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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第四章 壬生浪士組と平和なる日常
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第29話 絆を結ぶ、お花見作戦

計画当日。


私は当の本人である晴明君を誘うべく、彼の部屋へと向かった。



「あ、あの、桜庭さん?一体どこへ……?」

「いいから、いいから!!」


困惑した表情の晴明君の手を引き、目的の場所へと向かう。



満開の桜の木が生い茂った、ちょっとした丘を登り、下を見下ろすと既に準備は整っていた。


「おまたせっ、皆!!」


私の声に、集まっていた壬生浪士組メンバーが一斉に振り向く。


「あ、瑞希!!」

「新八君、連れてきたよー!!」


大きく手を振る新八君に手を振り返し、後ろを振り返る。


「これは……」


晴明君が、紫色の瞳を大きく見開き、呆然とした声を漏らす。


「今まで内緒にしててごめんね。今日はみんなでお花見なんだよ」

「お花見、ですか?」

「うん。これはね、みんなと桔梗君のためのお花見なんだよ!!」

「僕の……?」

「うん!ほら、行こう?」


未だ状況を飲み込めていない晴明君の手を引き、坂を一気に駆け下りる。


集まっていた仲間たち……一昨日、計画を一緒に練った三人を始め、土方さん、沖田さん、山南さん、斎藤さん、近藤さんは既に酒盛りを始めているようだった。


「二人が遅いから先に始めてしまったよ」


クスリと笑う原田さんは既に酒が入っているせいかいつも以上に色気を放っている。


「なぁ桔梗!!お前もこっちに来いよ!」


新八君が明るい笑顔で近づいてきて、突然のことで唖然としている晴明君の腕を引いてさっさと花見の席に加えていった。


「ほら、瑞希も来いって!!」

「うん!」


仲間たちのその言葉に私も大きく頷き、彼らの元へと駆け寄ったーーー。



********************



晴明君と気軽に話す機会を作るためのお花見は大成功で、最初は戸惑っていた晴明君も、個性的だが賑やかな新八君たちともうまく打ち解けたようだった。



「ああ、やっているね」

「あ、山南さん」


皆、酒が進み、かなり出来上がった頃、酔いつぶれ気味の新八君や原田さんに苦笑を向けながら山南さんが私のそばに移ってきた。


「あれ、土方さんたちの方はいいんですか?」

「ああ……彼らは既に潰れてるんだよ」

「うわ、本当だ」


山南さんが指差した方を見てみると泥酔した酔っ払いが倒れ伏していた。


「特に土方君は、酒、弱いのに飲むから……」

「あ、土方さんってお酒弱いんですね」


土方さん、見かけによらず下戸なんだ。


「瑞希君は飲まないのかい?」

「あ、私は20歳になるまで飲まないと決めてるんです」

「なるほど」

「ああ、私お酌でもしますよ!」

「ありがとう」


せっかくなので、山南さんに使っていないおちょこを渡し、お酒を注ごうとした、が、


「っ!?」


お酒を注ごうとした瞬間、一瞬山南さんの手が私の手に触れる。

直後、ビリッとした衝撃が伝わってきて私は勢いよく飛び退く。


「瑞希君?」

「あ、すみません!今、すごいビリッと来ませんでした!?」

「ビリッと?いや、しなかったと思うが……?」

「ええっ!?そ、そうですか……?」


あれ、おかしいな。

それじゃあ私の勘違い?それにしてはリアルだったけど……。


まぁ、いっか、気のせいでしょ。


「……ところで、瑞希君はご両親がいないそうだね」

「えっと……はい」


そこは事実なので素直に頷くと山南さんは優しく微笑み、私の頭をポンポンと軽く叩いた。


「そうか。いろいろ大変だっただろうね。私でよければ、いつでも相談事などしてほしい」

「あ、ありがとうございます!」


なんか、山南さんって、たしか歳は30ぐらいだったはずだけど、そうは見えないからお兄さんって感じかなと思っていたけど、なんか、お父さんみたいでもあるなぁと心の片隅で思う。



……お父さん、か。

私は捨て子だから、本当の親の顔は知らない。そもそも、子供を捨てるような親が山南さんみたいに優しい人なわけがない。

だからこそ、私は自分の本当の両親はどんな人だったのだろうかと考えてしまう時がある。


「おぉ〜い、山南さぁ〜ん!!あと瑞希ぃ〜。こっちに来いよ〜!!すごいものが見れるゾォ〜!!」


完全に酔っ払いと化した新八君が顔を真っ赤に染めて手招きをしている。


「すごいものってなんでしょうね?」


誰か芸でもやっているのか?


「行ってみよう」

「そうですね」


興味津々の山南さんの後を追い、新八君の元へと向かう。


「あれ、斎藤さんと……桔梗君?なにやってるの?」


そこにいたのは向かい合わせに座った斎藤さんと晴明君と、あと周りには新八君、原田さんの酔っ払い二人組とあまりのお酒は得意ではないから飲まないらしい平助君だった。


「……見てわからないか、桜庭」

「いえ、全く」


おびただしいほどの量の酒の空き瓶に囲まれた斎藤さんが無表情にそう言ってくる。


いや、まったくわからないんですが、斎藤さん。


「飲み比べですよ、桜庭さん」


斎藤さんの向かいから晴明君がおっとりとそう言った。


「飲み比べ?」

「はい。どちらがお酒を飲めるかを、競っているんですよ」

「ああなるほど」


よくよく晴明君の顔を見てみるとほおがほんのりと赤く色づき、紫色の瞳も潤んでいるのがわかる。

それでいて表情はいつも以上に優しい笑みなおかげで男とは思えないような可憐な色気を放っている。


こ、これはなんか、心臓に悪い。


なんとなく気恥ずかしくなって私は晴明君から視線を外した。



結局、その後、勝負は晴明君の勝ちで、彼につられて飲みまくった斎藤さん、新八君、原田さん、それと無理矢理のまされた平助君たちはあっけなく酔い潰され、地面に転がった。


晴明君の周りには一体どんだけ飲んだんだよと叫びたくなるほどの空き瓶が転がっていた。


「……すごいな……。斎藤君が潰されるの、初めて見たよ」

「斎藤さんって、強いんですか?」

「うん。隊士の中でもかなり強い方だと思ってたんだけど上には上がいるね」


ちなみに、山南さんもそれなりの量を飲んでいてもそこまで酔っていないところを見るとかなり強い方だろう。


「うわ、なにこれ」


と、後ろから聞こえた聞き覚えのある声に振り向く。

案の定、そこには顔をしかめて転がった空き瓶を眺めている沖田さんがいた。


「桔梗君と斎藤さんの飲み比べでみんな潰れました」

「ふぅん?一君が潰れるなんて珍しい」


沖田さんもそこには驚いたらしく、桔梗君と斎藤さんを交互に見比べている。


「沖田さんは酔ってなさそうですけど、あまり飲んでないんですか?」

「いや、それなりに飲んでるけど、ここまでじゃない。というか、こんだけ飲んでなんで君、酔わないの、桔梗君?」

「それは私も気になるな」


沖田さん、山南さんが興味深げに晴明君の方へ視線を送る。

それに気づいた晴明君はふんわりと微笑んだ。


「酔っていないわけではありませんよ……。僕は、酔うのは早いですから……。けれど、ほろ酔い状態からは絶対に進まないんです。ですから酔いつぶれはしない、ということですよ。なぜなのかは、わからないのですけれど」


そう言って小首を傾げる晴明君。


彼の動きに合わせ、真っ白の髪がさらりと揺れ、ほんのりと色づいた頰にかかる。

夢見るような紫色の瞳には悪戯っぽい色が浮かんでいて、口元に淡い微笑をたたえたその様はゾッとするほどに美しい。


いつも以上に色気の増した晴明君の姿にドクリと心臓が鼓動を速める。


「……桔梗君」

「はい……?」

「君、くれぐれも左之の前でその様見せないほうがいいよ」


沖田さんが珍しくげんなりした顔でそう言った。


……うん、私も切実にそう思うよ、晴明君。

これ見たらあの変態なら確実にその気になりそう。


「……と、いうか、あまり他の隊士たちの前でも見せないほうがいいかもしれない。そちらの趣味のない私でもそう思うぐらいだから…………その、やはり男所帯だと、そういう趣味に走ってしまっている隊士もいるから」


山南さんも苦笑を浮かべてそう同調する。


「……???わかりました???」


一人、意味がわかっていないらしい晴明君だけは、女の私でさえ可愛いと思ってしまうほどに可憐な所作で首をかしげるのだったーーーーーーー。


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