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時廻奇譚 〜あなたに捧ぐ、恋物語〜  作者: 日ノ宮九条
第九章 新たな出会いはバトルの幕開け!?
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第95話 山崎さん、登場

ーーー新選組監察方、山崎丞。


諜報能力に優れた、近藤勇のお気に入り。


この人が?


「……あの」

「は、はいっ!?」


ハッとして見上げると、不審げな視線が降ってくる。


「私の名前に、なにか?」

「えっ!?あ、いえ、な、なんでもないですっ!!そ、その……知り合いに名前が似ていたもので!!」

「それは奇遇ですね」


山崎丞ーーーこと山崎さんはそう言って片眉をあげた。


「それで……あなたは?」

「あ、えっと……私は桜庭瑞希と言います」

「桜庭さん、ですね?」

「ああはい。ところで山崎さん、その……さっきの女の人たちは?」


と、そこで私はさっきから気になっていたことを尋ねてみた。


場所自体はさっきの蔵と変わらないのだが、あの女の人たちがいない。

どこかに連れ去られてしまったのだろうか?


「……さっき、あなたを殴った奴らが連れて行ってしまいました。おそらく、『商談』の準備でしょう」

「『商談』?」

「女性を売り買いする、です」

「!!」


やっぱりか!

あの女の人たちは売られる人だったんだ!!


「攫われた……んですかね?」

「ええ、そうです。……私は知人から、恋人がいなくなったから探して欲しいと頼まれ、調査を進めていまして……ここを突き止めたんですが……少々下手を打ってしまいまして」

「……それで捕まった?」

「お恥ずかしながら」


山崎さんはそう言って困ったように笑った。


「……なんか、すみません」


ーーー事情を理解した私はなんとなくいたたまれなさを感じ、頭を下げた。


そういう事情があったなら、なおさら助けるべきだったのに。

それなのに、目先のことに夢中で後ろから近づいてきた奴らに気付かなかったなんて。


とんだ大失敗だ。


「なぜ謝るのです?」

「だって……誰かの応援を頼めば済んだ話なのに、勝手に一人で飛び込んでいってこんな結果になったんですし……」


私の言葉に、山崎さんは驚いたように目を見張った。


「あなたは……優しい人ですね」

「ええっ!?」

「さっきもそうです。本来、あなたに我々を助ける義務はなかったはず。それに、敵が何人いるかもわからないような場所に自ら進んで入っていこうとする人はそうそういない。あなたには、我々のことは見なかったことにして逃げる、という選択肢もありました。けれど、あなたは迷わず助けようとした。……それは、とてもすごいことだと思いますよ」

「うっ……」


や、山崎さん……。


そ、そんな尊敬の眼差しで見つめてくれるところ悪いんだけど……。


「……すいません」

「え?」

「……実は私、何も考えていなかったんですよ。敵が何人いるか、とか、本当は考えなきゃいけないのに、捕まっている人がいたことに驚いちゃって、思わず……」


無防備に馬鹿正直に考えなしに飛び込みました、ハイ。


「……」


恥ずかしさのせいで山崎さんの顔が見れないのだが、さすがに呆れてしまっただろう。

馬鹿だと言われても仕方ないと、自分でも思う。

ここに沖田さんがいたら確実にあの毒舌罵詈雑言で串刺しにされていたはずだ。


「……ふっ」


と、頭上から、小さく吹きだす声が聞こえてきた。


一体なんだと思い、恐る恐る顔を上げると、そこには右手で口元を覆い、肩を小刻みに震わせながら必死で笑い声を抑えている山崎さんがいた。


「……ええっと?」


ーーー馬鹿にするどころか笑われたのか、私。


「……ふ、ふふっ。違うんですよ……はははっ……」


またもやこちらの心情をよんだ山崎さんが目尻に涙を浮かべながら首を横に振った。


「これは、馬鹿にしているわけではないんです。ただ、あなたの答えが面白すぎてっ……」

「お、面白い?」

「だって……普通、そんなこと言えませんよ。何も考えていなかった?いえ、それは違います。あなたは一つのことだけを(・・・・・・・・)考えていたんでしょう。あの女性たちや私を助けるという、ただ一つのことをね」

「!!」

「人というものは、何よりもまず、自分自身を大切にする生き物。それはどんな時でも共通して言えることです。が、あなたはそうじゃない。あなたは何よりも自分の安全よりも他人の安全を優先した。それは何も考えていない、なんて言葉で表すもではないですよ。……あなたは本当に不思議な人だ」


ひとしきり笑い終えた山崎さんは私をまっすぐに見下ろして言った。


そんな山崎さんをおそらくは唖然とした顔で

見上げていた私は、ふと、あることに気がついた。


今までは暗かったせいでよくわからなかったけど、今、少し差し込む光に当たっているソレは……。


「……あの」

「なんでしょう?」


私の様子に気づいてか、そう、小首を傾げた山崎さんに、「気づいたこと」を尋ねてみた。


「山崎さんの目……ひょっとして、緑色に近い……ですか?」

「っ!!」


ビクリ、と、目に見えて肩を震わせ、息を呑む。


そんな彼の反応に、私は自分が地雷を踏んだことに気がついた。


ーーー山崎さんの瞳は、もちろん近距離から見ないとわからないのだが、光の角度によってはほんの少し緑がかって見えるのだ。

それはどこか幻想的だと思ったのだが、この反応からして、どう考えても彼自身はそうは思っていないことがうかがえる。


「す、すみません!その、変なこと聞いてしまって……」


思わずそういって頭を下げると、頭上か苦笑が降ってきた。


「いや……別に構いませんよ。……このくらさで気づかれるとは思っていなくて、驚いただけですよ」

「……」

「ええ、そうです。私の瞳の色はほとんど気づかれることはないですが、わずかに緑色をしています。……本当に、気づかれるとは思ってもみませんでした。ですが……申し訳ない。この瞳は気味が悪いと思われるかもしれないですね。不快な気分にしてしまったならば謝りま……」

「そんなことないですっ!!」


何でもないことかのように、本人は話しているようだが、その実自嘲気味な言葉に、私は思わずそう叫んでいた。


「気味が悪い、なんて、そんなことないですよっ!!」


ーーー我慢できなかったのだ。


山崎さんが……。



ーーーまるで晴明君のようなことを言っているのが。


だからか、私はなんとも言えないやるせなさに耐え切れず、そう、叫んでいた。


活動報告、書くと言っておいてまだ書いておりません!


明日までは書けると思います!

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