第24話 大阪へGO!
次の日の朝。
土方さんの許可を取り、私は沖田さんとともに大阪に行くことになった、のだが。
「へ、徒歩!?」
「何で行くと思ってたの、君」
ーーーそうだった。
この時代に、新幹線や電車などという便利なものはない。
籠が徒歩かの二択である。
当然、ある意味でボランティアのような壬生浪士組に、籠代を出してもらえるはずもなく、その移動手段は徒歩の一択だった。
「……どれぐらいかかるんですかね?」
「君次第じゃない?」
「マジですか」
明日筋肉痛確定ジャナイデスカ。
「あ、桜庭さんと沖田さん」
屯所を出るとき、門のそばで晴明君と会った。
今日も袴姿な晴明君に、密かに萌えているのは内緒な話。
私の内心の煩悩を知らない晴明君はいつもながらの淡い微笑を浮かべた。
「お出かけですか?」
「うん。大阪に行ってくるよ」
「大阪?」
紫の瞳をわずかに見張って首をかしげた晴明君を見て、私はあることを思いついた。
「ねぇ桔梗君」
「はい?」
「陰陽術でさ、なにか、遠くへ飛んでいけるようなの、ない?」
ほら、式神で空を飛ぶとか。
「……ない事はないですが……」
「え、ほんと!?」
「ただ……着地の保証はしかねます」
「……。……ちゃんと歩く」
「その方がよろしいかと」
うん、楽しようとするとバチがあたるね。
人生そこまで甘くないのだ。
「代わりと言ってはなんですが、これをどうぞ」
「ん?これなに?」
苦笑を浮かべた晴明君に渡されたのは小さなお守りみたいなものだった。
「旅のお守りです」
「おー!!陰陽師特製お守り!ありがとう桔梗君!!」
やっぱり晴明君は優しいーーー!!
「ところで沖田さん、大阪まで行って、今日中に帰ってこられるんですか?」
「いや、無理だと思うよ。だから土方さんに外泊許可取っておいたから」
「外泊かぁ。宿、温泉あるといいですね!!」
「……君、目的忘れてない?」
「忘れてませんよ!!新しい剣を買いに行くのです!!」
それも楽しみだけど、宿も楽しんだっていいじゃない?
そういうところは楽しむべきですよ沖田さん。
「……君の思考回路にはある意味で感服するよ」
沖田さんが呆れたような眼差しで私を見下ろしてくる。
別にいいもん。
沖田さんと楽しもうなんて思ってないし。一人で勝手に楽しませてもらいますから!!
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ーーー結局、早朝に屯所を出発して、目的地に着いたのはその日の夕方だった。
「つ、疲れた……」
し、死ぬ。マジで死ぬ。
なんでこんなに遠いのよっ!!
ふくらはぎがパンパンなんですけど!?
「君のせいで無駄に時間かかっちゃったよ?」
冷ややかな眼差しで嫌味を言う沖田さんに言い返す体力もなく、結局、私たちは買い物は明日にして今日は宿で休むことにした。
の、だが。
「宿が一室しか取れない?」
「申し訳ありません……」
近くの宿は季節外れにいっぱいで、一部屋しか取れないという。
「ちょっと遠いけど、別の宿に行ってみる?」
と、提案してくる沖田さん。
「いや、めんどくさいです。疲れましたし。別にいいじゃないですか。一つの部屋に二人で泊まれば」
私は全然気にしない。
男友達とお泊まりしたこと結構あるし。
気になるならなんかで仕切ればいい。
私の投げやりな発言に、沖田さんは一瞬固まったが、すぐにいつもの笑みを浮かべて宿屋の主人にその部屋の手配を指示した。
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「わぁ……!!広い!!」
部屋は思ったよりも広く、修学旅行とかで泊まった部屋よりもはるかに広い。
残念ながら温泉はなかったが、軽い湯浴みをする場所はあったのでそれを手早く済ませ、早めの夕食をとって部屋に戻る。
「……君、よく食べるね」
以外にも小食な上に好き嫌いの多い沖田さんが、残念なものを見る目で私を眺めている。
失礼な。
「沖田さんが食べなさすぎるんですよ」
「いや、確かに僕は小食ではあるけど、君の食欲はおよそ女のものじゃないよ?」
「悪かったですねぇ、大食らいで!!」
相変わらず失礼なことを言う沖田さん。
もう慣れたけど。
「それじゃあ私もう寝ますね」
一言そう言って押入れの中から布団を引っ張り出す。
が、押入れが思ったよりも高い位置にあったのと、予想外に布団が重かったこともあり、私はバランスを崩した。
「ふぎゃあ!!」
色気もへったくれもない悲鳴をあげた私をあざ笑うかのように、無慈悲な布団軍団が尻餅をついた私めがけて降ってくる。
あ、押しつぶされる。
覚悟を決めてギュッと目をつぶった。
……………………………………。
……………………………。
……あれ?
覚悟していた衝撃がこない。
不思議に思ってそろりと目を開けてみると……。
「あ……」
「ほんと、君、どんくさいね」
「お、沖田さん……」
いたずらっぽい笑みを浮かべた沖田さんと目が合う。
カアーーーッと、ほおに熱が集まるのを感じた。
「ふふっ、瑞季ちゃん、顔真っ赤だよ?」
「っ……!!」
なだれ落ちてくる布団たちを片手で押し戻しながら、沖田さんは楽しげな笑みを浮かべてそう言った。
私は息を呑み、熱を持ったほおを隠すように顔を背ける。
「よいしょっ、と。ほら、ちょっとそこどいて」
そのまま沖田さんは尻餅をついたまま硬直している私の横をすり抜け、テキパキと布団を敷いていく。
「終わったよ」
「あ……あ、ありがとうございます」
慌てて立ち上がり、礼を言う。
「別に?君がやるよりも僕がやったほうが早いからやっただけだけど?君に布団ぶちまけられたら、僕の仕事増えるし。ま、無様に転んだ君の間抜け面が拝めたから楽しかったからいいけどね★」
「……あっそうですか」
助けてくれたんじゃなかったんかい!!
どこまでも沖田さんは沖田さんだなっ!!
さっきの、助けてくれた時の沖田さん、ちょっとカッコいいかなとか思った乙女の純情返しやがれ!!
「……もう私寝ます。おやすみなさい」
早口にそうまくし立て、私は不貞腐れた顔で布団に潜り込んだ。




