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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第十一章 大捜索!?新選組VS“ 金毛九尾 ”!!
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第149話 総司のお気に入り

【桜庭瑞希】


ハルが目覚めたことを土方さんらに伝えに行くと、ちょうど総司、一、平助君の3人も気が付いたところだという話を聞かされ、その話を聞いた私は慌てて彼らの元へと急いだ。


ちなみに、ハルは目覚めた、と言っても、とりあえず命を取り止めたというだけで、まだ回復とは程遠いため、今は眠りについている。


今のハルならば、一人にしても問題はないだろうと土方さんに言われ、とりあえず、私は3人のところに向かうことにしたのだ。


あの3人の……とくに総司のことだ。

目覚めるや否や部屋から飛び出していきそうだーーーと思っていたのだが、その心配は杞憂に終わったらしい。


やってきた私を出迎えた総司は予想に反して落ち着いているように見えた。


「総司! 」

「おはよう、瑞希ちゃん」


挨拶もそこそこに部屋へ飛び込んだ私をへ、総司は笑みさえ浮かべてそんな言葉を投げかける。


たくさん血を失っているために血の気はないものの、とりあえずは無事のようで、思わず涙ぐみそうになるのをぐっとこらえる。


「……なんか、瑞希ちゃん、どこか吹っ切れたような顔してるよね」

「!! 」


意外そうな顔をしながら、総司がそんなことを言う。


まるで、あの夢の中の不思議な少女、芙蓉との会話を知っていたかのような問いに、私は思わず目を丸くして聞き返した。


「ど、どうしてそう思うの? 」

「まぁ、顔を見ればわかるよ。君ってすごくわかりやすいからね」

「う……」

「……それに、いつもの君なら『自分が援軍呼ばなかったから〜』だの、『役に立てなかった〜』だのって、泣きついてきそうじゃん」

「ぐっ……」


あまりに的確すぎる推測に、ぐうの音も出ない。


ーーー本当に、総司の言ってる通りだったよ。


だけど、芙蓉(彼女)の言葉で、そんなことよりも大切なことを思い出したのだ。


「……最初は、総司が言ってる通りのことを考えてたよ。金毛九尾との戦いでのこと、後悔して。……だけど、それよりも大切なことを思い出したから。大切なのは、失敗した時、それを後悔するんじゃなくて、次後悔しないようにはどうすればいいか、それを考えることなんだって。後ろばっかり向いてたって、先に進むことなんてできない。そんなことをするよりも、これからのことを考えたほうがずっといい。そのことに気付かされたんだよ」


芙蓉の言葉は、私に、忘れていたことを思い出させてくれた。


きっと、総司だって、今はこんな風に笑っているけど、心の中では自分が負けてしまったことを悔しがっているだろう。


私が後悔ばかりしていたら、総司だって後悔して、苦しむかもしれない。


そんなのはお互いにいいことでは決してない。


そうなるくらいなら、ちゃんと、みんなでこれからのことを考えたほうがずっといい。


そのことに、私は気付かされたんだ。


「……いいんじゃない? その考え」

「!! 」

「瑞希ちゃんが後悔し続けないことに決めたのなら、僕もそうするよ。……後悔するんじゃなくて、次に後悔しないようにする、か。確かに、その通りかもね」

「総司……」


クスリと笑う総司の顔はどこか納得したような色があった。


「……僕は、次は必ず金毛九尾に勝つよ」

「!! 」

「必ず、今よりも強くなってあいつに勝つよ。負けっぱなしなんて、僕の矜持が許さないから。……それに……」

「それに……?……って、うわっ!! 」


首をかしげた私は、急に右手を引かれ、バランスを崩して総司の上へ倒れこむ。


「そ、総司っ!? 」


まるで抱き寄せられるような格好にされた私は目を白黒させてそう叫ぶ。


が、当の総司は私の顔を下から覗き込むように見上げ、口元に笑みを浮かべた。


「僕のお気に入り(・・・・・)に手を出したんだ。それ相応の報いを受けてもらわなくちゃね」

「っ!! 」


近距離でそっと囁かれた直後、とんっ、と押されて元の位置へと押し返される。


が、それにすら気がつかないほどに私の頭は混乱していた。


「顔、真っ赤だね。可愛いよ、瑞希ちゃん♪」

「っ!?!? お、お気に入……か、からかってるよねぇ!? 」


上目遣いに見上げてくる総司はいつもよりも色っぽく見える。


だ、だけどっ!!


絶対に騙されないっ!!


あの総司が、そんな左之のようなことを言うわけがない!!


絶対にからかわれてるんだっ!!


「さぁ、どうだろう? 」


クスクスと楽しくてたまらない、というような笑い声を漏らしながらそう嘯く。


「〜〜〜〜〜っ!! 」


いとも簡単に掌で踊らされたことが無性に悔しくて、総司を睨むものの、本人はどこ吹く風。

完全な糠に釘状態に私その怒りをぶつけるように勢いよく床を蹴って立ち上がり、未だニヤついている総司へ、顔だけで振り返って言い放った。


「乙女心を弄ぶ奴のことなんて、もうに度と心配なんてしてやらないから!! 」


ーーーきっと後で痛い目見るんだからねっ!!総司の馬鹿っ!!


そう、心の中でつけたし、私は部屋の襖を荒々しく開け放った。



********************



【沖田総司】


「乙女心を弄ぶ奴はもう心配してやらない、ねぇ? 」


それはつまり、僕の行動で、瑞希ちゃんの乙女心はくすぐられたんだ?


それに、「もう」ってことは、僕のこと、心配してくれたんだね。


「それだけわかればやった甲斐があるよね」


ーーー瑞希ちゃんを吹っ切れさせたのが誰なのかは気になるところだけど、今日はよしとするよ。


「さて、と、はやく怪我、治さないとね」


そうしてできるだけはやく、強くなろう。


ーーー今度こそ、君を守れるように。


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