第139話 狂気に染まりし正義
少し短め
【山南敬助】
「……とりあえず、皆無事なんだね? 」
「ああ。つっても総司も斎藤も平助も重傷だがな。瑞希も左腕を負傷していたからいま治療を受けさせている。まぁ、あいつは泣き疲れて眠っちまったがな」
「そうか……」
重傷……。
……いや。
ーーー今は、とにかく、皆がなんとか生きていてくれてよかったと考えるべきなのだろう。
「それで……そっちの方はどうなんだ? 」
そう言って、土方君は私の背後へ視線を送る。
その部屋では、部屋の主が眠っていた。
「……かなり、危険な状態のようだよ。熱は高いのに、指先が冷たくなっていた……」
「喀血していたが……労咳じゃあねぇよな……? 」
「ああ、それは安心していいだろう。そもそも、労咳はそうすぐに症状が出るものではないし、彼は労咳の患者ではないみたいだよ。それ以外の病、ということもないようで。原因はさっぱりわからないらしい」
「原因がわからない? ……ってことは、あいつ自身の力でなんとかしてもらうしかないってことかよ」
「……」
ーーー彼が先月の終わりから体調を崩していたことは皆、知っていた。
その間、いつもよりも長く寝込んでいて、最近やっと起き上がれるようになったが、それでも顔色はいつもよりはるかに悪かった。
本来はもう少し療養するべきだが、それでも彼は今回の非常事態をうけ、起き上がれるようになってすぐに情報収集に努めてくれていた。
けれど、それは彼の体調をどうしようもなく悪化させることになってしまった。
「兎にも角にも、彼が目覚めるまでは一瞬も気が抜けない状態なのは確かだからね。ここは私が見ていよう。だから、土方君は瑞希君たちの方を頼むよ。……特に瑞希君はハル君のことを知ったら動揺するだろうから」
「ああ、分かっている」
ーーー落ち着いたら、彼らには一体何があったのか……おそらく、「金毛九尾」と何かあったのだろうけど、今後のためにも詳しく聞かないといけない。
問題は何一つ解決していないどころか、むしろ悪化している。
沖田君たち三人でもあれだけの傷を負った相手、しかも「金毛九尾」の方は土方君によれば現場にはいなかったようだから、逃走できる余力があったということ。
それにもかかわらず、「金毛九尾」は四人にとどめを刺さず、瑞希君に至っては左腕に少し裂傷を負ったぐらいにとどめている。
それは一体どういう理由なのか。
やらなければならないことは山積みだ。
ーーーけれど、今は皆の回復を祈ろう。
それが、今の私にできる唯一のことなのだから。
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【金毛九尾】
「……あ、れ……」
なんでボク、こんなところにいるの?
さっきまで瑞希おにぃさん、いや、おねぇさんのお仲間と戦ってたはずなのに。
ーーーそれに、ボクは。
「……瑞希、おねぇさん、殺しちゃった……はずなのに」
ーーー勢い余って胸刺しちゃったはずなのに。
なんでおねぇさん、血が出てなかったんだろ?
「ボク……ボク……ははっ、悪人じゃない人、殺し、殺した……はずなのに……ふふふっ、生きてる、のかなぁ?あははっ、生きてる、かもねぇ! ……ははははっ!! 」
今でも、覚えてる。
おねぇさんを刺した時の感覚。
ズブリって、僕の剣先がめり込んで。
「ボク……瑞希おねぇさんのこと、大好き」
やさしいやさしいおねぇさん。
ーーーはじめて、感じた、不思議な感覚。
どうしたらそのこと、おねぇさんに伝えられるかなぁ?
「あ、そうだ」
そうだ、そうだ。
もう一度やればいいんだ!
「だって、ボクは『金毛九尾』だもん」
金毛九尾は、正義の味方。
そんなボクが、悪人じゃない人を殺すわけないもの。
刺すわけないもの。
だからきっと、瑞希おねぇさんは悪い人なんだ。
「だけど、ボクは瑞希おねぇさんが大好きだから」
だから、ボクが丁寧に優しく殺してあげよう♪
「そのためにはうってつけの舞台を整えないといけないね」
大好きなおねぇさんのためにも。
「ふふっ、楽しみだなぁ♪」
まってて、瑞希おねぇさん♪
「ふふっ、あははははっ!! 」
ーーー近いうちに、おねぇさんを殺してあげるから♪
大事に大事に。
この手で。
そして証明してあげるよ。
ボクが、おねぇさんのこと、大好きだってこと。
大好きな、おねぇさん。
だけどおねぇさんは悪人だから。
だから、ボクは優しく、大切に殺してあげるね。




