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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第二章 壬生浪士組
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第16話 大魔王様

「……で?ここは自分の部屋だから、さっさと出て行けとでも言いたいんですか?」


私はさっきの失言もあり、少々やさぐれながら、薄笑いを浮かべている沖田さんを眼光に全総力を注いで睨みつけた。


「それはないよ。僕は病人を部屋から叩き出すほど無慈悲ではないから」

「沖田さんならやりかねないですけどね」

「瑞希ちゃんが僕をどれだけ嫌っているか、実に分かりやすい返答だねぇ」

「わかってくれてるなら幸いです」

「うわぁ、可愛くない答えー」


うるっさいわ。

あんたに可愛いなんて思ってもらわなくたっていいもん。


「ああそうそう。忘れてたよ。僕、君に伝えなくちゃいけないことがあったんだ」

「伝えなくちゃいけないこと?」


今思い出したというようにポンッと手を叩く沖田さんにジトッとした視線を送る。

こいつがこんなこと言うときは、めちゃくちゃ怪しいのだということを、私は会って二日目だというのにふかぁ〜く理解していた。


「うんそう。なんか、後で俺の部屋に来いって、土方さんが」

「……チョット待ってください。後でって、それいつ言われたことですか?」

「うーん。さっき(・・・)かなぁ♪何時に来いとか、土方さん、その辺のことは別に何も言ってなかったけど、早く行った方がいいと思うよ?」

「どうしてそれを先に言ってくれないんですかっ!!」


なぜここに来た時先にそれを言わないんだっ!?

嫌がらせかっ!?

嫌がらせだなっ!?


「だって、僕にとっての『後で』って、今ぐらいのことを言うんだもん」

「だもん、じゃないよっ!!」


十中八九嫌がらせだ!!

証拠に、沖田さんの笑顔がいつにも増して黒いっ!!


「ああもうっ!私もう行きますからねっ!!」


沖田さんなんかに構っていたら土方さんに雷落とされそうだよ!!



「それはいいけどさぁ、瑞希ちゃん、土方さんの部屋、どこだかわかるの?」

「あ」


そう言えばそうだ。


この屯所は結構広い。



沖田さんの顔に大魔王な笑顔が浮かぶ。



「……沖田さん」

「ん、なに?」

「……連れてってください」

「いいよ★」


っ……。

この時ほど沖田さんの笑顔が憎たらしいと思った時はない。


私は満足げな笑みで先導する沖田さんの後を追いながら私は静かにそう思ったのだったーーーーーーーー。



********************



ーーー場所は変わり、土方さんの部屋。



……部屋の中には、沖田さん以上の大魔王様が大変な不機嫌顔で座っていらっしゃいました。



……あ、うん。


……私、死んだな。


……実に短い一生だった。




軽い現実逃避をしながら、私は土方さんの前に恐々と正座する。


ちなみに、当の沖田さんはいつの間に消えていた。


……あの野郎。逃げやがったな。



「あ、あの……。遅れてしまい、すみませんです……」


恐怖のためか、敬語が妙なことになっていたが、それを気にしている余裕は私にはない。


それだけピリピリした空気が土方さんを中心にこの部屋いっぱいに満ちている。

ここは魔界かなんかか。


「……ああ。俺が悪かった」

「ひょえ?」


いきなり、予想外に謝られ、私は奇妙な声を上げてしまう。


「俺が悪かった。………常識をわきまえない馬鹿に、明確な時刻を伝えなかったことは俺の失策だった」


ニコリともせず、土方さんはそう吐き捨てたた。


おお……。


これが「新選組の鬼」と呼ばれた土方さんのお怒りモードか……。



マジで、チョー怖いっ!!!!!!!



この芯の通ってる声で怒鳴られるのも想像するだけで怖いが、無駄に端正な顔を無表情に固定して、もはやお前は価値がない、とでもいうような、冷ややかな声音でこのお言葉!!


ほんと、生まれてきてすみませんでした!!って全力で誤りなくなるような威圧感。


確かに、これはヤバイわ。

さすが、鬼。


……………。



……現実逃避、終了。


……うむ。


よし。



「ほんっとに、誠に申し訳ございませんでしたっ!!!!!」


ずしゃあっ、と、これぞ土下座!という勢いで頭を下げ、早口に謝罪を口にする。


大魔王様相手に、沖田さんが伝えるのが遅かったからなんて言い訳を言えるほど、私の神経は図太くはない。

おそらく、沖田さんもそれを見越してあんな嫌がらせをしたのだろう。

全くもって腹がたつ奴だ。


今度会ったら覚えてろよ?


「……ふん」


そんな私を見下ろし、土方さんは底冷えのする声音で言った。


「まあいい。本題に移るぞ」

「あ、はい」


慌てて身を起こし、姿勢を正す。


「現段階で、お前たち2人が怪しいものではないと断定することはできない。よって、このことは近藤さんが帰ってから話し合う必要があるが、兎に角、お前たちにはしばらくこの屯所に居てもらう。もっとも、お前はともかく、あの小鳥遊桔梗とかいう小僧は動かせまいだろうがな」

「……わ、分かりました」


近藤さんをはじめ、メンバーの何人かは今、席を外しているらしい。

そもそも、動くも何も私たちには帰る場所がない。むしろ、具合の悪い晴明君と共に容赦なく屯所から追い出されなかったことの方が幸運なのかもしれないので素直に頷いておく。


「お前らには総司の監視をつける。屯所からは絶対に出るなよ?」

「分かりました」


出ようにも、行く場所ないから大丈夫。

ってか出たら100%迷子になるわー。

私、歴史は好きだけど地理は嫌いだからね。


それで話は終わったらしく、私はその後あっさりと解放されるのだった。


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