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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第十二章 決戦!命をかけた五条大橋!!
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第157話 人手が欲しい

【土方歳三】


『正義の辻斬り、“金毛九尾”、またもや失踪!?10日以上前からその姿を消しているようで……』


「チッ……」


ーーー舌打ちと共に、持っていた瓦版を投げ捨てる。


「何が正義だ。奴の殺しは正義でもなんでもねぇ、ただの殺戮だ」


怒りとともに、煙管の煙を吐き、瓦版を睨みつける。


一月前から突如現れた、30年前に死んだとすらされていたはずの辻斬り、「金毛九尾」。


悪人を捌くと銘打ちつつも、その殺し方は残虐非道、血も涙もない辻斬り。


その金毛九尾が、10日以上前から姿を消しているという。


「原因は……」


ーーーおそらく、総司たちとの斬り合いだろう。


あの後から、金毛九尾は不気味なほどに沈黙を続けている。


「こっちとしてはありがたいが……」


今は新選組(うち)の主力が3人も使えない状況だ。

だからこそ、宿敵、金毛九尾が活動を止めているというのは好都合。


「だが、なぜ奴は活動をやめた? 」


総司たちの報告では、奴には傷を負わせることができなかったはず。

ならば、奴に殺戮をやめる動機はない。


「奴に何かあったか……もしくは……」


ーーー他に何か目的ができたか。


そして、その目的は状況からして、十中八九……。


「……瑞希、か」


ーーー金毛九尾はなぜか瑞希のことを知っていたという。


瑞希本人は知らないと言っていたから、おそらくあいつが知らないところで目をつけられたに違いない。


あいつはすこぶる無防備だからな。


「ああ、クソッ! こういう時、誰かこう、情報を探らせられるような奴がいれば……」


ーーー願望を言っても仕方ねぇが、今回ばかりはそう願わずにはいられねぇ。


あまりにも、情報が少なすぎる。


ーーーと、その時。


「……失礼します。土方さん、いらっしゃいますか? 」

「小鳥遊か? 入れ」


ーーーそう断りを入れ、障子をゆっくりと開ける。


「っ、ケホッ、ケホッ、ッ……な、ん……」

「あ、わりぃ」


煙が充満した部屋を開けたせいで思い切りそれを吸ったらしい小鳥遊は涙目になって咳き込んだ。


「……土、方さん……ケホッ、なん、ですか、この煙……。こんな、風にしていたら、ケホッ、体に悪い、ですよ……」

「わりぃ。そのまま開けておいてくれ」


知らぬ間にこんなに煙が部屋にたまっていたとはな。


「……はぁ。お忙しいところ申し訳ありません、土方さん」

「……いや。それより、お前、出てきてもいいのか? また瑞希にどやされるぞ」

「土方さんまで……」


小鳥遊は困りきったような表情を浮かべ、肩をすくめた。


「みなさん、いつまで僕を病人扱いするんですか……」

「そりゃあ、お前の体調が万全になるまで、だろうな」

「僕はもう大丈夫ですよ」

「んな青い顔しといて何言っていやがる」

「……」


……こいつ、都合が悪くなると目ぇそらすな。


こういうところだけはわかりやすい。

肝心な時に心の中を隠すのは上手いくせにな。


「まぁいい。それで、瑞希の奴がぎゃあぎゃあ騒ぐことを承知で何しに来た? 」

「それは……」


紫の、特徴的な瞳が俺の後方の床へと向けられる。


そこにはさっき俺が投げた金毛九尾についての瓦版があった。


「……金毛九尾について、か? 」

「ええ。……少々気になることがありまして」

「気になること? 」

「はい。……金毛九尾についてなのですが、彼は瑞希さんたちに、自分は『30年前の金毛九尾と同一人物だ』と言ったそうですね? 」

「ああ。つっても、おそらくそれは嘘だろうがな。あいつらの話では、金毛九尾は10になるかならないかの年頃だ。まぁ、そんな歳の童が総司たちをのしたっていうのには驚かされたが……。だが、そんな童が30年に生きているんけがねぇだろ」

「そう……ですね」


どこか、心ここに在らずの様子で頷く。


ーーー何を考えていやがるんだ?


「で、その気になることっつーのはなんなんだ? 」

「あ、はい。……いえ、ただ、そのことについてを確かめたかっただけです」

「……そうか」


ーーー怪しいな。

何を企んでいるんだ、こいつは?


「……それでは、僕はそろそろ戻ります」

「ああ。……あんまり妙なことするなよ? 瑞希の奴がうるさく騒いでかなわん」

「クスッ……善処します」


小さく微笑み、流れるような動作で立ち去っていく。


「……テメーの善処しますほど当てにならねぇものはねぇだろ」


瑞希の言ってることがよくわかるぜ、ったく。


「……さて、どうするか」


ーーー小鳥遊は一体何を考えているかは知らねぇが……。


「……念のため、誰かに付けさせるか」


あいつがもし、何かに気づいたというのなら、また無理しそうだからな。

そうなると瑞希の奴が五月蝿い。


「ったく、面倒ごとが多い……」


早急に誰か、俺の手足になれるような奴を見つける必要があるな。



********************



【金毛九尾】


「金毛九尾様。この度は私どもの用を聞いていただき、大変恐縮でございます」


目の前で頭をさげる男……油屋の八兵衛がそう笑みを含んだ声音で言った。


「……御託はいいよぉ。ボクはボクの目的を果たせればそれでいい」


あんたと手を組んでいるのは利害が一致したから。

あんたの裏の悪事は大体知ってるからね〜。

全部終わったら、ちゃーんと始末してあげる♪


ボクの目的はただ1つ。


瑞希さおねぇさんを殺すこと。

大切に大切に、殺してあげるんだ♪


そのための舞台を整えるのに、こいつが必要だったんだよね。


瑞希おねぇさんのことは大好きだけど。


でも、ボクが殺しかけたってことは、瑞希おねぇさんは悪人なんだから。

悪人は、殺さなくちゃいけないんだよ。


ボクは絶対に悪人を間違えたりしないもの。


だから、瑞希おねぇさんには最高の舞台を用意してあげる。

ついでに瑞希おねぇさんのお仲間も殺してあげるんだ♪


かわいいかわいい瑞希おねぇさん。

でも悪人なら仕方ない。


ボクがおねぇさんのために最高の舞台を整えてあげる。


それにはじっくりと時間をかけないとね♪


ーーー悪は、殺さなくちゃいけない。

それが、ボクの役目だから。


悪は、殺さないと。


それが正しいんだから。


正しくないと(・・・・・・)いけない。


だって……。

主人公不在


この二人、二人っきりでは初絡み、かな?

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