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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第十一章 大捜索!?新選組VS“ 金毛九尾 ”!!
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第147話 夢か現(うつつ)か

「チッ……わかったよ。これ以上は追及しないでおいてやる」

「土方さんも、随分と甘くなりましたねぇ」

「うるせぇ」


フンッと鼻を鳴らし、そっぽを向く土方さん。


ほんっとにわかりやすいなぁ。


ーーーまぁ、それが土方さんの面白いところなんだけどね。


「とにかく、だ。お前はちゃんとその怪我治せよ? それまでは稽古も禁止だからな」

「えー」

「えー、じゃねぇだろーが! ったく……他のやつらにも言っとかなきゃならねぇな、これは……」


まぁ、確かに、一君や平助も僕と同じこと考えてるだろうからね。


ーーー金毛九尾。


あいつは絶対に潰す。


……金毛九尾は強い。

力も、速さも、何をとっても目をみはるほどに。

これだけは認めざる得ない。


でも、だからと言ってこのまま黙って見ているわけにはいかないんだよ。


今回の借りもきっちり返さないといけないし、それ以上に、あいつは瑞希ちゃんを傷つけた。


ーーーきっと、素直な彼女は今、自分を責めているだろう。


……その後悔は、僕らが負けたせいなのにね。


それでもあの子はきっと自分を責めるはず。


そうなったら、僕は僕自身が許せなくなるから。


ーーーああ、それとあいつが瑞希ちゃんのことを知っていた理由もきっちり問い詰めないといけないね。


ーーーだから僕は。


必ずあいつに勝利してみせる。


絶対に。


今度こそ。


あの金毛九尾を、この手で……。



********************



【安倍晴明】


『先の妖退治の件、ご苦労だったな、晴明』


……僕の正面で、この国最高の地位を持つ男が、そう、重々しく告げた。


それに対し、僕は微笑を返し、形通りの礼と定型文を返す。


礼をした時、視界に入ったのは肩で切りそろえられた自分の白い髪だった。


ーーーああ、そうか。


これは、「あの日」よりも後の時の夢……。


……。


……いや。


ーーーこれは、本当に夢なのでしょうか?


本当は……。


さっきまでの出来事こそが夢だったのではないのですか?


ーーー幕末へ、時を渡った、など。


本当は夢だったのではないかーーーーーーーーーー。



謁見の時間が終わり、目の前の男が去った後、席を立つ。


その部屋を出た瞬間、突き刺さるような黒い視線と囁き合う声が聞こえて来た。


『おお、恐ろしい』

『異色の化け物が……』

『なんでも、この前の一件……その失態の咎で“首輪”をつけられたとか……』

『はっはっは! それは良い。あのような化け物にはそれくらいはせぬとな! 』

『化け物は、せいぜい主上や我々の役に立てることを喜んでおればよいのだ……』


……。


ーーー化け物、か。


……彼らが言うことは正しい。


僕は異端の化け物。


僕をそう呼ばないのは。


「あの二人」と、時廻りで出会った彼らだけ……。


「……あれこそが、夢。だから、僕は今日も繰り返す」


ーーーそれしか、僕にできることはないのだから。


ただ、この国の人たちに尽くす。


それが僕の役目。


ーーーそれで、皆が幸せに暮らしてくれれば、それでいい。

その願いは、かつて、両親(二人)も言っていたこと。


陰陽師として、この国のために働くのが、「安倍」の役目。


ーーー幸せなど望まない。


そもそも、葵がいかないこの世界に、僕にとっての「幸せ」など、ありえないのだから。


僕の「枷」も、周りの貴族たちの冷ややかな視線や陰口も、僕自身が犯した罪への罰。


「っ……」


ーーーそんな思いを胸に、廊下を歩きかけ、突然襲ってきためまいに膝をつく。


ーーー「枷」影響なのだろう。


「あの日」から、体調が優れないのは知っていた。


僕自身が持つ妖力を、許可なしには発揮できないようにし、それを体内に押しとどめる「楔」。


行き場をなくし、蓄積された多すぎる妖力は、半分人の血が混じったこの体には過ぎたるもの。


それはいわば、自身が作り上げた、自身を蝕む毒。


けれど今の僕に、これを発散する術はない。


ーーーあの、幕末という世界にいた時には、「枷」の主たる帝から離れたせいか、幾分かはマシになった、と思っていたのだけれど、それは、あれが「夢」だったからなのかもしれない。


ーーーけれど、それでいいのです。


あの世界は、僕には明るすぎた。


だから、これでいい。


「……ごめなさい」


ーーーごめなさい、葵。


僕はあなたを守れなかった。


「……ごめんなさい」


ーーー僕の罪はそれだけではない。


僕は、「彼ら」のこともまた、守れなかった。


幼い頃から共に歩んできた「彼ら」を。


ーーー僕は、自身の大切なものを、何一つ守れなかった。


「ごめんなさい」


ーーー視界が黒く染まっていく。


何もない、光一つない暗闇へと。

……堕ちていく。


ーーーこのまま死ねたらどれだけいいだろうか。


……もちろん、そんなこと、許されるわけがない。


ーーーそれでも。


心の底では望んでしまう。


ーーーもう二度と、目覚めなければいいのに、と。


そうすれば。


そうすれば……。


『……よ』


その時。


ーーーまるで、僕の思いを打ち消すように、どこからともなく声が響き渡った。


『……は、悪くないよ』


ーーーすがるような、震えるその声は。


聞き覚えのある声で。


「夢」でしかないと思った「彼女」の姿が脳裏を駆け抜けたーーーーーーーーーーーーーーーー。


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