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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第十章 始まりの「分岐点」
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第121話 「秘密」の暴露

【桜庭瑞希】


ーーー私たちが宿に到着した頃にはすでに日はおちかけていて、オレンジ色の夕日が影を長々と地面に落としていた。


「よかったね、瑞希ちゃん。山南さん、ちゃんと守れて」

「うん! 一時はどうなるかと思ったけど、晴明君が……」

「瑞希さん」


この場を遮るように、私の名を呼び、晴明君は私にしか見えないようにして人差し指を口元に立てた。


ーーーさっきのーーー晴明君が刀を使えた件を黙っていろということだろうか?


秘密にしたいのかな?


「ーーー瑞希ちゃん? 彼がどうかしたの? 」

「い、いや!!なんでもないよ、総司!」

「は?いや、なんでもないって、そんなこと……」

「……少しいいか、瑞希? 」

「 一? 」


私の下手な誤魔化しに、納得できない様子の総司を珍しく強引に遮った一はじっと伺うような視線をこちらへ向けた。


「そんなに改まってどうしたの? 」


内心、助かった! と思いながら、一の顔を見上げて首をかしげる。


ーーー何か聞きたいことがあるのだろうか?


「……瑞希、お前は今も、そしてさっきも小鳥遊を『晴明』と呼んだ」

「え……」

「ーーー小鳥遊の名前は『桔梗』だったと思ったが……『晴明』とはなんだ? 」

「っ!!」


一からの予想外な問いに、私のみならず、総司と晴明君自身もハッとしたように目を見開いた。



ーーーしまった!!


私、事情を知らない一の前で「晴明君」って呼んじゃったんだ!!


ど、どうする!?

本当のことを話すわけにはいかないし……。


ーーーだからと言って、下手な誤魔化しもできない。


「ーーー小鳥遊はどうなんだ?」

「……」


再度、今度は自分にかけられた晴明君は視線を落とし、押し黙る。


が、すぐに顔を上げると、その白い面を一に向けた。


ーーーけれど、その紫の瞳からは、何の感情も読み取れなかった。


「そのことについてお話しする前に……あなた自身、瑞希さんの『秘密』に気づいていること、教えて差し上げたらいかがです? 」


ーーーいつも穏やかな晴明君らしからぬ、どこか無機質な声音。


ーーーそれは、まるで一切の感情を捨て去ったかのような、淡々とした声だった。


「!! 」

「私の、秘密……? 」


ーーー秘密って、私が未来人だってことじゃないよね?


私にはその「秘密」とやらがいったいなんなのか、皆目見当もつかなかったけれど、一の様子から、それがなんなのか、彼にはわかったようだった。


「……ああ、そうだな。確かに、俺は瑞希の秘密……瑞希が女だということを(・・・・・・・・)知っている」

「え……? 」


……一が。


私が女だと、知っている……?


「……それ、本当なの、一? 」

「……ああ。今まで、黙っていてすまなかった」

「い、いったい、いつから……? 」

「もうずっと前……お前が来てすぐの4月、お前が覚えているかはわからないが、あの町全体が見える高台に行った時だ」

「!! あの時から……!? 」


そんな……。


そんな前から気づかれていただなんて……。


「でも、どうしてそれを誰にも言わなかったの?私が、みんなを騙していること……」

「何か、わけがあると思った。それに、俺は瑞希から居場所を、この新選組という居場所を奪いたくなかった」

「!!」


ーーー私の、居場所……。


「今まで、騙していて悪かった」


一はそう言って頭を下げた。


「っ、そんなのっ!! こっちだって一のこと騙してた! 私が女だってことも、そして、桔梗君……ううん、晴明君のことも、そして私自身のことも!! 」

「……瑞希のこと……? 」


ーーー私は一から視線を一旦外し、晴明君と総司の方を見比べた。



ーーー私は、私のこと、全部話していい?


そんな私の心の問いかけを理解したのか、二人は微笑を浮かべてーーーといっても、晴明君は苦笑、総司は根負けしたような笑みだったがーーー小さく頷いた。


「あのね、一。私はね、この時代の人間じゃないんだ」


ーーーそう、私は慎重に言葉を選びながら、こちらを見下ろし続ける一に届くよう、全てを話した。


ーーー私がいったいどこから来たのか。


ーーー晴明君の正体。


そして、私が今やろうとしていることを……。



********************



「……つまり、瑞希は今から150年後の未来から来て、そして小鳥遊は平安から来た陰陽師、『安倍晴明』だ、ということか? 」

「うん、そうだよ。私と晴明君、時代の違う二人がどうしてこの時代に来た、または連れてこられたのかはわからないし、帰り方もわからないけど」

「……」

「……ごめん、今まで黙ってて。信じられないかもしれないけど、これは本当の本当、事実だよ」


ーーーなんとか全てを伝え終えた私は騙す形になってしまった一の顔をまともに見られず、顔を伏せた。


ーーー信じてなんか、もらえないだろうな。


ずっと何も言わずに騙してたんだから。


でもそれは仕方のないことだ。


ーーー嫌われてしまうのも、覚悟の上だった。


ーーーだけどせめて。


せめて、友達のままでいてくれたら……。

そう思ってしまう私は欲張りなのだろうか?


「……俺はお前を信じるぞ、瑞希」

「え……」


ーーー頭上から、ふんわりと優しい声が降ってきて、そして私の頭にポンポンと優しく撫でる温かいものが乗っかった。


「一……? 」

「俺は、お前のことを信じる。……たとえ、お前が未来人であろうと、態度を変えたりなどしない。小鳥遊……いや、安倍、と呼んだ方がいいか? お前も同じだ」


……次いで、一の黒い瞳が晴明君の方を向く。


ーーーその視線の先で、晴明君が驚いたような、困惑するようななんとも言えない表情を浮かべているのが見えた。


「……総司、お前はこのことを知っていたんだな? 」

「……うん。知ってたよ。はじめからね」

「そうか。……ということは、今まで瑞希のいう、『歴史の改変』とやらを手伝っていたと? 」

「うん、まぁね」

「なるほどな。だから今回、瑞希は山南さんが怪我をするという未来を知っていて、その上で、その未来を回避するために沖田と安倍が瑞希に協力していたのか」


一の視線が再度こちらを向き、その口元にほんのりと笑みが浮かんだ。


「ならば瑞希。俺もその『歴史の改変』とやらに協力しよう」

「!! いいの……? というか、他の人には黙っていてくれるの?」

「ああ。もちろんだ。俺が、お前の悲しむことをするわけがないだろう? 」

「っ!! 」

「それに、人数は多ければ多い方が、仲間を救えるかもしれない。俺自身、仲間を救うのに、異存はないからな」

「一……っ!! 」


ーーー胸に温かいものがこみ上げてきて、それが心を満たしていく。


「ありがとう……一……」


ーーー震えそうになる声を抑え、そう言って笑いかけると、一もまたほんの少しだけだけれど笑ってくれた。


ーーーそれが、その小さな微笑みが、何よりも嬉しい。


私はその時、そう思ったのだったーーーーーーーーーーーーー。


挿絵(By みてみん)


火の玉狐様より、瑞希のイラストをいただきました!!


瑞希の見返りの図です^ ^


それから、活動報告を更新しましたので、よろしければ見ていってください!

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