第18話 隊士にしてください
沖田さんに連れられ、私は局長室への道を急いだ。
晴明君はまだ体調が回復していないので沖田さんの部屋で待っている。
どうやら、留守にしていた近藤さんたちが帰ってきたらしい。
近藤さんたちが一体何をしていたのか、微妙に疑問だったが、聞いても沖田さんには曖昧な顔でごまかされてしまった。
……余計に気になるよ、沖田さん。
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「近藤さん。沖田です。入りますよ」
そう断りを入れ、沖田さんはとある一室の襖を開いた。
私の心臓はそれと同時にドクリと緊張で跳ね上がった。
「遅いぞ総司」
入室直後、不機嫌顔の土方さんが、ぶっきらぼうにそう言った。
……この人は年がら年中不機嫌顔なのだろうか?眉間に皺が残ると思うよ、土方さん。
……まぁ、言いはしないけど。私も命は惜しい。
「まぁまぁ歳、そう目くじら立てんでもいいだろう」
部屋の上座に座ったガタイの良い、「お父さん」というような感じの人が、苦笑を浮かべながら土方さんを諌める。
……この人が未来の新選組局長、近藤勇……。
その人を見て、私は内心ホッとする。なんだかとりあえずは優しそうだ。これで近藤さんまで土方さんみたいな鬼だったらどうしようかと思ったよ。
沖田さんに促され、近藤さんの正面に正座する。
土方さんの睨むような視線が突き刺さる。
「歳から話は聞いている。君が桜庭瑞希さんだね?」
「は、はい」
「はじめまして、だね。私は近藤勇という。そう、緊張しなくてもいい」
私の上ずった声から緊張を察したのか、近藤さんはそう、穏やかな口調で言ってくれた。
おおー近藤さん優しい。
鬼の土方さんとは大違い。
「今日まで君たちを軟禁状態にしてしまってすまないね。もう一人の……小鳥遊桔梗といったかな?彼の体調はどうだね?」
「あ、えっと、昨日よりは元気になったみたいです」
「そうか、それは良かった。して……君の家はどこにあるのかな?」
「え……と……」
そういえば、私たち、その手の質問されてないね。
土方さんたちとの問答じゃあ、長州の間者か云々の言い合いしてたから忘れてたよ。
とはいえ、この質問に素直に答えるわけにはいかない。
ちらりと沖田さんの方を見ると、頑張れ的な視線を返された。
……ほんと、ドSだ。
「……家は、ないです」
「家がない?」
「私に、親なんていませんから」
ちなみに、これは本当のことだ。
私には、現代に帰っても親はいない。
私はまだ1歳にも満たない赤ん坊の頃、両親に捨てられ、今の養父母……桜庭一家に拾われた。
だから、本当の意味で、私には親がいない。
「……訳あり、ということかい?」
「……」
「……歳」
「何ですか近藤さん」
「この子らをここに置いてあげたらどうだろうか?」
「なっ……!?近藤さん、それは無理ですよ!?あの小僧の方はともかく、ここは女人禁制です!!そもそも、こんな怪しい輩を屯所に置くわけには……!!」
「だがなぁ歳、このまま外にほっぽり出すわけにも行かんだろう」
「それは……」
「いいんじゃないですか、土方さん」
今まで傍観に徹していた沖田さんが口を挟む。
「なに……?」
「女人禁制なら、別に男装させればいいじゃないですか。この子、この通り色気ないし。侍従にでもすればいいんですよ。そうすれば監視もしやすいですしね〜」
「おお、総司、それはいい案だ!!よし、そうしよう!!いいだろう、歳?」
「……近藤さんがそう言うなら」
苦虫を噛み潰したような表情で頷く土方さん。
なんか、当人抜きで話が進んでしまっている気がするのは気のせいだろうか?
……侍従、か。
私の脳裏に、私の唯一の特技とも言える「あるもの」の存在が閃いた。
あれを使えば。
侍従とかよりも。
私は……。
「……あの、近藤さん」
「ん?どうかしたかね?」
「あの、無理は承知なんですけど……」
私が、沖田さんとの取引のため、いや、私の今の目的のためにも、なりたいもの。
そして、私は幸運なことに、それになるだけの技術を持っている。
「私を、ここの隊士にしてくれませんか?」
「「「はぁ!?」」」
私の言葉に、三人が息を飲む。
「……お前、本気で言ってるのか?」
「はい」
土方さんが眉間に深いしわを寄せ、私を睨みつけてきた。
「お前……俺たちの役目は、遊びじゃないぞ?そんな、刀も持ったことのないような女子供にできるものじゃねぇ」
「だったら、私が、刀が使えるとしたら、どうですか?」
「なに?」
私は現代ではごく普通の女子高生だ。
ーーーそう。
ある一つの特技を除いては。
「もしかして、瑞希ちゃん、剣術でもやっていたの?」
「いいえ」
沖田さんの言葉に私は否定を返す。
私は剣道をやっていた経歴はない。
それは多分、袴が切着れないことからも沖田さんにはわかっているだろう。
そりゃあ、着れないのは当然。
だって私がやっていたのは、剣道ではないから。
私がやっていたのは……。
フェンシングだ。
これが、私の唯一の特技。
実は私、これでもフェンシングの男女混合の全国大会で優勝しているのだ。
「私がやっていたのは剣道ではありません。……多分皆さんが知らない剣術……フェンシングというものです」
「……ふぇんしんぐ?」
「はい。一言で説明するなら、西洋風剣道です」
「西洋風……ということは異国の剣術か?」
土方さんが驚いたように目を見開く。
「そうです。私、これでも結構フェンシングは強いんですよ。腕も見ていないのに、女だからっていう理由で隊士にしないなんてことしないでほしいです」
そう、少し挑発気味に言ってやる。
土方さんの眉がピクリと跳ねた。
「歳、そこまで言うのなら、一度見てみよう」
「そうですね」
近藤さんの言葉に、土方さんも了承の意を示す。
沖田さんは面白いものを見るような目で私を眺めていた。
「総司、お前が相手してやれ」
「へ」
「僕がですか?了解です♪」
沖田さんが待ってましたとばかりに上機嫌に返事をする。
ちょっ、ちょっと待って!!
そりゃあ、それなりに腕に自信はあるけども!!
天才剣士、沖田総司とやるんですか、私!?
「僕、手加減はしないよ★」
沖田さんの笑顔に、私は引きつった笑顔を返すのであったーーー。




