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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第二章 壬生浪士組
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第17話 着物と料理と時代の謎

土方さんから解放されたのち、私は手持ち無沙汰のまま、朝から眠ったままの晴明君のそばでぼーっとして過ごしていた。


土方さんの部屋から帰ってしばらくすると、姿を消していた沖田さんが薄ら笑いを浮かべながら帰ってきた。


「あ、帰ってたんだ、瑞希ちゃん」

「……沖田さんこそ、やっとお帰りですか」

「ん?まぁね」


さっきのことなど、なかったかのような態度に怒る気も失せてくる。

それすらも予想通りなのだろうから余計に腹が立たないでもないのだが。


「沖田さん」

「なに?」


これ以上沖田さんにくってかかるのも結局遊ばれて終わりそうだなと半ば諦めモードに突入した私は、今まで聞き忘れていたことを質問するべく、そして眠っている晴明君の邪魔にならないよう、部屋の襖を閉め、縁側へ沖田さんを誘った。

沖田さんもそこは空気を読んでくれたようで素直に従う。


「あの、今日って何年何月何日ですか?」


この時代に来て、いきなり新選組ーーー今はまだ壬生浪士組だがーーーに捕縛されたり、晴明君が倒れたりと、いろいろあったせいで忘れていたが、私は今が何年の何月なのかすら知らない。


それを無駄に賢い沖田さんは察したのか、スラスラと私の質問に答えてくれた。


その結果私が知ったのは今日が文久3年の3月20日である事だった。

つまり、意外にも、確か3月12日に発足したはずであるーーーこの日にちだけはなぜか覚えていたーーー壬生浪士組は、つまりはまだ一週間ほどしか結成してから経っていないのである。

つまり、私と晴明君が飛ばされたのは新選組の初期の初期段階だったということだ。


となると、いろいろな新選組のイベントはまだ起こっていないはず。それを聞いて不安半分楽しみな気持ち半分な私がいたりもする。



「……ところでさ、瑞希ちゃん。君、いつまでそんな格好でいるの?」

「はへ?」


唐突な沖田さんの発言に、はたと私は自分がどんな格好をしているかと、自分の姿を見下ろした。


「あぁ……。やっぱり、沖田さんでもこういう格好は恥ずかしいとか思うんですか?」

「いや、恥ずかしい、というか、下品だね」

「げ、下品……」


……よし、着替えよう。


とは言ったものの、着替えなんて持ってない。

さて、どうしようか?


「沖田さん、他に着るものないです」

「……僕に言われても困るんだけど。まぁいいや。確か、どっかに使ってない着物があったはず。とは言っても、女ものはないけどいいよね?」

「あ、着れるならなんでもいいです」

「女とは思えない発言だね!」

「ほっといてください」


私は昔からその手のことへの関心が実は薄かったりする。

制服にはこだわるが、私服となると、別になんでもいいかなという気分になるのだ。

これについては毎回親友の明日香に首を傾げられる。


「はい、これ」


そう言って沖田さんから渡されたのはよく剣道とかやる人が着るような、というか、沖田さんが今着ているような袴だった。


そして、私はもう一つの問題に気づくのだった。


「……沖田さん」

「今度は何?」

「……着方が分かりません」

「……で、僕にどうしろと?僕が着せてあげればいいの?」

「それだけは絶対に嫌です」


沖田さんに着せてもらうとか、あとで何を言われるかわかったもんじゃない。

それだけは勘弁だ。


「じゃあ着方教えるから速攻覚えて」


ーーーおぅ……。


…………。


……………………………。


とりあえず、結果を言うとですね。


袴は着れました。


でも、めちゃくちゃ疲れました。


……だって沖田さんの教え方、さっぱりわからないんだもん。


「僕の教え方が悪いんじゃなくて、君の物覚えが悪いんだと思うよ」

「それは否定はしませんけど、原因の半分は間違いなく沖田さんです」

「男物の衣装を着ても違和感のない、色気のないお子様には言われたくないなぁ♪」

「うぐっ!!」


そ、そりゃあ色気がないのは自覚してるけどさ!!実際、私よりか男の晴明君の方がはるかに色気があるよ!?言ってて悲しいけど!だからってそうまではっきり言わなくたっていいじゃないか!!


「ほんっと、沖田さんて失礼で……」



グゥ〜。



「……」

「……」


……私の腹の虫よ。


こんな時にならなくてもいいじゃんかっ!?


「ふぅーん?お腹空いたの、瑞希ちゃん?」


クスクスと意地悪な笑みを浮かべて沖田さんが私を見下ろす。


今、私の顔は真っ赤になっているであろうことは容易に想像がつく。

そういえば、昨日から何も食べてなかった。

もちろん、それは私だけではなく、晴明君もだ。


「沖田さん!」

「台所貸して欲しいって?」

「はい!私と晴明君の食事作りたいんで」

「瑞希ちゃん、料理できるの?」

「ええまぁ。少しは。それで、借りてもいいですか?」

「うん、それは構わないけど、一つ条件があるよ」

「条件?」


満面の笑みを浮かべる沖田さんに、私の危険センサーがビンビン反応しているのがわかる。


「僕の分も作って♪」


……なんだって?



********************



太陽の位置からして多分お昼頃のその時間に、私は一人、料理に勤しんでいた。

なぜか、私と晴明君の食事を作るところを、沖田さんの分まで要求されてしまった。


なぜだ。


なぜ私が沖田さんのために料理をしなきゃならない?

理不尽。


まるでキャンプの飯盒炊爨みたいな台所で(こういうところでの料理は得意だったりする)蔵にあった野菜でまず炒め物を作る。この時代にはそう便利な調味料はないから本当に簡単なものしかできない。

そして米を炊き、晴明君のためにお粥を作る。卵がなかったのが残念。米を炊くときの水に、少量の味噌と醤油を混ぜているので米はうっすらと茶色い。

これは家庭科の実習でクラスの男子が米を炊くときにふざけて味噌汁と醤油を少し入れた時、案外美味しかったのでやってみた。


男世帯だからか、全くもって料理の材料が味気ないので、とりあえず今日は二品だけにする。


できた料理を沖田さんの部屋に運ぶと、目が覚めたのか晴明君が上体を起こしていた。



「……桜庭さんが料理を?」


まだ起きたばかりで夢心地な晴明君が驚いたように紫の目を見張った。

少し眠ったからか、朝よりも熱も下がったようで、体温計がないと正確にはわからないが、現代で言うところの微熱程度にまで回復している。


「ふーん?結構まともだね」

「文句言うなら食べなくていいですよ沖田さん」

「別に文句は言ってないよ?」


少々行儀は悪いが、料理の乗った皿を膝の上に置き、食事を開始する。


「ん、結構おいしいね」

「あ、本当ですか?」


意外にも、沖田さんが素直に褒めてくれる。晴明君の方を見ると賛同するように微笑みながら頷いてくれた。


「ええ、美味しいですよ、桜庭さん」

「おー!よかった!」


空腹だったこともあり、ものの数分で食事を完食する。

晴明君は熱のせいで食欲がないらしく、少量口にしただけだったが、彼は元来、かなり少食らしく、万全の時でも茶碗一杯分の米どころか半分くらいしか食べないのだという。

だからあんなに華奢なんだろうか?


「ああ、そうだ。僕、君たち、というか、特に瑞希ちゃんにちょっと聞きたいことがあったんだよね」


食事が終わった頃、沖田さんが急に改まってそう切り出した。


「これは一つ、僕からの疑問だけどさ……」

「はい、なんですか?」


ーーーなんだろう、沖田さんがこんな真面目な顔するなんて?


「君たちさぁ、どうしてこの時代に来たんだろうね?」

「え?」

「……」


ーーーなんだ、いきなり?


「それがわかったら苦労しませんよ」

「いやいや、そうじゃなくて」


ーーーじゃあどういう意味なんだよ?


「つまりね、瑞希ちゃんはここよりも前の時代。で、晴明君は、平安、つまり、ここより千年くらい前。ってことはだよ?瑞希ちゃんは僕と晴明君、両方の時代を知っているわけだ」

「そうですけど……なにか?」

「ーーーーーどうしてその2つの時代(・・・・・・・)からここに送られてきたんだろうね?」

「あっ!!」


ーーーそうだ。


色々あってバタバタしていたせいで、その疑問のこと、忘れてた。


「……その理由は、わかりません。が、僕らがここに来たのには、おそらく、『誰か』が絡んでいます」

「誰かって……?」


ーーーそれは、一体?


「それは人か、もしくは人智を超えた何かなのか。今の段階でそれを知る術はありませんが……」


そこで言葉を切り、晴明君はその瞳でこちらをちらりとみやり、言った。


「おそらく、その『誰か』には、僕と桜庭さんをここへ呼ばなければならなかった理由がある。そして、目的も」

「!!」


ーーー目的……。


「……安心してください、桜庭さん。その件につきましては、おそらく僕の方が専門でしょう。こちらの方で調査してみます」

「ま、それがいいかもねぇ」


晴明君に賛同するようにそう言って沖田さんも頷く。


「うん、わかった。それじゃあよろしくね、晴明君」

「はい」


……一体どうして、タイムスリップなんてことになったのか、そもそも、晴明君は兎も角、ただの一般人の私までタイムスリップすることになったのは一体なぜなのか。


今はただ、晴明君が風邪を治してなんらかしらの手がかりを見つけるのを待つ他ない。


ただ。


私は、心のどこかで、このまま帰れなくてもいい、そう思う心があるのをそっと感じていた。



********************



【安倍晴明】


ーーー「誰か」。


桜庭さんたちにはそう申し上げましたが。

この「時廻り」は、ほぼ間違いなく「人」によるもの。


ーーーでは、それを行ったのは誰か?


「時を越える」というのは、ただの人間にできるものではない。


それができるのはーーーーーーーーーーーーーーー。



ーーーーーーーー僕と同じ、陰陽師だけ。


もちろん、確信があるわけではありません。

ここは僕がいた時代よりも千年も後です。

ゆえに、その千年の間に何かしらの方法が生まれたとしても、おかしくはない。


ーーーでも、もし、これが「彼女」の仕業なら。


僕は、どうするべきかーーーーーーーーーーーーー。


考えておく必要がありそうですね。



********************



【桜庭瑞希】


そんなこんなで時は過ぎ、夕方になった。


そして私は局長室に呼ばれた。


どうやら近藤さんたちが帰ってきたらしい。



こうして、私はかの近藤勇と、他の新選組メンバーと対面することとなったのだったーーーーー。



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