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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第十二章 決戦!命をかけた五条大橋!!
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第163話 物理なら、勝てるんです

「ハルー。入るよー? 」


そう一声かけ、障子に手をかける。

と、


「え? あ、瑞希さん!? ちょっ、ちょっと待ってくださいっ!! 」


バタバタバタッと、中から焦ったようなハルの声と何かをやっているらしき音が中から聞こえてきた。


……おやぁ?おかしいですねぇー?


「ハル? 」

「っ、すみませんっ! ……どうぞ」


入室許可の返答に、障子を即座に右へ引く。


部屋にはさっきとは違う着流しに着替えたハルがいた。


「……少々着替えていたので。待たせてしまい、すみません」

「それはいいんだけど……私がここに来るまで、ハルは何してたのかな〜? もうだいぶ時間経ったよね〜? 」

「う……それは、その……部屋に戻る途中、原田さんと永倉さんに会いまして……」

「あー、あの二人かぁ」


ーーーなるほど。


その2人に廊下で会って、少し話をしていたと。


「……まぁ、それは仕方ないか。ハルがいないってなった時、あの二人も一緒に探してくれたわけだから」

「……その節は、本当に……」

「で? 」

「はい? 」


もう一度謝ろうとしたハルを遮り、私は笑顔で問いかけた。


「昨日は一体どんな要件でどこに行っていたのかなぁ、ハル? 」

「っ……!! 」


ーーーそんな顔したって、逃がさないよ〜ハル〜?


「包み隠さず、全部話してね? 」

「は、はい……」



********************



「……つまり」


ーーー私は今しがた聞いた、信じがたいことを繰り返し口にした。


「金毛九尾は、『人』じゃない……ってこと?」

「はい。ほぼ、間違いなく」


ーーーいやいや、嘘でしょ?


「金毛九尾は、間違いなく妖、人ならざるものです。……すでにその残滓はごく小さなものになっていて、その正体までは正確なことは言えませんが」

「妖、って……。それって、こう、普通の人には見えなかったりするんじゃないの? 」


そういう特別な目を持った、陰陽師とかにしか見えないような……。


「ええ、本来ならば。……けれど例外はあります」

「例外? 」

「逆に、瑞希さんたちに見えているということで、残滓ではわからずとも、金毛九尾の正体を大方予測することはできます」

「え、どうして? 」

「妖とは、その個人的に持つ力によって、その存在を確定させるものです。力が弱いものはその存在そのものが曖昧であり、故に常人の目にはうつらない」

「え、じゃあそれって……!! 」


ーーーもしかして……。


「はい。それはつまり、金毛九尾……彼が相当な力を持った妖であることの証明なのです」

「そっか、だから……」


もし、金毛九尾が力の強い妖であるというのなら、すべてのことのつじつまが合う。


あの、常人とは思えない剣技とそれに伴わない幼い容姿。

そして、30年前の金毛九尾と自身は同一人物だという見た目10歳前後の少年姿。


全てが、その理由ならば説明がつくのだ。


「金毛九尾……。ねぇ、ハル。ひょっとしてだけどさ……」


悪人を斬る、辻斬り、「金毛九尾」。


金毛九尾(・・・・)って……ほら、そんな風な名前の妖怪、いや、妖がいたよね……? 」


あの子の正体って、もしかして……。


「いいえ。彼は、かの妖、『金毛九尾』ではありませんよ」

「えっ!? 」


ち、ちがうの!?


あれっ!?


「でも、ハルさっき言ったよね?金毛九尾の正体、正確なことは言えないって」

「はい。……ですが、金毛九尾は、瑞希さんが想像している唐国の妖、『金毛九尾』ではありません。彼は、金毛九尾はおろか、狐に関わる妖でもありません。それだけは断言できます」

「それって……」


ーーーもしかして。


「ひょっとして、ハルが天狐の、狐の妖の血を引いているからわかる、とか? 」

「ええ、その通りです」


頷き、淡い微笑みを浮かべる。


「彼が、僕と同じ狐の妖の血を引いているのだとしたらたとえ少ない残滓であったとしてもわかるはずです。ですが、そうではないということは、彼に狐の妖の血は流れていない」

「……どうすれば、金毛九尾の正体、わかる? 」

「それは、直接『視る』他ないかと」

「それはダメ! 」


何の備えもなしに、ハルと金毛九尾を対峙させるなんて、できるはずがない!


金毛九尾は今まで「悪人」しか殺さなかった。


だけど、あの時、私を刺したと思っていたはずの彼の様子はおかしかった。

今もまだ、彼が「悪人」のみを殺めるとは限らない。

金毛九尾はいま、その姿を消している。

その目的がわからない以上、まだ万全じゃないハルが金毛九尾のもとに姿を見せるのは危険すぎる。


「わかっていますよ、瑞希さん」


私の考えていることを予想していたのか、ハルが微笑み浮かべたまま小さく頷いた。


「僕だって、そうやすやすと命を落とすような真似はしません。それに、金毛九尾が妖だとわかったいまなら、それに対抗する手段を考えるのは難しくはありませんよ」

「というと? 」


対抗手段がわかるの?


「妖は、大きく分けて2つの種類に分かれます。1つ目は呪いや術、つまり目に見えない力を扱う妖。例えば、件などがこれに該当します」

「あ、それに知ってる!! 予言をする牛の妖だよね? 」

「はい。……そして2つ目は目に見える力、つまりは腕力や武器による直接的な力を振るうものです。被害の規模ではこちらの方が大きくなりやすいですが、目に見える力である以上、対処は楽でしょう」

「そっか! ってことは……」

「瑞希さんの予想通り。金毛九尾は剣術によって瑞希さんたちを圧倒しました。術が使えるならばそちらの方が手っ取り早いにもかかわらず。つまり、金毛九尾は後者のあやかしに属すると思われます。それならば、人のみでも対抗しやすい」

「それは、まだ目に見える力だから? 」

「ええ。呪いだった場合では、もうこれは術比べ、いまから習得するのには時間がかかりすぎて不可能ですから」


それはわかる。

さすがに私も、毎日毎日呪文的なもの唱え続けるのはきつい。


「だけど……金毛九尾が物理的、単純に力とか速さで勝っている場合だって、勝てないんじゃない? 」


いまから稽古したって、そんな規格外な強さに勝てるようにするには相当の訓練時間が必要だ。


そもそも、腕力もスピードも段違い。勝てる気がしないのは私が弱気だからではないはず。


「大丈夫ですよ、瑞希さん。そこは、僕の……陰陽師の腕の見せ所です」

「どういうこと? 」


それがどういう意味なのか、首をかしげる私に、ハルは優美な笑みを浮かべて言った。


「強大な力に対し、同じ力を持って返す必要はありません。ようは、柔よく剛を制する、ですよ」


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