第143話 原田さんの羽織
もう一週間近く経ってますが。
あけましておめでとうございまーす(^o^)/
「ん……」
ーーー意識が浮上していく。
瞼を開いた途端、刺すような明るい光が目に飛び込んでくる。
「……朝……? 」
障子の隙間から覗く光が、私の部屋全体を明るく照らしていて、眠ってから一晩たっていたことが分かった。
「ん? 」
座ったまま眠っていたせいか、痛む身体に鞭打って立ち上がりかけ、自分の体を覆うようにして、赤ワイン色の羽織がかけられているのに気がついた。
「これは……」
ーーー自分でかけた覚えはないし、そもそもこんな派手な羽織、私は持っていない。
「派手……あ」
この羽織の持ち主なら、一つ、心当たりがある。
「彼」はこういう派手な、特に赤を好んでいた。
「……原田さん」
私が眠っている間に来ていたのだろう。
「…お礼言いに行くついでに返しに行かなきゃ」
ーーーそして、伝えないといけない。
夢の中で見た、「芙蓉」と名乗る少女と約束したように。
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それから原田さんを見つけるまではさほど時間はかからなかった。
「原田さん」
私の声に、井戸の側に立っていた原田さんがゆっくりとこちらを振り返った。
「ああ、起きたんだね」
「はい。……これ、ありがとうございました」
羽織をさしだしながら頭を下げると、原田さんはクスリと笑って頷いた。
「どういたしまして。……それで?これを返すためだけに朝から俺を探していたのかな? 」
「……ほんと、原田さんって、なかなか鋭いこと言いますよね」
「俺は女の子のことには敏感なんだ」
「あーそうですか」
あいも変わらない色男っぷりで。
「私が今朝原田さんを探していたのは、あることを伝えるためです」
「……あること? 」
原田さんの顔が、その一言でほんの僅かに強張る。
それを内心不思議に思いながら、私はにっこりと笑いながら言った。
「私は、大丈夫ですよ」
「!! 」
「私、もう後悔するのはやめたんです。だから、昨日の失敗を後悔し続けるのはやめました」
「……」
「過去に起きたことはもう変わらない。だったら、これからどうすればいいかを考えたほうが、お得だと思ったんです」
「成長出来る機会をみすみす逃すのはもったいない」。
夢の中で出会った少女、芙蓉はそう言っていた。
「だから、私はもう大丈夫ですよ、原田さん」
ーーー後ろを向いてたって何も変わらない。
私はそれを、この時代で何度も学んできたことだ。
「……瑞希」
「はい……ってふぇ!? 」
ーーー今まで触れていた外気の冷たさが消える。
代わりに、私は暖かいものにぎゅっと抱きしめられていた。
「……かと思った」
「ちょっ、原田さ……え? 」
「……いなくなってしまうかと思った」
「!! 」
「もう、瑞希が新選組からいなくなってしまうかと思ったんだ」
「……っ、それは……。私が、新選組を辞めちゃうってことですか? 」
私の問いに、原田さんが小さく頷く。
ーーー心なしか、抱きしめる力が強まった気がした。
「俺は君を信用していないわけじゃない。むしろその逆だよ。君が強い子だってことは分かっている。だけど……瑞希はたとえ男装していたとしても女の子だ。だから、昨日のような思いをしたら、もう、さすがにここにはいたくないと、そう思うんじゃないかって、ね。だから俺は、さっき君が言いたいことがあると言った時……怖かった。君がいなくなるような気がしたから……」
「……」
「でも、よかった」
原田さんが、ゆっくりと手を離して私の顔を見下ろした。
「君が、いなくならないで、よかった」
「っ……」
ーーーこ、こんな顔っ……!!
反則だっ……!!
いつもと違って、弱々しい、まるで親と離れるのを嫌がる幼い子供みたいな微笑に、私は思わず息を呑むのだったーーーーーーーーーーーーー。




