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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第十二章 決戦!命をかけた五条大橋!!
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第161話 これは予想外です

ーーー夢を見た。


桜。


雨。


……断片的なその映像は、あの日、僕が見たものだ。


「……葵」


桜は、美しい。

けれど、その美しさがそこで散ったものの残酷さを嫌というほどに突きつける。

失ったものの大切さ、その喪失感、そして激しい後悔と自身への憤り。


ありとあらゆるそれらの感情を、僕はこの木のそばで思い知らされた。


「……そういえば、道満は桜が嫌いだと言っていましたね」


ーーー桜は、大切なものを奪っていくから。


彼女はそう言って、恨めしげに桜を見上げていた。


「……大切なものを、奪っていく」


確かに、桜は、僕にとっても死の象徴です。

葵は、この木のそばで逝った。


桜は、僕からも、最も大切なものを奪っていった。


「……けれど」


ーーーどうして桜を嫌いになれましょうか?


葵が自分の好きな花だと言って、嬉しそうに見上げたそれを。


『桜は、すぐに散ってしまう儚い花だよ。だけどね、ハル。私はそんな桜が好き。短くても、こんなに綺麗に咲く桜が好き』


ーーー桜は、大切なものを奪い。


けれども、僕に、「あの気持ち」を与えてくれた。


だから僕は。


ーーー桜を嫌いになれない。



********************



「……う……」


軽い身じろぎの後、ゆっくりと瞳を開くと視界に、明るい光が飛び込んできた。


と、同時に、


「ああ、目が覚めましたか」


ーーーという言葉が頭の上から降ってきた。


「……ここ、は……? 」


何度かの瞬きの後、自身が見覚えのない場所にいることに気がつく。


そして、頭上にあった人物の顔にも、見覚えはなかった。


「ここは、私が宿泊している宿の一室です。昨日の夜、道であなたが倒れられたところに出くわしまして、ここにお連れしたというわけです。具合の悪い方を夜道に放置するのは理に反しますからね」

「……それは……お世話をおかけいたしました……有難うございます」

「いえいえ。私はこれでも医者の端くれでして。……ああ、自己紹介がまだでしたね。私は大阪で医者をやっています、山崎烝といいます」


ーーー山崎烝……?

その名前、どこができいたことがあったような……?


「ご丁寧に……僕は安……小鳥遊桔梗と言います」


ーーー危ないところでした。

自分で自己紹介する場が少ないもので……完全に本名を言う気でちいました。


「小鳥遊さん、ですか。変わった名前ですね」

「は、はぁ……そうでしょうか」


ーーーまぁ、否定はできませんが。


「ところで、具合はどうです?お恥ずかしながら、私の技量では原因がわからず……」

「……ああ……いえ、もう大丈夫です。ありがとうございます」

「そうですか、それは良かった」


今回の体調不良は休めば良くなるものですから。


けれど、山崎さんには感謝しなければなりませんね。

あのまま夜道で気を失っていたら危ないところだった。


僕の持つ妖力は図らずも霊を惹きつけてしまう。

それだけでなく、この京の街はお世辞にも治安がいいとは言えませんし。


それにしても……。


「……助けていただいた身でお尋ねするのもなんですが……あなたはあの時間に、あの場所で一体なにを? 」

「ははは、それはこっちのセリフですよ。私はただ、少し酒を飲みすぎてしまったので酔い覚ましに夜道を散歩していたんですよ。あなたを見つけた場所はこの宿の近くなのでね。あなたの方はどうです? 」

「……僕は……いえ、たいした用事では……」


まさか、本当のことを言うわけにもいかないですし、さて、どう説明しましょうか?


「……そうですか。それで、その用事は済みましたか?」

「え、ええ」

「ああ、それはよかった」


言いにくい用事であることを察したらしく、詳しく食い下がることなくほほえみ、頷く山崎さん。


ーーー彼はどうやら、空気よむのがとても上手いようです。


「さて……取り敢えず具合も良くはなっているようですし、家まで送りますよ」

「え……あ、いえ、そんなお手間をおかけしてもらうのは……」

「いえいえ。いくら具合が良くなったとはいえ、まだあまり顔色が良くない。医者として心配ですから」

「……それは……」


ーーーこの時代の医者は、どうやらとても優秀なようです。

これでは祈祷師も僧侶も要らないだろう。


「私もどうせ、今日にはこの宿を経つつもりでしたので、そのついで、という事でどうでしょう?」


そう言って山崎さんは悪戯っぽくほほえみを浮かべた。


「……経つとは、大阪に帰られるのですか?」

「いや、もうしばらく大阪に帰るつもりはありません。こっちでお誘いがあって、転職するつもりで京にやってきたんですから」

「転職、ですか?」

「ええ。……ただ、その転職先の場所が分からなくてね。それで昨日は宿に泊まることにしたんですよ」

「でしたら、その場所、もし僕が知っている場所でしたらにはなってしまいますがご案内します」

「え?」

「送っていただくお礼ですよ、山崎さん」


せめて、それくらいのお返しはさせていただかないと。


「……ふむ。そうですね、それではお言葉に甘えさせて貰います」

「それでは……その場所はどういう所なのでしょう?」

「はい。『新選組』の屯所、なのですが、ご存知ですか?」

「!!」


ーーーこれは……予想外な答えです。


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