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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第二章 壬生浪士組
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第21話 救世主な斎藤さん

【桜庭瑞希】


ーーー朝。


新選組メンバー(歴史上の人物)に会えるなんて、楽しみすぎて眠れないーーーなんて思った自分はどこぞへ行った。


寝巻き(浴衣みたいなやつ)と次の日の服(もちろん袴)まで用意されたその部屋の布団の上で目を覚ました私。


……そして石化。


「おはよう、瑞希ちゃん」


無駄に整った沖田さんの顔が目の前にドアップで広がっている。


「うひぎゃあっ!!」


直後、奇妙な悲鳴をあげて飛び起きた。


「うっわぁ……。本当に色気のない声」

「な、なんでいるんですか沖田さんっ!!」

「迎えに来たからだけど?」


いやいや、どう考えてもそれだけをしに来たわけじゃないでしょ!!


「大丈夫。君みたいな色気のないお子様に手なんて出さないから♪」

「そ、そういう問題ですか!?」


ニコッと若干哀れむような笑みで答える沖田さんを睨みつけてやる。

もっとも、当の本人はどこ吹く風といった様子だが。


「ところでさ、瑞希ちゃん。君、いつまでそんな格好でいるの?」

「へ?そんな格好って……ひにゃああああっ!!」


そもそも浴衣で寝たことのないせいか、胸元はガバリと開いて中に着ている下着が思いっきり見えていて、裾もガバリとめくれて素足が見えている。


「瑞希ちゃんったら、下品だなぁ」

「な、慣れてないんだからしょうがないでしょ!!」

「そんなこと言ってないで早く直しなよ。見苦しいよ?」

「み、見苦し……分かりましたよ」


何故か少し怒った様子の沖田さんに急かされ、浴衣を整える。


「早くその袴に着替えて。桔梗君はもう準備を終えて待ってるよ?」

「は、はい!!」


沖田さんが出て行った部屋でなんとか袴を着終える。髪は持っていたゴムで一本に縛る。


部屋から出ると私と同じような袴姿の晴明君がいた。


「おはようございます、桜庭さん」

「あ、うん、おはよう。今日は袴なんだね」

「ええ」


落ち着いた薄い水色の袴は晴明君の特徴的な紫色の瞳とよく似合っている。

風邪が治ったおかげで血の気の戻った頬はしかし相変わらず白く、真っ白な肩ほどの髪は彼の動きに合わせてふわりふわりと揺れていた。

微笑を浮かべたその姿はまるでおとぎ話に出てくるような王子様みたいで美しい。


「桜庭さん?」

「あ、いや、なんでもないよ!!」


訝しむような晴明君の声にはたと我に帰る。いつもより少し早い心臓の鼓動を悟られないように首を振る。


「行きましょうか、桜庭さん」

「あ、うん」


にっこりと微笑む晴明君の声に心臓が跳ねる。


「ほら、早く行くよ二人とも」

「あ、はい!!」


いつも腹のよめない笑顔の沖田さんには珍しく、どことなく不機嫌な表情の沖田さんが声に少し苛立ちを交えてそう言った。


ーーーあれ?

なんか、不機嫌?

私なんかしたっけ?

ひょっとして、準備が遅かったからかな?


「瑞希ちゃん、置いて行くよ」

「あ、ちょっと待って!!」


置いてかれたらどこに行けばいいかわからない!!


そう思い、私は沖田さんたちの後を慌てて追いかけたーーーーー。



********************



「着いたよ」


賑やかな声が聞こえる部屋の前で立ち止まる沖田さん。


向かい側からは土方さんと近藤さんがやってくるのが見えた。


「おはようございます、近藤さん、土方さん」

「ああ、おはよう、桜庭君」


にこやかに応じる近藤さんとは対照的に土方さんはちらりと私たちを見下ろしただけで何も言わない。

感じ悪いわー。


あれ?と思って辺りを見渡すと、沖田さんの姿はいつの間にか消えていた。

沖田さん、あなたは幽霊かなんかですか。


「さて、と。それじゃあ入るか」


そう言って近藤さんが勢いよく襖を開ける。

その瞬間、室内が水を打ったように静まり返る。


近藤さんたちに促され、私と晴明君もその隣に立つ。


その瞬間、部屋中の視線が一気に集まるのを感じた。


「食事中すまないが、今日から新しく入る隊士を紹介する。さ、二人とも」


トンっと肩を叩かれ、前に押し出される私たち。


「え、えっと、あ、新しく入隊しました、桜庭瑞希ですっ!!よろしくお願いしますっ!!」

「……同じく小鳥遊桔梗です。以後、お見知り置きを」


緊張でかみかみな私とは対照的に晴明君は淡い微笑を浮かべてそう自己紹介する。


「二人の席はあそこだ。食べ終わったら俺の部屋へ来い」


土方さんの示した席へ急いで座る。

土方さんたちが去った途端、私たちは一斉に取り囲まれることとなったーーーーー。



********************



「つ、疲れた……」


朝ごはんを食べるだけだというのにこんなに疲れるとは。


さっきの部屋にいたのは平隊士らしく、有名どころのメンバーはすでにいなかったが、私たちは食事中ずっと質問の嵐にあっていた。


「そう、ですね」


とくに良くも悪くも目立つ容姿をしているせいで私以上の注目の的になっていた晴明君も疲れ切ったような苦笑を浮かべている。

彼はどうやら本当に男なのかと疑われたらしい。

本物の女なのに全く疑われる様子のない私はどうなの?


「ところでせ……桔梗君」

「はい?」

「土方さんの部屋って、どこだろう?」

「……」

「……」



……デスヨネ。



「……どうしよう?」


あまり遅くなったら土方さんの雷が落ちるのは必須だ。


「あの人に聞いてみましょうか」


ふと、晴明君が前方からやってきた人影を見て言う。


「あ、本当だ!!……あの、すみません!!」


早足で近づき、声をかける。


「……何か用か?」

「あ……」


年は沖田さんと同じぐらいか。少し長い黒髪は首の後ろで一つにくくられ、切れ長の目は無感動で少し冷ややかだが、不思議と怖いとは感じない。

顔立ちは端正に整った文句無しのイケメンで、クールな一匹狼という印象の青年だ。


「……見ない顔だな」

「あ、えっと……」


私たちを見比べ、青年は無表情に目を細めた。


「私たちは今日から入隊したんです!」

「……なるほど。ということは、土方さんが言っていた桜庭瑞希と小鳥遊桔梗か?」

「そ、そうです。私が桜庭瑞希で、こっちが……」

「小鳥遊桔梗です」

「……ひょっとして、土方さんに呼ばれているのか?」

「あ、はい、そうなんですけど……。土方さんの部屋がどこにあるかわからなくて。」

「……案内してやる」

「え、本当ですか!?」

「ああ。俺も呼ばれているからな」


この人救世主!!

神だ!!


「ありがとうごさいます!!えっと……」

「俺は斎藤一だ」

「え」


斎藤一……!?

この人が!?


「……?どうかしたのか?」

「い、いえ、よろしくお願いします、斎藤さん!」


いやいや、まさかこんなところで会えるなんてっ!!

私って結構ついてる!?



それにしても、さすがは新選組。美形が多い。他の人たちもそうなのだろうか?


そんな煩悩だらけの期待を胸に、私たちは急ぎ、土方さんの部屋へと向かった。



********************



【斎藤一】


土方さんに呼ばれ、道中、新人隊士らしい2人に出会った。


桜庭瑞希と小鳥遊桔梗。


桜庭瑞希と名乗った方は背が小さく、表情のくるくると変わる奴で、俺の名前を聞いてなぜか驚いた顔をした。


小鳥遊桔梗の方は妙な髪と目の色をしていて、女みたいな顔をしている。


どうやら土方さんの部屋への道がわからなかったようで、案内してやると言ったら桜庭はパッと目を輝かせてきた。



……犬みたいだ。


ーーー俺と顔を合わせて、これだけ笑顔に接してくる奴ははじめてかもしれない。


ーーーその原因が、俺自身、感情を表に表すのが苦手であり、その結果無表情でいることが多くなるから、という理由なのだが、こればかりは自分でもどうしようもない。


そんな桜庭を見て小鳥遊は苦笑を浮かべている。



桜庭は土方さんの話によると、総司をギリギリまで追い詰めたほどの腕を持っているらしい。

一度手合わせをしてもらいたいものだ。


小鳥遊の方は占い師らしく、しかもかなりよくあたるらしい。



面白い新人だ。


これは楽しくなりそうだな。


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