第20話 陰陽術の使い方
手合わせの後、私は汗をかいたので風呂……というわけにはいかないが、近藤さんたちの許可を取って、台所で水を温めて湯浴みをし、ついでにそのお湯をタライに入れて晴明君の所へ向かう。
タライと綺麗な手ぬぐいと、ついでに作ったおにぎりを渡し(私も台所で食べておいた)、身体を拭くように言って部屋を出る。
熱は今日1日休んでいたらおかげですっかり下がったらしい。
「もう大丈夫ですよ、桜庭さん」
「あ、りょーかい」
部屋に戻り、タライと手ぬぐいを片付けて戻るとそこには近藤さんたちが来ていた。
「あ」
「ああ、おかえり、桜庭君」
相変わらずの優しそうな笑顔で近藤さんが迎えてくれる。
これまたお約束のようだが土方さんは仏頂面、沖田さんは本心のよめない笑みを浮かべている。
「さて、私たちはそろそろ部屋に戻るよ。総司は彼女に部屋の案内をしてやってくれ」
「了解です」
そう言って近藤さんと土方さんは部屋を後にした。
「なんの話をしていたの?」
「……僕の今後のことですよ、桜庭さん」
「せいめ……桔梗君の?」
危ない危ない。
また同じことを繰り返すところだった。
「桜庭さんはここの隊士になったんですよね」
「うん。そうだよ。もしかして、桔梗君も?」
「ええ、まぁ。少し特殊な役職ではありますが」
「特殊な?」
「彼は占い師だっていうことにしたんだよ」
「ええっ!?」
驚いて晴明君を見返す。
晴明君は淡い笑みを浮かべて頷いた。
「……この時代に来てから、前のように術を使うことはできませんが……『気』が違いますから。とはいえ、簡単な、式を使ったりなど、できることもあります。それを皆さんのお役に立てられれば、と」
「そうなんだ……。っていうことは、情報収集係とか、みたいな?」
「そうなりますね」
なるほど。
たしかに、それは適任かもしれない。
「まぁ、近藤さんたちにも最初は信じてもらえなかったけど、彼に土方さんの豊玉発句集の歌を当ててもらったらすぐに信じてもらえたよ★」
「うわ……」
よ、容赦ない。
土方さんの鬼の形相が眼に浮かぶ。
「まぁ、二人には伝えてないけど、桔梗君の役目はそれだけじゃないよ」
「え?」
「これは、僕ら3人の秘密だけど、彼には僕らの後方支援をしてもらうんだ」
「後方支援?」
「はい。先ほども申し上げたとおり、僕は式を飛ばしたりとそれなりの術は使えます。そのことは近藤さんたちには伝えていません。ですが、その力を使えば、お二人が安全に任務を全うできるかと思います」
「おー、それはなんか面白そう!!よろしくね、桔梗君!」
たしかに、式で相手の位置を割り出してくれたりしたら闇討ちされないし、安全だね!!
「あっ、でも……」
「はい? 」
ーーーそういえば……。
「この時代って、民間占い師はダメなんじゃ? 」
「ああ、そこのところは近藤さんは良いよって言ってくれたし、最後まで渋ってた土方さんは豊玉発句集で脅し……お願いしたら大丈夫だったよ★」
「……」
ーーーう、うわぁ……。
やっぱ沖田さん、敵に回したくない……。
……よし、これ以上深く考えないことにしよう。
「ところで桔梗君、式ってどんなの?」
「あ、それは僕も知りたいな」
なんともファンタジーな「陰陽術」に、なんとなく興味を覚えて聞いてみる。
沖田さんも同じなのか、目を輝かせていた。
「そう……ですね。実演してみるのが早いかもしれません」
そう言って晴明君はどこから取り出したのか一枚の小さな紙切れを両手にのせ、小さく呟いた。
「『発』」
瞬間、紙切れが小さな揚羽蝶の姿に変わり、ひらりと舞い上がり、外へと飛んで行った。
「へぇ……」
「す、すごいっ!!」
「……これは簡単な式ですよ」
「でもすごいよ桔梗君!!沖田さんもそう思いませんか!?」
「うん、たしかにすごいね。これで僕も彼が陰陽師、『安倍晴明』だと信じられるかも」
「あ、そういえばそうだ!!」
「え、今頃気付いたの、瑞希ちゃん?」
「う、うるさいですよ!」
「ふふっ」
私たちの問答に、晴明君が小さな笑いを漏らす。
「さて、と。そろそろ瑞希ちゃんは部屋に戻ったほうがいいよ。ちなみに、部屋はこの部屋の隣ね」
「あ、そうですね。そういえば、私は明日からどうすればいいんですか?」
「ああ、それについての説明は明日の朝土方さんが二人をみんなに紹介するみたいだからその時わかるんじゃない?桔梗君も明日は来られるよね?」
「了解です!」
「はい、大丈夫です」
と、いうことは、いよいよ明日新選組のメンバーとご対面できるってことか!!
うわぁ!!
楽しみだなっ♪
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【沖田総司】
瑞希ちゃんを見送り、部屋には僕と桔梗君だけになる。
「……桜庭さんと手合わせをしたそうですね」
淡い笑みを浮かべた桔梗君が静かな声音でそう言ってくる。
「うん、そうだよ。瑞希ちゃん、ああ見えてかなり強かったよ」
「そうなんですか?」
紫の特徴的な目が見開かれる。
まぁ、そういう反応になるよね。
僕も、まさか女の子にあそこまで追い詰められるとは思わなかった。
しかも、僕の得意な三段突きも躱されちゃったし。
……それにしても。
「ところでさ、桔梗君。君はいいの?」
「いいの、とは?」
……わかっているくせに。
「だから、君は刀を持つ隊士にならなくていいのってことだよ」
「……」
「だって君、刀、使えるでしょ?しかも、見た所、結構な腕だよね?」
「……」
一目見てわかったよ。
桔梗君は、かなりの使い手だ。
それなのに、それを自分から言いだすことはなかった。
「……僕には、無理ですよ」
「どうして?」
紫の目に自嘲気味な色が宿る。
「あなたも、すぐに分かりますよ」
そう言い、彼は静かな笑みを浮かべた。
ーーーそれは、僕と同じ笑み。
己の本心を隠す、「嘘」の笑み。
ーーー彼は、僕とある意味で、同類だ。
「ふぅん?ま、いいや」
僕は別に、君の隠し事になんて興味ないからね。
それに、君が僕の本心をわからないだろうことと同じように、僕にも彼の本心は推し量れない。
ただ、ひとつだけわかったことがある。
ーーーこの少年は、本当の意味での「闇」だ。
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【安倍晴明】
ーーーごめんなさい、沖田さん。
僕は、「あの人」と出会った日、剣を持つことをやめたのです。
ーーー僕の剣は、「黒い剣」。
それはとても醜く、人に見せるべきものではないのだから……。




