第128話 病弱の理由
【桜庭瑞希】
ハルが体調不良でダウンしたその日の夜。
心配そうな原田さんと山南さんを送り出し、1人、残ってハルの看病することになった。
山南さんから土方さんに話を通してくれたおかげで明日の巡察も免除になったので、看病に専念できる、というわけだ。
「……すみません、瑞希さん。迷惑ばかり、かけてしまって……」
「いーんだよ。これは私がやりたくてやってることなんだし。それからこういう時はすみません、じゃなくて、ありがとうだって言ったでしょ?」
ペロッと舌を出してそう言い返すと、ハルは苦笑を浮かべて頷いた。
「ふふっ、そう、ですね。ありがとうございます、瑞希さん」
「っ!! 」
熱のせいで潤んだ瞳で、しかも上目遣いで微笑むハルはなんとも言えない色気を放っていて、私は思わず視線を逸らした。
「瑞希さん? 」
「な、なんでもないよっ!! それよりさ、ハル……」
「はい……? 」
「……山南さんから聞いたんだけど、ハルはあんまり体が強くないって……本当? 」
「!! ……はい。子供の頃から病がちでした」
「それは……やっぱり体質なの? 」
私の問いに、ハルは軽く目を伏せ、首を縦に振った。
「……ええ。体質、というよりも、『血』のせい、というのが正しいのですけれど」
「『血』?」
「……未来からいらした瑞希さんはご存知なのかもしれませんが……僕には、半分妖の血が混じっています」
「あ!!それ、聞いたことある!!確か、狐の妖怪の血だよね?」
「……そうです。僕の母、葛の葉は『天狐』と呼ばれる高位の妖でした。そして、僕はその母から天狐の莫大な妖力を受け継いでしまったんです」
「妖力を……? 」
「けれど、僕はあくまで半妖。半分人の血が混じったこの体にとって、母から受け継いだ妖力は大きすぎました……」
「!! だから、体が弱くなる……?その妖力で、体が疲れちゃうから……?病気になりやすい?」
「……それだけが理由ではありませんが……そのとおりです」
「……それだけが理由じゃない?」
「……いえ、なんでもありませんよ」
ーーーそう言って微笑んだハルの瞳が、一瞬、悲しみに揺れる。
けれど、私は、そこには触れてはいけないような気がして、それ以上掘り下げて聞くことができなかった。
ーーーそこには、誰も触れちゃいけないような、深い闇があるような気がしたから。
「……ですが、今回のは、おそらく……疲労からくるちょっとした妖力の暴走状態、のようなものですから、風邪ではありません」
「え、そうなの? 」
「はい。ですから、治療方法は療養以外にはありません」
なるほど。
「それじゃあちゃんと寝てなきゃだね」
「ふふっ。そうですね」
ハルはクスリ、と笑い、頷いた。
ーーーその後、ハルの方はつかれたのかすぐに眠ってしまい、念のため、私は自分の布団を持ってきて隣で眠ることにした。
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「ケホッ、ケホッ……」
ーーーそれから数時間ほどが経過した、おそらくは深夜頃。
私は隣から聞こえてきた苦しげに咳き込む声で目を覚ました。
「ん……ケホケホケホッ」
ーーー苦しげな咳が、絶えず響いている。
私はそっと起き上がり、ハルの枕元へと移動した。
「……みず、き、さん……?起こして、しまいました、か……ケホッ」
「無理に喋らなくていいよ、ハル」
念のためつけっぱなしにしていた灯篭の明かりを頼りに、ハルの顔を覗き込む。
その顔色は、暗い中でもわかるほどに青ざめ、疲労の色が濃い。
おそらく、咳のせいであまり眠れていないのだろう。
ハルはどうやら、体調を崩すと咳が止まらなくなる体質のようだ。
私の同級生にも、喘息持ちの子がいたからそれがどんなに苦しいことなのか知っている。
「高熱を出した状態で足のつかないプールに放り込まれた」ようなものだって言っていた。
それで、 確かそんな時、少しでも苦しみを軽減する方法は……。
「っ、ちょっと待ってて! 」
そうだ!!
その方法はーーーーーー!!
「よっ、と」
自分の部屋に戻り、押入れから座布団を3つ取り出した。
それを持ってハルの部屋へ戻り、座布団3つを抱えながら彼の枕元へと走り寄った。
「ごめん、ちょっとだけ起き上がってくれる? 」
「え……? 」
驚いたように目を見開くハルの肩を支えて半ば無理やり身を起こさせ、枕の代わりに持ってきた座布団を重ねて敷いた。
「よし!これで横になってみて! 」
「……? 」
私の突然の行動に、困惑げだったハルだが、身を起こしているのが辛いのか、素直に従ってくれる。
「ん……ケホッ……あ、れ?息、しやすく……?」
何度か咳を漏らすものの、それがみるみるうちに治まっていく。
紫色の瞳が説明を求めるかのようにこちらを向いた。
「これはね、私が向こうの時代で知った、ちょっとした裏技? みたいのだよ。咳が止まらなくて苦しい時は、こうやって枕を高くするといいんだって。なんでかはわからないけどね」
「そ、う……」
「でもよかった!これでハルも寝られるね!」
私の言葉に、ハルは淡い笑みを残し、静かに目を閉じた。
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【???】
「ふふっ。京だっ♪ 久しぶりだなぁ」
今日からは京で遊ぼう!
だって、大阪じゃあたいした獲物なさそうだったし京の方が、楽しそうなんだもん。
ーーーあのおねーさんもこっちにいるみたいだしね。
いーっぱい掃除しないと。
「なんたって、ボクは “金毛九尾” だもの」
「金毛九尾」は、正義の味方なのだ☆
だからーーーーーーー。
「おい、そこの坊主!」
「こんな時間に子供が一人で出歩くタァ不用心だぜェ?」
「ちょいと金目のもの置いてけや」
ーーーーああ、早速発見。
「金目のもの、ねぇ? 」
ーーーー「金毛九尾」は正義の味方。
「最初の獲物、見ぃつけた ♪」
ーーーー汚いものは、処分しなきゃ☆
ねぇ?
ーーーズシャ




