おまけ小話④ 幕末調理実習
【桜庭瑞希】
「ーーーところでさ、瑞希。君、料理ができるんだってね?」
ーーー原田さんとの昼の巡察を終え、そのまま彼の部屋にて、ルームメイトの新八君、平助君を加えて団欒していた時、原田さんがふと、そんな事を言いだした。
「え?……そりゃあ、まぁ、少しはできますけど……」
「じゃあちょっと俺たちにも教えてよ」
「はい?」
ーーー何を突然言いだすんだ、この人は?
「お、それ面白そうだな!」
「……僕も、習いたいです」
「ええっ!?」
新八君は兎も角、平助君も!?
「い、いやぁ、私の料理の腕なんてそんな、たいした物じゃないし……」
「いや、十分すごいぜ?俺なんか刀は持った事あるけど包丁はないぞ?」
「そこは誇るところじゃないと思うよ、新八君……」
胸張るべき場所でもないよ?
「で、教えてくれるの、瑞希?」
「…………はぁ…………わかりましたよ……」
仕方ない。料理はそれなりにできるし、やれる事はやってやるか。
「「「やった!!」」」
そんな私の返答に、三人は三者三様のガッツポーズをしたーーーーーーー。
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「…………原田さん」
「……………………………………うん」
「…………平助君」
「……………………………………はい」
「…………新八君」
「……………………………………お、おぅ」
「どうしてこうなるわけ?」
「「「……………………………………………………………………………………」」」
ーーー私の後方には料理人などが見たら発狂しそうな、阿鼻叫喚な光景が。
ーーーそして、目の前には調理場にて並んで正座する三人がいた。
私は口角のみを吊り上げた冷笑を浮かべ、両手を組んで三人を見下ろした。
「原田さん」
「………うん」
「私、火元から目を離すなって言いましたよね?」
「………………」
「平助君」
「は、はいっ」
「私、調味料はちゃんと測って、具材も指定の物を入れるようにって言ったよね?」
「………………」
「新八君」
「おぅ……」
「私、どうして手元見て調理器具諸々を洗わないのかな?」
「………………」
「ねぇ、あんたたちさぁ…………」
「ぶゎあかなの?」
「「「………………………………………………………………………………………………………………………………………」」」
一斉に顔を背ける三人。
ーーーおい。
目ぇ逸らしてんじゃねーよ。
現実見てみろよおい。
この状況、どーよ?
ーーー焼け焦げて真っ黒になった鍋&火元。
ーーーもはや原形をとどめない、毒々しい色をした物体。これを私は断じて料理とは呼びたくない。
ーーーそして極め付けは床に散乱した、割れて粉々になった皿と壊れてバラバラになった調理器具の数々。
ーーーこの惨状、いったいなんと表現すればよろしかろう?
さて、ここで、だ。
この事態を引き起こしたのはこの三人である。
それらすべては本人たちの不注意。
彼らを統括していた私自身に罪がないかと言われれば、それはあるとしか答えられないだろう。
しかし、だ。
果たしてこの三人に罪はないと言えるであろうか?
ーーーその答えは“否”。
ーーーそれを意味することは、つまりーーーーーーーーー。
「こんの馬鹿共っ!!!!!お前らもう二度と調理場に入んなぁあああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
ーーーかくして今日も今日とて私の絶叫が轟いたーーーーーーーーーーーー。




