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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第九章 新たな出会いはバトルの幕開け!?
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第100話 宣戦布告

【桜庭瑞希】


な、なに!?


なんなの、もうっ!!


ーーー私は自室に飛び込み、頭を抱え込む。


ーーーあの(・・)沖田さんに抱きしめられて、あんなこと(・・・・・)を言われたのはほんの数分前のこと。


いまだ、熱の引かない頰と早まる鼓動を持て余し、私はぎゅっと膝を丸めて抱きしめた。



『……心配だった。君がいなくなって。……もう二度と、何も言わずにいなくならないで』



「……あんなこと言われたら、どう返していいか、わかんないよ……」


ーーー突然の出来事に、抱きしめられた力が弱まった途端、返事もそこそこに沖田さんの腕の中から抜け出し、部屋を飛び出してしまった。


「……あんな沖田さん、初めて見た」


いつもの沖田さんとも、この前の、あの苛烈な感情とも違う、何かにすがるような声音ーーーーーー。


ーーーそして。


部屋を飛び出す直前に見た、晴明君の、何かに耐えるような、悲しそうな顔……。


彼の目は、こちらを見ているようで、けれど私たちを(・・・・)見てはいなかった。


ーーーーまるで、何かを思い出したような。


「……」


ーーー膝を抱く力を強め、目を閉じる。


すると、今日一日、いろいろあったせいか、堪え難い睡魔が襲ってくる。


「……」


ーーー直後、私の意識は暗闇の中に落ちた。



********************



【安倍晴明】


顔を真っ赤にした瑞希さんが、半ば、沖田さんを突き飛ばすようにして部屋を出て行く。


ーーー沖田さんはそんな瑞希さんを無言で見送り、溜息をついた。


「……混乱、させちゃったかな……」


珍しく、自嘲気味に笑う沖田さんの姿はいつもより弱々しく見えた。



『……心配だった。君がいなくなって。……もう二度と、何も言わずにいなくならないで』



ーーー沖田さん()が見せた、痛いくらいの本音。


それはまるで、あの時の自分(・・・・・・)を見ているようで、


僕はそっと視線を逸らした。


「……それでは、僕も部屋に戻りますね」

「ああ……」


そう断りを入れると、気の入っていない返事が返ってくる。


僕は無言で立ち上がり、瑞希さんの出て行った、開け放たれた戸に手をかけ、ふと、足を止め、後ろを振り返る。


「……沖田さん」

「……なに?」

「大切なものは、手放してはいけませんよ」

「っ!?」

「手を離してしまえば、もしかしたら、もう二度と手を触れられなくなるかもしれない。……僕のように、ね」

「!!」


沖田さんは驚いたようにこちらを見上げ、何かを言いかける。


が、僕はそれを聞くよりも早く、身を翻した。


ーーー一度、手を話してしまえば、もう、届かなくなる。


僕はそれを、痛いほどよく知っている。


ーーー僕は、あの日、「あなた」を守れなかった。


そばに置いておけばよかったのに。


けれど、僕はそれができなかった。


その結果、僕は「あなた」を失った。


僕は、そうして同じ過ち(・・・・)を繰り返した。


そう。


僕は。


同じ過ちを、二度(・・)繰り返したんです。



********************



【沖田総司】


ーーーあれは、どういう意味なんだろう?


ーーー「僕のように」、なんて。


ーーーもしかして。


ーーー彼は過去に、なにか……いや、誰か、大切な人を失った?


この前の、彼の言葉が思い出される。


彼は、瑞希ちゃんに恋をすることは絶対にない、そもそも、自分はもう二度と恋をしない。


彼はそう言っていた。


そしておそらく。


その失った人物はーーーーーーー。


彼のーーーーーー。


「……沖田」

「っ!?……は、一君……」


突然かけられた声に、急いで顔を上げると、そこには相変わらずの無表情の一君がいた。


ーーー情けない。


考え事をしていて、人の接近に気づかなかったなんて。


「……どうしたの?君がこんな時間に訪ねてくるなんて珍しい」

「お前、瑞希に何か言ったのか?」

「……」


ーーー瑞希ちゃんが出て行ったの、見られてたのか。


というか、一君、いつからあの子のこと、下の名前で呼ぶようになったのさ?


「……何でもないよ。ただ少し、昼間の件のお説教をしてただけ。見てたならわかると思うけど、桔梗君もいたでしょ?」


まぁ、ちょっと色々やり過ぎちゃったけどさ。


「そうか。……ところで、沖田」

「なに?」

「……あいつは女だな?」

「……。気づいてたんだ?まぁ、なんとなくそうかなとは思ってたけど」


ーーー君の態度、瑞希ちゃんだけ違うから。


「それで?それを知って、どうするつもり?」


ーーーあの子をここから追い出す?

そんなこと、僕が許さないよ?


「……俺は、あいつが好きだ」

「……」


ーーーそう。


それも、なんとなく予感はしてた。


けど、ここまで直球に言ってくるとはね。


けれど。


その後の一君の言葉は僕の予想外のものだった。


「お前も、あいつのことが好きだな?」

「っ!?」


ーーーッーなんで。


どうして、それを……。


いや、それよりも。


「……それを聞いて、どうするの?諦めてくれるわけ、君は?」

「違う。そんなわけないだろう?」

「だろうね。で?だったらなんなのさ?」

「……わかっているのではないか、沖田?」

「……」


ーーーああ、そうだね。


わかってるよ。


嫌なくらい、わかってる。


君がそんなことを言ってくる理由なんて、一つしか考えられないから。


「宣戦布告だ、沖田。俺は、あいつを誰にも渡さない」

「……その言葉、そっくりそのまま返してあげるよ」


ーーー僕だって、引くつもりは毛頭ない。


「あの子は渡さない。なんとしてでも、僕のものにするから。誰にも渡さない」

「上等だ」


一君はほんの少し口角を上げて言った。


僕は、この勝負に負けるつもりはない。


一君にも、もちろん、晴明君()にも。


だからねーーーー。


ーーーこれから覚悟しておいてね、瑞希ちゃん。


僕は、必ず君を振り向かせてあげるから。



「僕からも、宣戦布告だよ、一君」



ーーー僕はそう言い、いつものように不敵な笑みを浮かべた。


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