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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第十章 始まりの「分岐点」
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第114話 始動

【桜庭瑞希】


ーーー沖田さん……もとい、総司と無事仲直りした翌日。


私たち新選組は徳川……あれ、なんだっけ?


「徳川……なにさんだっけ……?」

「……徳川家茂公、ですよ、瑞希さん」

「あ、晴明君。徳川家茂公、それだそれ!」


ーーー徳川全く興味なかったから忘れてたわ〜。


「瑞希ちゃん、そんな大事なこと、忘れちゃダメでしょ」

「うわぁ、総司っ!?ちょっと、気配殺して近づかないでよ!」

「別に消してないけど?瑞希ちゃんが鈍いだけだよ★」

「むぅ!!」


ーーー総司とは、昨日の約束で、敬語もなしにして下の名前で呼ぶことにしたのだ。


それを知らない晴明君が驚いた表情で私たちを見比べていた。


「敬語、やめたんですね」

「ああ、うん。まぁ、私、もともとそういうの、苦手だったし。総司がいらないっていうからさ」

「確かに、瑞希ちゃん、土方さんへの言葉が、よく敬語消えるよね」

「いやぁ、つい忘れるんだよねぇ」


とくに、言い争いをしている時とか。


「あ、そうそう。晴明君も、私に敬語使わなくていいよ。私も使ってないし」

「あ、それは……すみません。敬語は、その、癖みたいなものなので……」

「そうなの?」


でも確かに、晴明君がタメ口きいてるの、聞いたことないかも。


と、そこへ。


「ああ、ここにいたんだね」

「山南さん!」

「そろそろ出るから準備をしておいで」

「はーい!」

「了解」

「わかりました」


穏やかな笑みの山南さんに三者三様の返事を返し、出陣(?)の準備をするべく、部屋に戻りかけーーーーーー。


「ん?」

「??どうかしたかい、瑞希君?」

「い、いえ、なんでもないです!!」


ーーー山南さんの顔を見た瞬間、何かを思い出しかけたような、そんな気が一瞬したのだが……。


気のせいかな?


首をかしげ、踵を返して部屋へと向かう。


ーーーそんな私と山南さんを、晴明君が厳しい表情で見つめていたことに、その時の私は気づきもしなかった。



********************



「おわったぁ……」


ーーー夕方。


無事、警備を終えた私たちはせっかくなので遊郭で飲もう!ということになり、私も、この前の大阪力士乱闘事件の時出会ったお菊ちゃんに会うべく、一緒に行かせてもらうことになったのだが……。


「あれ?総司はいかないの?」

「あーうん。僕はいいや。瑞希ちゃんは楽しんでくるといいよ。あの時の女の子に会うんでしょ?」

「うん!楽しみだなぁ、お菊ちゃんに会うの。覚えててくれるかなぁ?」

「たぶん覚えてると思うよ?」

「そうかなぁ?」

「……彼女、君に惚れてるし」

「ん?なんか言った?」

「いーや、なんでも?」


総司が呆れた顔をしているのは気のせいか?


うん、まぁ、気のせいだな。


「それじゃあ総司、なるべく今日中には帰るから!」

「いってらっしゃい、瑞希ちゃん」

「はいっ!!」


よぉし!

今日はお菊ちゃんたちとめいいっぱい楽しむぞー!!



********************



【沖田総司】


「っ……」


遠ざかる瑞希ちゃんの背を見送り、踵を返した瞬間、さっきから気になっていた頭痛がより一層強まった気がして思わず顔をしかめた。


「いっ……風邪、かなぁ……?」


ズキン


ズキン


「うっ……」


歩くたびに、痛みがひどくなる。


ズキン


ズキン


「っ!!」


あまりの痛さに、今は店番以外誰もいない宿の壁に手をつく。


ーーー目の前が真っ白になるような痛みに、僕の意識はそこでプツリと途絶えた。



********************


…………………………………………。


……………………………。


………………………。


「う……」


ーーー意識が覚醒する。


目を開けた瞬間、頭の奥に激痛が走ったが、その痛みはすぐに遠ざかっていった。


「……ここは……」


身を起こし、辺りを見渡すと、そこには……。


「桜……?」


ひらり、ひらり。


「なっ!?そんな馬鹿な!!桜が、今の季節に咲いているわけがない!!」


だって、桜は4月に咲くものだよ!?


だいたい、僕は宿で気を失ったはずなのに……。


「ここは、一体……?」


辺りには、数本の満開な桜の木とそして一軒の立派な日本家屋があった。


ーーー僕が立っている場所はたぶん、庭だね。


「!!空が……」


ーーー空も、日本家屋と桜も地面以外、何もかも、真っ黒だ。



ーーーと、その時。



「来たわね」

「っ!?」


ーーー見るからに異様なその空間に、幼い少女の声が響いた。


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