おまけ小話⑥ とある猫の新選組談(1)
今話は新撰組屯所にやってくるとある猫目線の小話です^ ^
吾輩は猫である。
名前は……いっぱいある。
その原因は、野良猫である俺に対して、出会った人間たちが好き勝手に名前をつけるからなのだが、とりあえず、俺の名前は“のあ”としておこう。
のあ、こと、俺はもともと、壬生寺という場所に住んでいる野良猫であるのだが、最近、その近くの「新選組」という場所に頻繁に通っている。
……ん?
それはなぜかって?
ーーーふむ。
なぜか、と言われれば答えにくいがーーーあえて言うならば、その「新選組屯所」という場所に住む人間たちが実に興味深い者達であるから、であろう。
兎にも角にも、この新選組屯所に住む彼らは皆一様に個性的な者達なのである。
というわけで、今日は俺様から、彼らについて紹介しようと思っている。
まず、はじめに紹介するのはーーー。
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[土方歳三の場合]
この男ーーーこの新選組という場所の「副長」らしい土方歳三は、今も、縁側にいる俺に背を向ける形で文机に向かい、何やら書き物に勤しんでおり、全身からなんとも言えない殺伐とした雰囲気が立ち上っている。
ここからでは見えないが、眉間に深ぁ〜い皺がよっているであろうことはほぼ間違い無い。
ーーーふむ。
どうやら、今日もこの男は忙しいようだ。
仕方ない。
ここは邪魔をし無いよう、離れるべきか……。
「……ん?なんだ、いたのか、チビ」
「ニャッ?(むっ? )」
ーーー気づかれてしまったか。
だが……。
「ニャアッ! (俺はチビでは無いっ! )」
「……なんだ? 怒ってんのか、チビ? 」
……だからチビでは無いと言うに。
この男、土方が俺様につけた「チビ」という名は数ある名前の中で最も不本意な名前の一つだ。
「ああ、そうだ、チビ……」
「ニャアアッ!! (だからチビではないも言うに!! )」
「チビ、煮干しいるか? 」
「ニイッ……ニャ? (だから人の話を……なに? )」
ーーー煮干し?
「朝飯の残りだ。いるか? 」
「ニャア! (いる! )」
ーーーもちろんいるとも!!
叫ぶとともに土方の膝に飛び乗ると、呆れたような表情で俺を見下ろし、右手の煮干しを差し出してきた。
「ったく、変わり身早いな、お前」
「ニャ(当たり前だ)」
俺様とて、煮干しは惜しい。
「……呑気なもんだ。俺はこのあとまだ仕事があるんだ、それ食ったらちゃんと家に帰れよ? 」
「ニャー(うむ)」
むぐむぐ。
うむ、やはり煮干しはうまい。
ーーーこの男、土方は新選組隊内では「鬼」と言われている。
だが、常に眉間にしわを寄せてばかりでいるわけではない。
……その証拠に。
そう言って俺を見下ろした土方は相変わらず呆れたような顔ではあったものの、その視線は穏やかな温かみを帯びていたーーーーーーーーーーーーー。
書いてから気づきました。
……あ、前回の小話も土方さんだったな、と。
まぁ、書いてしまったものは仕方ない。
ーーーと思っておくことにしましょう。




