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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第十章 始まりの「分岐点」
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第116話 半妖の忠告

【沖田総司】


「芦屋……道満……?」

「ええ、そうよ」

「……それで?君は一体、何者?ただの人間じゃないよね。物の怪?」


少女……芦屋道満はクスリと笑みを浮かべた。


「物の怪、ね。言い得て妙だわ。私は、半分は物の怪の血が流れている半妖だから。……他に聞きたいことは?」

「いやに素直に答えるんだね。まぁいいや。……それじゃあ、ここはどこ?」


ーーーここは、明らかに僕がいたところじゃない、別の世界だよね?


「……ここは、現と夢の狭間。私が作り出した『異界』と呼ばれるものよ。……この術式だけは、晴明にも負けない自信があるわ」

「っ!!彼を知っているの!?」

「ええ。もちろん。晴明……安倍晴明のことも、もちろん、桜庭瑞希のことも、ね」

「!!」


ーーーこの子は……。


まさか……。


「安心して。あの二人をあなたの時代に呼んだのは私じゃないわ」

「……それ、信じられるとでも?」

「信じる信じないはあなた次第。私はあくまで真実を語る」

「だったら……君はあの2人をこっちに送り込んだ人を知っている?」

「……それは、わからないわ。もしかしたら、という予想はあるけれど、もし、それが本当ならば、私にはどうすることもできない。でもね、沖田総司」


少女の金の瞳が、こちらを射抜くように向く。



「私なら、あの2人を元の時代に戻せるわ」

「っ!?」



ーーー瑞希ちゃんが、いなくなる?


「っ、させないっ!!」

「安心しなさい。しないわ。そもそも、元の時代に戻るのは、晴明にだってできるのよ」

「え?」


彼にも、できる?


「けれど、おそらく、彼は私の存在に気づいている。そして、私が一体何のためにここにいるかを探っているはずよ。その目的がわからない以上、彼は動かない。彼もまた、時廻りの代償を知っているから。……その代償を払うことは、彼にはできない」

「代償……?」

「それはあなたが知る必要はないわ。命に関わるものではない、とでも覚えておけばいい。それよりも、私がここにあなたを呼んだ理由、知りたいんじゃないの?沖田総司?」


芦屋道満は目を細め、一歩踏み出して言った。


「ある事件を、とめてほしいの」

「……事件?」

「そうよ。……今、あなたたちは大阪にいるわね?」

「そうだけど……まさか!? 」

「ええ、そう。桜庭瑞希は忘れているようだけど」



「明日、とある事件が起こる。そこで、あなたたちの仲間……山南敬助が大怪我を負う」

「!!」


山南さんが……大怪我……!?


「私の願いはただ一つ。その事件を阻止して」

「そ、そりゃあ、もちろん阻止するけど……それを伝えればいいわけだよね?」

「いいえ、違うわ。それを伝えたら、桜庭瑞希に私の存在を知られることになる。そうなったら、彼女は私を探して、もしくは晴明の力を使って現代に戻ろうとするはずよ。あなたはそれでいいの?」

「っ!!でも他にどうすればいいのさ?」

「おそらく、晴明が、山南敬助に不穏な影は見ているはず。これから何かが起こるかもしれないとね。けれど、晴明に、直接私の存在を知らせることは許さないわ。今は、まだ彼に見つかるわけにはいかないから」

「……君は一体何を……」

「……いずれ、わかるわ。ただ、今言えるのは、私が『新選組』を救おうとしているということだけ。これ以上は教えられない。……とにかく、これから晴明が桜庭瑞希に対してなんらかの行動に出るはず。そうして何かの片鱗があれば、必ずその事件を思い出すはず。だからあなたは山南敬助を護衛して。……もし、桜庭瑞希が思い出さなければ、多少強引な手を使ってもいいわ。どんな手を使ってでも、必ず事件を阻止して」

「……どうして、そこまで……」


新選組を助けて、君に何の得がある?


僕の問いかけに、金の瞳が悲しみに揺れた。


「……助けたい人がいるから。ただ、それだけよ」

「それは……ひょっとして……君はその人を……」

「……。そろそろ時間よ。これ以上は術を行使すれば、晴明に気付かれてしまうから」


「事件が起こるのは明日の夕方。起こる場所は『岩城升屋』。沖田総司。あなたを今から元の場所へ戻す。……必ず、事件を阻止して」

「私はあなたに術をかける。あなたが、私の存在を人に話せないように」

「さぁ、あなたを元に場所に返すわ」


ーーー刹那、頭が猛烈に痛み出す。


「っ!!」


ズキン


ズキン


「くっ、あっ」


「……ご……め、な……い」


ーーー意識を失う前。


最後の瞬間、遠くで少女の掠れた声が聞こえた気がした。



********************



「っ!!」


ズキン、という頭の痛みに、さっきと同じように意識が覚醒していく。


「……戻って、きた……?」


場所は、さっきまでいた宿の廊下。


おそらく、周りの様子からして、時間はそれほど経っていないのだろう。


「……芦屋道満……」


悲しい目をした、幼い少女。


「岩城升屋、か」


その場所で、山南さんが怪我をする。


なぜか、あの少女は新選組を助けるといった。


だが……。


「彼女の『本当の目的』は、なんだろうね……?」



『助けたい人がいる』



あれはたぶん、彼女の……。


「部屋に、戻ろう」


明日は、あの少女の言葉が本当ならば、長い1日になる。


「瑞希ちゃん……」


ごめん、瑞希ちゃん。


僕は、今はまだ、君を手放したくない。


せめて、僕の「想い」を、君が理解できるようになるまでは。


だから僕は。


ーーー口をつぐむことにするよ。


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