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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第十二章 決戦!命をかけた五条大橋!!
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第158話 夜道は怨念に染まる

【安倍晴明】


ーーー夜。


「……そろそろ頃合いですね」


夜の巡察担当の隊士たちもすでに帰還していますから、そろそろ皆寝静まる頃でしょう。


「……ごめんなさい、瑞希さん」


少しの間ですが、あなたの意に反することをしてしまいます。

それでも、僕は少し、確かめたいことがあるのです。

だから、しばらくの間、あなたに無断で外出することを許してください。


ーーー心の中で彼女への謝罪を唱えつつ、そっと支度をして音を立てないよう、注意を払いながら部屋の外の様子を探る。


「……やはり、見張りが付いていますか」


おおかた、土方さんの指示によるものでしょう。


ですが、今日ばかりは僕の動きを悟られるのはともかく、何をしているのかを見られるのはいささか都合が悪い。


「……『オン・マリシ・エイ・ソワカ……』」


ーーー僕を逃したとなれば、土方さんに叱られると思うと申し訳ないですが……。


「……これで、僕の姿を見えない……」


「隠形法」は普段はあまり使わないですが、こういう時には役に立ちます。


けれど、いくら姿が見えないとはいえ、それほど長くは誤魔化せない。

土方さんたちに気付かれていないうちにやるべきことを済ませておく必要がある。


「……急ぎましょう」


そう小さくつぶやき、僕は監視の目から逃れるように、屯所を抜け出した。



********************



夜の京は、平安時代と同じで暗く、昼間の様子が嘘のように、不気味なほどに静まり返っている。

空には無数の星と、満月よりも少し欠けた月が心許なくも地面を照らしていた。


けれど、平安と少しだけ違うところがある。


ーーーそれは「妖」と呼ばれるものの存在。


この時代の京の夜道には「妖」と言えるほどの異形はごく稀にしか見当たらず、その上、稀に見るそれですら、雑鬼のようなあまり害のないものばかりだった。


けれど、その代わりなのか、平安よりも老若男女問わず死人の「霊」が多い。


ーーー恨み、妬み、悲しみ、憎しみ。


それらの負の感情を膨大なほどに含んだ怨霊が夜道のいたるところにくすぶっている。


彼ら彼女らは口々に呪詛を吐き、絶えず恨みがましい瞳で虚空を見つめているのだった。


(……隠形法を使っておいて正解でした)


新選組の隊士たちのように、たとえ夜に巡察のような行動を取っても、あれだけの人数で集団行動しているのであれば、あの手の怨霊が見える「見鬼」の目を持つ者はともかくとして、それを持たない場合にはなんら問題はないだろう。


けれど、もし、無防備にも一人で行動していたのならば。

彼らの目にとまってしまった時、取り込まれてしまうであろうことは容易に想像がつく。


死人の霊は「悪霊」とも呼ばれ、その名の通り、決して人にいい影響を与える存在ではない。

僕も平安で、何度もそれらの霊にとりつかれたという者の祓えを行ってきた。

悪霊に取り憑かれたものはじきに心まで乗っ取られ、人であったことを忘れ、その取り憑いた人間の心の奥底にしまわれていたはずの欲望を呼び覚ます。


(これが、『江戸時代』という時世、か)


ーーーこの時代は平安とは違い、公家ではなく、「武士」と呼ばれる者たちが政治を司っているという。


そして、特にこの時期は動乱の時だとか。

事実、この京の街も、お世辞にも治安が良いとはいえず、武士と呼ばれるものたちはいとも簡単に刀を抜き、それを振るう。


ーーー下の者を顧みず、搾取することを当然のことのように思う公家による政治と、命の応酬になりかねない、血の気の多い武士による政治。果たしてどちらが幸せなのでしょうか?


僕自身、平安に帰りたいとは思わないが、だからと言って、この時代の者たちの行動が理解できるわけでもない。


諸外国による侵攻から逃れなければならないというこの時期に、新選組を始め、この国の者たちは互いに争いを続けている。


そもそも、平安の時代ですら、外国である唐の影響を受けていたのだから、それこそ鎖国など、どだい無理な話なのだ。


けれど皆、それに気がついていない。


ーーーその行為の、なんて不毛なことだろうか?


……けれど。


たとえそんな不毛なことであったとしても、それでも自分自身、それが正しいのだと、己の信念を貫こうとする彼らの行為は無駄だとは思わない。


ーーーだって、それは僕にはできなかったことなのですから。


朝廷の楔に甘んじ、自分の意志を貫けなかった僕に、彼らを責める資格などないのだから。



********************



「……ここ、ですね」


ーーー屯所を出てからいくばくか時が過ぎた頃。


ようやく、目的の場所へとたどり着いた僕は思考を中断し、その場所ーーー瑞希さんらが「金毛九尾」と名乗る辻斬りと戦闘になった場所ーーーへそっと立つ。


「さて、始めますか」


ーーー僕が、確かめたかったこと。

それは自身を30年前の金毛九尾(・・・・・・・・・)である称するかの辻斬りの正体に関することです。


……もし、僕の予想が正しかったのならば。


「このままでは、瑞希さんたちは彼には勝てない」


ーーーそう、絶対に。




思った以上に書く時間が取れないので、来月から月1の更新にさせていただきます。


状況を見て今後増える可能性はあります。


とりあえず、来年の3月までは更新が少なくなってしまいますが容赦ください

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