第123話 火事場の馬鹿力
【桜庭瑞希】
晴明君の呼び名をつけた後。
晴明君ーーーハルは少し休むからと言って部屋に戻っため、その場には私と総司、一の三人が残された。
「そて、と。それじゃあ僕らは山南さんのところに行ってみようか？」
「あ、それ賛成！！」
そろそろ目が覚めた頃だと思うしね！
元気になってるといいなぁ。
「ああ、そうだな」
「それじゃあレッツゴーだね！」
「「れっつごー？」」
「あ、いや、なんでもないよっ！！行こっかってこと！！」
一に未来から来たってことを話したから、気が緩んでしまった。
危ない危ない。
これ以上墓穴を掘るのはごめんだ。
ーーー慌てて首を振った私に、総司と一は不思議そうに首をかしげたが、それよりも山南さんの方が気になったのか、それ以上食い下がることはなく、ほとんど真っ暗になった夜空を尻目に、私たち三人は山南さんの部屋へと向かった。
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「山南さん！！」
ーーー土方さんの隣に位置する山南さんの部屋に到着すると、布団の上で身を起こした山南さんとそばで胡座をかいた土方さんに出迎えられた。
「おかえり、三人とも」
「山南さんっ！！目が覚めたんですねっ！？怪我はありませんか！？」
「ははは。おかげさまでね。ほとんど無傷だよ」
「よ、よかったぁ……」
穏やかな笑みを浮かべた山南さんの顔を見て、私は心から頑張ってよかったなと思った。
ーーーこれで、山南さんの切腹を防げるかもしれないからね！！
「おい、瑞希」
「土方さん？なんですか、そんな顔をして」
眉間に深〜いシワができてますよ？
「……この顔は生まれつきだ馬鹿野郎」
「え、なにそれ。そんな可愛くない赤ちゃんやだ……」
「んだとゴラ！？」
「まぁまぁ。このままでは話が進まないよ、土方君」
ドスを効かせて私を睨む土方さんを山南さんが苦笑をを浮かべて諌める。
そんな、いつもの和やかな光景を守れて本当によかったと思う。
「チッ、まぁいい。それよりだ、瑞希」
「なんですか？」
「実はだな……」
「……土方君、ここからは私から彼に質問させてもらってもいいかい？」
「……ああ」
珍しく言葉を遮ってそう尋ねた山南さんを、土方さんは少し驚いた表情でちらりと見たが、すぐに納得したように頷いて口を閉じた。
代わりにさっきまでの笑みを消し、真剣な表情を浮かべてこちらを見据える山南さんに、私は思わず背筋を正した。
「実はね、さっきの岩城升屋の時のことで、瑞希君に聞きたいことがあるんだよ」
「さっきの……？」
「……確か、君が来た時、私は敵に斬られたはずなんだが」
「！！」
「……その後の記憶が全くなくてね。気がついたらここにいたのだけど……君は見ていたのだろうから、あの後どうなったのか、教えてくれるかい？」
「っ……」
ーーーその説明を考えておくの、忘れてた！！
山南さんからしたら、自分は斬られたと思っているはずなのに、どこも怪我してない。
そりゃあ不思議に思うだろう。
だからと言って、本当のことは言えない。
ーーーど、どうしよう……。
「……それは、瑞希君が阻んだんですよ、山南さん」
「沖田君？」
ーーーどう言い訳していいかわからず、押し黙った私を救ってくれたのは総司だった。
「しかしね、沖田君。彼は間に合ったはずはないんだよ」
「……人間というのは、火事場の馬鹿力とも言うように、もしもの時に普段とは段違いの力を発揮するといいます。それではないでしょうか？」
一も総司に加勢するようにそう言う。
「……火事場の馬鹿力……。なるほどね。確かにあり得る話かもしれない」
ーーー二人の説明に、山南さんは納得がいったのか、表情を緩めて頷いた。
「ならば、瑞希君は私の恩人なんだね」
「えっ！？い、いや、そんな……」
ーーー本当の恩人は晴明君ーーーハルだし！！
私はむしろ、間に合わなかったんだから……。
「私は、瑞希君がいなければ、確実に斬られていた。……おそらく、もう二どと刀を持てなくなっていただろう」
「！！」
「……だから、とても感謝している。ありがとう」
「あ……」
山南さんの優しい笑みに、思わず嬉しさで涙くみそうになるのをこらえ、私は大きく頷いた。
「私も、山南さんが無事でよかったですっ！！」
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それから私たちはしばらく談笑したのち、
「それじゃあ、そろそろ私たちも部屋に戻ろっか」
「そうだね」
「ああ。……瑞希は荷物をまとめて俺の部屋に来い」
「ほぇ？」
一は一体何を言っているんだ？
「……忘れたのか？沖田と俺、二日交代で部屋を変える約束だろう？」
「あ！」
ーーーそういえば忘れてた！！
「ははは」
「おいおい」
「……チッ」
ーーーそんな私をみて、山南さんが笑って、土方さんは呆れたような表情を浮かべた。
って、おい！
総司今、舌打ちしたよね！？
「なんで舌打ちするのさ、総司」
「……瑞希ちゃんにしたわけじゃないから安心しなよ」
「私じゃない？」
それじゃあ一に？
なんでだ？
「……瑞希」
「あ、一」
「……待っているぞ」
「！！うんっ！」
優しい笑みを口元に浮かべた一はそう言い残し、宿へと入っていった。
「……ふん」
「もう、総司ったら一体何をそんなに怒ってるわけ？」
「別にぃ？」
ーーー最後に取り残された私は、なぜかふくれっ面の総司を諌めながら自身の荷物を取りに宿の部屋へと戻るのだったーーーーーーーーーー。
