第132話 金毛九尾捕獲作戦
「チッ……ったく……」
土方さんは乱暴に髪をかきあげると諦めたようなため息をついた。
「……わーったよ。瑞希の同行を許可する」
「え、ほんとですかっ!? 」
「と、歳っ!! 」
「土方君……っ!! 」
「喜ぶのは早ーよ瑞希。それと近藤さんと山南さんは話を聞いてくれ」
「あ、ああ……」
「……そうだね」
土方さんの落ち着いた口調に、一瞬取り乱しかけたことを恥じるように2人が腰を落ち着ける。
「瑞希」
「はい! 」
「もし、『金毛九尾』と鉢合わせた時、お前は絶対に総司たちに手を貸すな」
「え? 」
「んで、屯所に急いで帰ってこい」
「な、なんでですか!? 」
それってつまり、私だけ逃げてこいってことだよねっ!?
「敵前逃亡は士道切腹ですよね!? 私切腹なんて嫌ですよ!? 」
「ちげーよ。お前には総司たちの危機を屯所に知らせる伝令になれって言ってんだよ。そうすりゃ俺らが加勢に行ける。『金毛九尾』を捕縛する可能性がグンと上がるだろ」
「そっか!! 」
そうすれば総司たちも無事に戻れる可能性も上がるんだ!
「わかりました!! その伝令役、勤めさせていただきますっ!! 」
「ふん。……近藤さんと山南さんもこれで納得してくれるだろう?」
「そういうことならば……」
「瑞希君、くれぐれも気をつけるんだよ? 」
「はいっ!! 」
ちゃんとみんなの役に立てるように頑張りますっ!!
「おい、総司、斎藤、平助」
「はいはい、わかってますよ、土方さん。もしもの時は瑞希君がちゃんと屯所に向かえるように『金毛九尾』の足止めをしていろってことでしょ? 」
「できるな? 」
「もちろん……」
土方さんの問いに、総司は不敵な笑みを浮かべ、隣の一の方と平助君を見やった。
「一君と平助もできるよね? 」
「当たり前だ」
「もちろんです」
一と平助君は、総司ではなく、なぜか私の方をまっすぐに見つめながら頷いた。
「それじゃあ決まりだね! 準備が出来次第、すぐに出立しようか! 」
総司の言葉に、私と一、そして平助君の四人は無言で頷いた。
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【沖田総司】
「……沖田さん」
ーーー幹部全員での作戦会議が終わって準備をするために自室へ足を向けた僕を、そんな小さな声が呼び止めた。
「ん? なに、ハル君? 」
「……これを」
そう言って彼が差し出してきたのは4枚の人型の小さな紙のようなものだった。
「これは? 」
「……岩城升屋の時と同じものです」
「!! 」
それってつまり……。
「……一回は身代わりになって傷を受け付けてくれるっていう? 」
「はい。……今の僕では、これが精一杯ですから」
青い顔をしたハル君はそう言って弱々しい笑みを浮かべた。
「ありがたく受け取っておくよ」
これはもしもの時に役に立つかもしれないからね。
ま、「もしもの時」なんて、僕がつくらせないけど。
「一応聞いておくけどさ、僕たちに、なんか変な気? だっけ? なんて出てないよね? 」
「……すみません。今の僕の力では、読み取ることができな……っ」
「おっと! 」
ぐらり、とよろめいたハル君の体を支えると、彼は申し訳なさそうに目を伏せて言った。
「……ありがとうございます。まだ、万全とは言えないようです」
「まぁ、仕方ないんじゃない? そういうものなんでしょ? 」
「……ええ」
少し落ち着いたのか、立ち上がったハル君はさっきよりも一層顔が青ざめていた。
「それじゃあ僕はもう行くから。……君は安心して部屋で休んでなよ。瑞希ちゃんのことは僕が必ず守るからさ」
「……はい」
ーーー僕はくるりと体を反転させかけ、ふと、さっき受け取った「身代わり」に関して気になったことを問いかけた。
「そういえばさ、ハル君」
「はい……? 」
「この『身代わり』が受けた傷とか痛みってさ、どうなるの? 」
「……それは……」
一瞬、迷うようにハル君の視線が横へと逸れる。
が、すぐに微笑を浮かべてこちらを見据えると言った。
「……それはあくまで、ただの紙。それが痛みや傷を受けることはありませんよ」
「……ふーん」
ーーーなんか引っかかる気がするんだけど、気のせいかな?
「それでは、僕は失礼します」
最後に淡い笑みを残し、ハル君の後ろ姿が遠ざかる。
「さて、と。僕も準備しないと」
数々の手練手練れの剣士を打ち破ってきた人斬り、「金毛九尾」。
でも、残念ながら、「金毛九尾」は無敗にはならないよ。
ーーー僕が、させない。
僕が今日、その無敗の記録を打ち破ってあげるよ。
ーーー必ず、ね。
今回火の玉狐様よりいただいたイラストは、「朝寝ぼけているときに原田さんに変な柄の着物を着せられて怒っている平助君」の図、だそうです(笑)
原田さんなら本当にやりかねない……。
あわれ、平助君。




