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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第十一章 大捜索!?新選組VS“ 金毛九尾 ”!!
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第146話 今、できることは

「さて、と。申し訳ないのだけどね、瑞希君、私もそろそろ仮眠をとりたいから、少しの間、ここを任せてもいいかな? 」


苦笑を浮かべ、そう言った山南さんは、やはり一晩中寝ずの看病のせいか、疲労の色が濃い。


もともと看病を交代して休んでもらうためにここにきた私はこの願ったり叶ったりな申し出に一も二もなく了承して頷いた。


「はい、もちろんです!! 」

「……ありがとう。もし、何かあったら私のところへ遠慮なく来なさい」

「はい! ゆっくり休んでください! 」


笑顔で山南さんを送り出し、再びハルへ視線を向ける。


その顔色は相変わらず白を通り越して青白いせいか生気に乏しく、また、呼吸も浅い。


「……よしっ! 」


パチンと顔を両手で叩き、マイナス方向に行きかけた気持ちを切り替える。


ーーー今は泣いたり後悔したりするときじゃない。


確かに、私にできることなんてほとんどないけれど、それでも、ハルが目を覚ましたときくらい、笑顔で出迎えたい。


そうしないと、きっと優しいハルは傷つくだろうから。


「早く元気になってね、ハル。私……まってるから」


届くはずはないとわかっていながらも、そう、自分にも言い聞かせるようにそっと呟く。


その時、ほんのかすかにだけれど、目を閉じたハルのまつ毛が震えたような、そんな気がした。



********************



【沖田総司】


ーーー幼い頃から、僕にとって、剣術は僕の全てだった。


べつに、剣術で何かを成そうとしたわけでも、誰かに報いたかったわけでもない。


それはもちろん、近藤さんのために剣を振るう、というのも間違ってはいない。


けれどそれよりも。


ただ、強くなること。

誰よりも強くなること。


それだけが、僕が剣術を学ぶ目的だった。


……なのに。


「あの日」。


「彼女」がやってきた、その日から。


ーーーそれは変わっていた。


「守りたい」。

だから強くなるのだ、と。


ーーー負けるわけにはいかなかった。

僕の敗北は、そのまま彼女の死に直結するだろうから。

そうでなくとも、もし、負ければ彼女が傷つくことくらい、わかっている。


あのどうしようもないお人好しは、仲間(僕ら)が敗れれば自分を責めるはずだ。


だからこそ、負けるわけにはいかなかった。


ーーーそれなのに。


「……っ……」


ーーー意識が覚醒する。

それと同時に、見慣れた天井が視界に移ってくる。


「……くっ……」


起き上がろうと体に力を込めた瞬間、脇腹に鋭い痛みが走り、僕は呻き声を上げた。


「……」


ーーーここが屯所だということは、誰かが運んでくれたのだろう。


いや、それよりも。


「っ、瑞希ちゃん……っ!! 」


ーーーあの時、僕は確かに見た。


僕の三段突き(切り札)すらも、あいつに阻まれて。

あいつは、まるでそれをあざ笑うかのように、三段突きの模倣で僕を狙って。


ーーーその時、僕は確かに見たのだ。


彼女がーーー瑞希ちゃんが僕と金毛九尾の間に割り込んでくるのをーーー。


「っ、くそっ」


早く行って確かめないと。


瑞希ちゃんはあの時、まだ「身代わり」を持っていたから、その一撃目は少なくとも阻める。


だけど、その次はそうはいかない。


「瑞希、ちゃんっ……!! 」


ーーーもし、あの子に何かあったら。


僕はあの金毛九尾を許さない。


だけど、あの子を守れなかったのは。

ーーー僕だ。


「っ……行か、ないと……」

「……どこに行く気だよ、馬鹿野郎」

「!! 」


ハッとして声がした方へ視線を向けると、開け放たれたままの襖の端に寄りかかり、僕を見下ろしている土方さんがいた。


「……なんでいるんですか、土方さん」

「そりゃあずいぶんな挨拶だな」


土方さんはそう言って呆れたように肩をすくめた。


「とりあえず、今お前が何考えてるかは置いといて、色々と説明するぞ。……瑞希も、齋藤も、平助も、とりあえず無事だ。まぁ、瑞希以外は大怪我だがな」

「……瑞希ちゃん……生きて……? 」

「ああ。左腕に少し傷は負ってやがるが、それ以外は無傷だ」

「っ……」


ーーー左腕に……。


やっぱり、金毛九尾は許せそうにないなぁ。


「ちっ……ったく、金毛九尾が許せねぇのはテメェだけじゃねーよ。だが、今はその傷を治すことだけ考えやがれ。じゃないとお礼参りもできやしねぇ。わかったな、総司? 」

「……土方さんに命令されるとなんか腹たつんだけど」

「んだとてめぇ? 」


ひくり、と青筋を浮かべ、こちらを般若の形相で睨みつける土方さん。


そんな顔してばかりいるから子供に逃げられるんだよ。


「……お前今失礼なこと考えてるだろ」

「ってことは、そんなこと思われる心当たりがあるんですね」

「……この減らず口野郎が」


ーーー僕は瑞希ちゃんじゃないからね。


その手には引っかからないよ。


「……あとな、総司、もう一つ伝えておくことがある」

「なんですか? 」


急に真面目な表情でそう切り出した土方さんは、一瞬、迷うような顔をしたあと、こう言った。


「……なぁ総司。小鳥遊は一体何者だ? 」

「……突然なんですか、それ。ハル君はハル君でしょ。彼に何かあったんですか? 」

「……昨夜、俺の目の前で血ぃ吐いて倒れた。それから目覚める気配がねぇ」

「え? 」


血を吐いて、倒れた。


どうして。


「……!! 」


その瞬間、脳裏に、屯所を出発する前に交わした彼との会話が駆け抜けた。




『……それはあくまで、ただの紙。それが痛みや傷を受けることはありませんよ』



ーーー彼はあの「身代わり」を渡しながらこう言っていた。


あの時感じた違和感の正体。


あの「身代わり」とやらが、本当は持っている人間が受けた傷を術者(ハル君)に肩代わりさせるものだったとしたらーーーーーーーーー。


……。


まったく、彼らしいというか、なんというか……。


「おい、総司? 」

「僕だってそんなこと、知りませんよ。だけど……何者も何も……そんなこと関係ないでしょ」

「……? 」

「確かに、彼の力は僕らの人知を超えるけど、でもそれは僕らの役に立ってるじゃないですか」

「そ、それはそうだが……」

「土方さんはもう、彼が何者でも仲間として認めてる。違いますか? 」

「……」


苦々しい表情で顔を背ける動作は土方さんの照れ隠しの答えだろう。


「だったら、ハル君自身がそれを話してくれるまで待つべきじゃないですか? 」


ーーー僕は彼の正体を知っている。


けど、それを話せば瑞希ちゃんのことも話さなきゃいけなくなる。


瑞希ちゃんの秘密を知ってる人なんて、これ以上増えたら困るんだよね♪


というわけだから土方さんがそれを知るのはもっとあとでいいんだよ♪


だから今回のことで貸し借りなしだからね、ハル君?


ーーーだから、君はさっさと目を覚ましなよね。


悔しいけど、君がそんなだと、瑞希ちゃんが悲しむんだからーーーーーーーーーーーーーーーー。


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