第125話 土方さんの「デレ」
【桜庭瑞希】
「うわぁ!!やっぱり大阪はすごい人!!」
「あ、おいっ!!あんまりうろちょろするんじゃねぇ、瑞希っ!!」
ーーー大阪滞在の4日目。
怒涛のような三日間が終わり、土方さんが、今日は色々と頑張ったご褒美に、大阪見物へ連れて行ってやると言い出した。
ちなみに、ここでも総司と一を交えて一悶着あったのだが、今回は我慢の限界が来たらしい土方さんがブチ切れてことなきを得た。
あの時は土方さんの頭に鬼のツノの幻影を見たよ、ほんとに。
結果、総司と一は土方さんとまだ本調子じゃない山南さんの代わりに岩城升屋の片付けを手伝いに行くらしい。
山南さんの体調不良に関しては、晴明君、もとい、ハルによると、「身代わり」のちょっとした反動の影響を受けただけで、1日もすれば回復するということだった。
そのハルに関しては、一応今回の大阪見物に誘ってみたのだが、もしも何かあったら困るから山南さんのそばについていると言って断られてしまった。
ああ、そうそう、近藤さんと他の隊士たちは例のごとく二日酔いで撃沈しているらしい。
まったく、毎日毎日飲んだくれて楽しいのやら。
ーーーかくして私は土方さんとともに大阪の街を満喫することとなったのだった。
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「お前はどこか行きたいところあるか?」
「私ですか?うーん、特にはないです。お店とか、いろんなの見てるだけで楽しめますから」
ーーー賑やかな街は好きな分類に入るしね。
「そうか。ならちょっと買いたいものがあるから行ってもいいか?」
「もちろん!おつきあいしますよ!!それ、どこなんですか?」
「髪紐が売ってる店だ。俺のもう傷んできたからな」
「髪紐かぁ………」
ちらりと土方さんの背中くらいまでの黒髪を後ろの低い位置で結っている髪紐に視線を移す。
…………確かに、よくよく見るとその藍色の紐が所々ほつれているようにも見える。
髪紐というと、そういえば…………。
晴め……ハルが食べ物食べる時少し髪、邪魔そうにしていたよね。
長さとしては肩までだけど、結べないことはない。
お土産に買って行ってあげようかな。
「ああ、ここだ」
そう言って土方さんが立ち止まったのは種類豊富な髪紐を売っているお店だった。
目移りするほどにいろいろな髪紐を土方さん同様に物色する。
…………うーん。
ハルはどういう色が好きなんだろう?
そういえば、ハルはよく青系の袴着てるよなぁ。
青が好きなのかな?
ああでも瞳の色に合わせた紫っていうのもいいし…………。
「ん?」
ーーーふと、目に付いた髪紐を手に取る。
それは淡い水色で、ともすれば銀にも見える不思議な色合いで、紐の先端に小さな鈴がついていて、揺れるたびにリン、リンと涼やかな音が響いた。
「なんかいいのでも見つかったか……って、んな鈴なんか付いたもんつけてたら、敵に自分の位置教えてるようなもんだろうが。やめとけやめとけ」
「ああ土方さん、違うんですよ。……ハルにお土産にしようかなぁって」
「ハル?誰だそれ?」
「せ……桔梗君のことですよ。総司たちと決めた呼び名です。ほら、桔梗君って『春』みたいに優しいじゃないですか。いい名前でしょ?」
「…………女みてぇな名前だな。まぁ、あいつ自身女みたいだし、いいのか」
ーーーいやいや、女みたいって。
それは失礼でしょ、ハルに。
「普段結うわけじゃなくて、食事の時とかに結ぶためのものだから、こういうのでもいいじゃないですか」
「……ふん。勝手にしろ」
「はーい!勝手にしまーす!!」
これでも一応、ほんの少しだけどお給料もらってるからね!買うものほとんどないし、買ってこようっと。
「…………ちょっと待て」
「ほえ?って、何するんですか土方さん!?」
ーーー何乙女の髪むんずと掴んじゃってんの!?
「お前、髪紐こればっかりつけてるが、これしかねぇのか?」
「え?はぁ、そうですよ。これは総司からもらったものです」
「総司から?」
ーーー驚いたように目を丸くする土方さん。
一体土方さんの中で、総司はどんな評価になっていることやら。
「…………あの総司が女に贈り物をするとはな。まぁいい、ちょっと待ってろ」
「えっ!?」
私の髪から手を離すと、何やらまた店の奥の方へ行き、かと思うとすぐに戻ってくる。
その手にはさっきも持っていた深緑色の髪紐の他に、黒い和紐にピンク色の糸が数本入った、先端には桜をかたどった飾りが付いているオシャレな髪紐があった。
「え、それ…………」
ーーー土方さんがつけるんですか?と聞くよりも先に、店主にお金を払ってしまった土方さん。
「ほれ」
「わっ!!」
ーーーお会計を済ませた土方さんは片方の袋を私に投げつけて言った。
「それ、お前にやる」
「えっ!?」
ーーー土方さんからのプレゼント!?
「……昨日は山南さんを助けてくれたからな。褒美だ」
「いいんですか!?」
「よくなかったら買ってやらねぇよ」
ーーーそうして土方さんはどこか照れたようにそっぽを向いた。
「あ、ありがとうございますっ!!」
土方さんのデレ、いただきましたっ!!
そんな、密かなキャラ萌えを胸に、私はもらった髪紐の入った袋を抱きしめた。
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「土方さんっ!!みてください!美味しそうな甘味処がありますよっ!!」
「また食うのかよ!?さっきもそこで饅頭食ったよなぁ!?」
「さっきのは饅頭、こっちはあんみつですっ!!」
「同じじゃねーか!!お前の胃袋は底なしか!?」
「甘味ならいくらでも入りますよ!!」
「オメーは総司か!!一応お前も女なんだからちったぁ着物や簪に興味示しやがれっ!!」
「いやいや、今私は男装してるんですよ?一般的に見て男の私が女物の簪とか着物見てたらおかしいでしょ」
「見ろとまでは言わねぇよ。だがせめてちらりとでもいいから見ろよ!お前、さっきからそういうのには目もくれてねぇだろうが!」
「知ってます、土方さん?『色気より食い気』って言葉。この言葉の通り、私は着物や簪よりも甘味をとりますんで、早くあの甘味処に行きましょう!!」
「…………ああもうこれだめだな」
土方さんの呆れとも諦めとも取れる言葉を華麗にスルーしつつ、私は甘味処に突撃した。
ーーーのだが。
「うわっ!!」
「!!」
甘味処からでてきた人物とぶつかって尻餅をついてしまった。
「あ、おい!なにやってんだよ!」
土方さんの焦ったような声に我に返った私はパッと立ち上がり、ぶつかった人物を見上げ、頭を下げかけ、動作を止めた。
火の玉狐様より、安倍晴明のイラストをいただきました♪
次話+小話で今章は終了です^ ^
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