おまけ小話⑤ 土方さんの恋愛事情
【桜庭瑞希】
とある日の夕方。
昼の巡察を終えた私が屯所へ戻ると、門の前で土方さんと、そして赤い着物を着た知らない女の人がいた。
「土方さん?こんなとこでなにやってるんですか?」
そう声をかけると、二人は驚いたように振り返った。
土方さんと一緒にいた女の人は、同性私から見ても見惚れるような色っぽい美人だった。
なるほど、この人ならば土方さんの好みにぴったりだなぁ。
「ああすみません、土方さん。デー……逢引の邪魔しちゃって。邪魔者はさっさと退散しまーす」
「あ、馬鹿、ちげーよ! こいつと俺はそういう関係じゃねぇ! 」
「えぇー? 違うんですか? 」
そんなに必死に否定するなんて怪しー。
「ほらさっさと戻るぞ。入った入った!んでもってオメーはさっさと帰れ!」
土方さんはそう怒鳴ると綺麗な女の人の返事を聞くよりも先に、私の腕を引きながら強引に中へと入っていく。
「ちょっ、ちょっと!! 良いんですか!? あの女の人、置いてきちゃって!? 」
「いーんだよ、別に! だいたい、あいつは“ 女 ”じゃねぇ!! 」
「え」
……あれが、女じゃない?
「いやいやぁ、そんな、照れなくたって良いじゃないですか、土方さん!! それ、さっきの女の人に失礼ですって! 土方さんも冗談が過ぎるなぁ」
「……残念だが冗談でもなんでもねぇぞ」
「ぇ」
………………。
「えええええええええええええええええええええええええええええっ!?!? う、嘘でしょっ!? 」
「うるせぇ!! そして嘘なんかじゃねぇ!! 」
「……え、ちょっと待って、え、本当、なの!? 」
「だからそう言ってんだろうが! あいつは男娼だ! れっきとした男だ!! 」
「だ、男娼!? 」
それって、つまり、遊女の男版!?
「ってことは、土方さんはホモ……じゃなかった、衆道だったんですか!? 」
「なんでそうなるんだよっ!? なわけあるかっ!! あれはあっちから押しかけてきやがったんだっ!! 俺は間違っても男になんざ興味ねぇっ!! 」
くわっと目を見開いて必死に否定する土方さんは、実に鬼気迫るところがある。
そんなにホモに見られるの、嫌か。
「……土方さん、男女問わずモテますねぇ」
「女はともかく、男願い下げだっての」
「そういえば土方さん、子供の時、奉公先の番頭に衆道関係迫られたんですよねー」
それで、奉公やめなくちゃならなくなったって話があった気がする。
「……おい。なんでお前がそれ知ってんだよ? 」
「え? あ、い、いや、し、新八君に聞きましたっ!! 」
しまったと思い、新八君を生贄に捧げる私。
新八君、すまんよ。
「チッ……あいつか。後で仕事倍にしてやる」
「ははははは」
尊き犠牲だったな、うん。
……というか。
「その話、本当だったんですね」
「あぁ?……まぁな。ま、そのふざけた言葉聞いた瞬間に三昧に下ろしてやったけどな」
「……」
番頭さん……。
誘う相手間違えると命に関わるよ。
「あ、いたいた!土方さん!」
ちょうどその時、後ろから聞こえた声に振り返ってみてみると、そこには右手に手紙のようなものを持ってそれを左右に振りながら走り寄ってくる原田さんがいた。
「原田さん? なんですか、その手紙? 」
「ああ、瑞希ちゃん……これはさっき門のところで土方さんにって渡されたおそらく恋文だよ」
「恋文!? しかも門のところ……っていうと、赤い着物を着た人ですか?」
「いや、違うよ。緑の着物の人」
ーーーあれ、また違う人?
「……でもさ、あれ……男、だと思うんだよねぇ」
「え、また男!? 」
「またって、まさか、他にも男が……? 」
「はい! さっき土方さんに会いに来てました! 」
「ふーん。土方さん、衆道かぁ」
「って、原田、ちげぇよっ!?」
「いやいや、隠さなくたっていいんですよ、土方さん。俺だって、可愛いものならなんでも好きですから」
なんとも生暖かい目で土方さんへ視線を送りながらわけ知り顔で頷く。
「そうですよ、土方さん」
なんとなく面白そうだったので、私もそう便乗しておいた。
そんな私の言葉に、土方さんは大きく目を見開き、直後、鬼の形相で叫んだ。
「だから俺は衆道じゃねぇええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!! 」
ーーーこれから数日間、「土方さん衆道説」が屯所内を飛び交ったことは言うまでもないことである。




