)?」

「うん!」


あそこがどこかは、行ってからのお楽しみ!



********************



「ここだよ」

「『弥生』?」

「そう!甘味処だよ。ここ、私のお気に入りなんだよ。あ、もしかして桔梗君、甘味、苦手だった?」


勝手に来ちゃったけどその辺聞いておくの忘れてたわ……。


「いえ、そんなことないですよ」

「ほんと?」

「はい♪」


にっこりと微笑む晴明君は本当に嬉しそうだった。



「ん〜美味しいっ!」


葛切りを口に放り込みながらしばしの幸せを味わう。


「本当ですね。ここの甘味、とても美味しいです」

「でしょ〜」


甘味を頬張りながらふと、晴明君が頭上の桜を見上げて言った。


「……桜、散ってしまいますね」


晴明君につられて私も頭上の桜を仰ぎ見る。


満開の桜の花はピンク色の雪を降らせている。桜の花が完全に散ってしまう日もそう遠くないだろう。


ーーー桜を見上げる晴明君の横顔は何処か悲しげであり、そして何かを諦めているかのようでもあった。


……どうして、そんな切なげな顔をするのだろう?



『……僕は、ただの化け物ですよ』



そういえば、出会ったばかりの時、晴明君は自嘲気味に笑いながらそう言った。



ーーー化け物。



彼は一体何を思って自分をそう称したのだろう?


一体何が、彼を……?



「桜はもうすぐ散るかもしれないけどさ……」


ふと、思いついた言葉が私の口から滑り出るように流れ出る。



桔梗色の人とは違う瞳が私を映す。


「また、来年も咲くから、大丈夫だよ」

「……」


何が大丈夫なのかは、自分でもわからなかった。


でも、そう言わないと、晴明君が消えてしまうのではないかと思ったのだ。



「……そうですね」


口元にはほのかな笑みが浮かんでいる。


けれど、それとは対称的に桔梗色の瞳が寂しげに揺れていた。



ーーーそう。それは、「嘘」の笑み。


晴明君は、私に本当の心を見せてくれない。



それは仕方のないことだ。


だって、私たちは出会ってまだほんの少ししか経っていないから。


けれど……。


わかっているはずなのに、胸の奥が小さな針で刺されたみたいにチクリと痛む。



ーーーどうして?



私、信用されていないみたいで、悲しいのかな…………?



「そろそろ屯所に戻りましょうか、桜庭さん」

「……瑞希」

「え?」

「瑞希って、呼んでほしい」



ーーーあれ、私、何言ってるんだろう?



名前の呼び方なんて、今はどうでもいいはずなのに。



「瑞希さん、行きましょう?」


沖田さんとはまた違った意味で感情のよめない微笑が私の顔を覗き込む。


それでも、名前を呼ぶその声は驚くほど優しい。



さっきまでの様子が嘘のようで。



「うんっ!!」


だから私は。


また、はぐらかされてしまうんだーーーーーーーーー。


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