第27話 あなたの剣は好きです
【桜庭瑞希】
この時代、幕末に来てから10日ほど経ち、今日は沖田さんが私の教育係な最後の日である。
もともとの順応力もあり、私はこの時代で新選組の隊士であることにも慣れてきていた。
あの、私の剣を買った日からは大した事件やらトラブルは起こっていないが、まぁ、あることといえば、後々いろいろ起こす予定な壬生浪士組局長、芹沢鴨に出会ったことくらいである。
芹沢さんは予想通りなマッチョなおっさんで、結構沸点の低い人だなというのが私の感想だったりする。
沖田さんには、このひとにだけは絶対に女だとばれないようにしろと言われているので、今日に至るまでなるべく関わらないようにしているからまあ問題はないだろう。
そもそも、私は芹沢さんみたいなタイプはあまり好きではないし。
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今日は午後から剣術の鍛錬があるので私は約束の時刻よりも早めに道場へ向かう。
今日の教官は沖田さんなので、遅れでもしたら何を言われるかわかったものではないから、というのもそうだが、何よりも、稽古中の沖田さんはいつもとはまた違った意味で怖いのである。
天才な人にはありがちなことだが、自分にできることは他人にもできるだろうと思っているのか、容赦なく他の隊士をしばき倒す沖田さんははっきり言って土方さん以上に鬼だ。
とはいえ、私としてはより強い人に稽古してもらう方が楽しいので構わないといえばそれまでだけどね。
「あ、斎藤さん」
道場へ向かう途中、反対側からやってきた斎藤さんに声をかける。
斎藤さんはそれに対して無表情に応じるが、これは別に私が嫌われているからというわけではないらしく、斎藤さんにとっての通常運転が無表情無感動なのだという。
それを怖がる人も多いらしいが、私としてはクールイケメンな斎藤さんは目の保養にもなるし、結構付き合いやすいひとだったりもするのだ。
「桜庭か」
「はい!こっちから来たってことは、道場にいたんですか?」
「ああ。沖田と手合わせをしていた」
「沖田さんと?どうでした?」
「……5勝5敗」
「……沖田さんと10戦したんですか」
どんだけ負けず嫌いなんだ、二人とも。
「……桜庭」
「???」
「今度、手合わせしてくれ」
「!!了解です!!」
おお、斎藤さんと手合わせ!!楽しそう!
「……桜庭、お前は沖田が嫌いか?」
「え?」
さ、斎藤さんがいきなりなんでそんなことを……?
「沖田が、そう言っていた。そうなのか?」
「沖田さんが……」
確かに、私は面と向かって嫌いだって言ったけど……。
ひょっとして沖田さん、そのこと気にしていた……?
「沖田は、あいつは俺以上に自分の気持ちを表に出さない。それには理由があるらしいが」
「そう、なんですか……」
沖田さんは最初からああではなかった……?
過去に、何かあったの……?
「斎藤さん。私、沖田さんのこと、最初は嫌いでした。けど、今はちょっと違います」
「……そうか」
そう、この数日で、私の考えが変わったんですよ、斎藤さん。
「あ、私、そろそろ行かないと」
「ああ、行ってこい。沖田は怒らせると面倒だからな」
「本当ですよ〜」
あれはあれで土方さんと同じ鬼だよ。マジで。
けど、その沖田さんが、私の考えを変えたのも事実なんですよーーーーー。
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斎藤さんと話していたら遅くなってしまった。
時間通りとはいえ、道場からはすでに打ち合っているらしい声が聞こえてくる。
そしてその中でもひときわ目立つのが沖田さんの怒鳴り声だった。
「もっと真面目に打て!!そんな軽い剣では打ち合いになった時真っ先に死ぬぞ!!」
稽古中の沖田さんはいつもとはまた別の意味で怖いけど、私はこっちの沖田さんの方がいいと思っている。
ーーーいつも、沖田さんは「嘘」の笑みを浮かべている。
けれど、稽古中の沖田さんはいつでも真剣な顔をしている。
今も、たとえ相手が自分より腕が下な相手でも真剣勝負、手加減なしで挑んでいるのだ。
稽古中の沖田さんを見るたび、私は思ってしまう。
なぜ、普段の沖田さんは気さくに見えて、実、まるで他人を拒絶しているみたいな感情のよめない飄々とした態度をするのだろうか?
「次っ!!」
そう言って次の隊士に竹刀を向ける沖田さんは凛としていて、不覚にも「カッコイイ」なと思ってしまう。
「……瑞希君もそんなところで突っ立ってないで稽古に加わりなさい」
「あ、はいっ!!」
…………やっぱり気づかれてたか。
怒らせないうちに早く加わろう。
そうして私は沖田さんの元へ走り寄ったーーーーー。
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「お疲れ様、瑞希君」
稽古が終わり、いつもの笑顔に戻った沖田さんが声をかけてくる。
そのことに内心ほんの少しだけがっかりしつつも私は返事をかえした。
「お疲れ様です、沖田さん。今日で私の教官最後ですよね」
「ああそうだね。君にとっては良かったんじゃない?」
クスクスと腹のよめない笑みを浮かべる沖田さんをまっすぐと見上げる。
ーーー沖田さんはどうしていつも、こうやって自分の気持ちを隠すの……?
確かに、今でも人のやることする事いちいち揚げ足とる意地悪な沖田さんは嫌いだ。
沖田さんは、それで人が傷つくかもしれないなんてこと、考えてくれないから。
……けれど。
もしかして、それはなにか、理由があって、わざとやっているとしたら……?
「……そうでもないですよ、沖田さん」
「え……?」
確かに沖田さんは意地悪だ。
けど、沖田さんの剣に対する情熱だけは本物だと思う。
私は、自分の剣術が、フェンシングが好き。
だからこそ、私は、沖田さんに共感できる。
斎藤さんが言っていたこともあるが、それだけではなく最初の時より、ほんの少しだけど沖田さんを好ましく思う自分がいた。
だから。
「私、沖田さんの剣、好きですよ。沖田さんの、剣に対する心、そこだけは私と同じだから。私、沖田さんに稽古してもらうの、嫌いじゃないです。向こうでも、女だからって理由で、手加減したりしてくる人がいました。けど、沖田さんは私が女だと知っていても他の人と変わらずに指導してくれました。沖田さんのそういうところ、結構好ましく思ってます。だから、最初に思っていた時ほど、嫌じゃないです。一週間、ありがとうございました」
少し恥ずかしかったので早口にそう言い残し、沖田さんの返事も聞かずにその場を立ち去る。
私の思いが、沖田さんのひねくれた心に届くようにと、願いながら……………。
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【沖田総司】
「っ……」
……ほんとうに、君は罪作りな子だね。
あんな言葉言われたんじゃあ、勘違いされても文句は言えないよ?
心臓の鼓動は今もやっぱり少し速い。
さっきの、はにかんだような瑞希ちゃんの顔が頭から離れない。
ああ。
僕は……。
一体どうしてしまったんだろう?




