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卒業旅行

作者: やーめん

「へぇ~、これがタイムマシン・・・」

 あたしはジャンボジェット機ほどあるその乗り物を見上げた。

 自慢じゃないけど、本物のタイムマシンを見るのは、これが始めてなのよね。

 もちろん、テレビや本では見たことあるけど。

「なんか、宇宙船に飛行機の翼をつけたって感じよね。」

 あたしと同じように、リリーが口をあんぐりと開けて見上げている。

 リリーは、あたしの親友。

 これから一緒に卒業旅行に行くんだ。

 しっかし、これから旅行に行こうっていうのに、何でこの子はヒラヒラのスカーフ首に締めて、丈の短いレース地の上着に三段フリルのスカートなんか着てんのよっ。

 おまけにつばの広い帽子とハイヒールと来た日には、空いた口が塞がらないわ。

 これじゃ、上下ジーンズで運動靴のあたしの方が恥ずかしくなっちゃうじゃない。

 まったく、「へそ」だしゃ活動的な格好ってわけじゃないでしょっ。ブー。

「まっ、とにかく早く乗りましょ、エル。」

 そう言って、リリーは自慢の黒髪を軽く掻きあげながら、先にたって歩き出した。


 なんであたしたちが、タイムマシンに乗ることになったかと言うと、あたしが大学の卒業記念に一緒に旅行に行こうって、リリーを誘ったのが始まりなんだ。

 旅行会社でどこに行こうか調べていた時に、ついでに応募したキャンペーンで、な、な、な~んと、特賞が当たっちゃったのよね~。

 それがペアで旅行にご招待っていうんだけど、Aコースの月旅行・宇宙遊泳付きとBコースのタイムマシンツアーがあったの。

 あたしはAコースがいいって言ったんだけど、リリーが「宇宙船ったって、中身はホテルとゲーセンじゃない。おまけに宇宙遊泳は顔が真ん丸くなってみっともないし、宇宙酔いしそうだから嫌っ」て言うから、しかたなくBコースにしたんだ。

 全く宇宙船になんか乗ったこともないのに、どうしてああはっきりと拒絶できるんだろう。

 まぁ、タイムマシンも始めての経験だから、別にどっちでもよかったんだけど・・・。

 これで、未来のあたしの結婚相手とか見にいけたらいいんだけれど、残念ながらタイムマシンってば、未来には行けないのよね。

 えっ、なんでタイムマシンなのに、未来に行けないのかって?

 あたしも詳しいことはわかんないんだけど、例えば、サイコロを振って、次に何がでるかってわかんないよね。

 もし、タイムマシンで一の目が出る方向に進むとすると、確かに一の目が出る未来に行けるんだけど、それって、本当の未来かどうかわからないわけよ。

 つまり、六分の一の可能性の未来でしかないわけね。

 だけど、もし実際にはニの目の方が本当の未来になっちゃった場合には、一の目の未来に行ったタイムマシンは現在とつながりが切れてしまうので、別の世界に取り残されてしまって、帰れなくなっちゃうんだって。おお怖い。

 実際、タイムマシンが開発された初期には、未来に行って、帰って来れなくなっちゃった人もいたんだってさ。

 でも、ご安心あれ。

 現代のタイムマシンは、絶対に未来には行かれないように作られている。

 もっとも、過去に行った場合でも、三次元空間が微妙に歪んでたりするから、過去の世界で動き回ると、過去と現在の座標がずれちゃって、ちゃんと元の世界に戻れない危険があるらしい。

 だから、タイムマシンは、流されないように空間のある一点に次元アンカーをおいて、そこから時間軸という四次元の座標軸に沿って時間をさかのぼっていくだけ。

 過去の世界では空中の一点に止まったまま動けないんで、あたしたちは小さなシャトルで地上に降りることになるの。

 もっとも、アンカーで現代とつながったままなので、ゴムが伸びたあと縮むように、時間がたつと元の世界に戻らなきゃならない。

 という訳で、過去の世界に居られるのはきっかり二十四時間なんだ。

 それから、重要なことは、タイムパラドックスを引き起こさないこと。

 過去の世界をむやみに変えると、現在に影響が出てきちゃう。

 もし、過去の世界でむちゃくちゃなことをして、現在の世界が成り立たなくなるような事態になると、現在とつながっていたゴムがパチンと切れてしまって、過去の世界に取り残されたあたしたちは、その時代から歴史をやり直さなくちゃならなくなっちゃうの。

 つまり、現在に帰れなくなっちゃうわけ。怖いわねぇ。


 あたしは、リリーと窓際の席に並んで座り、シートベルトを締めた。

 タイムマシンは、定刻どおり出発。

 と言っても、普通の飛行機と同じで、滑走路を走って飛び立っただけなんだけどね。

 リリーはというと、窓際の席に座っているのに、さっきから外も見ないで手鏡を見つめてお化粧に没頭している。

 ふっ、どうせあたしは化粧っけのない女だよ。

 化粧道具を鞄の奥に仕舞い込んでしまったことを後悔しながら、あたしは座席のポケットに入っている旅行ガイドを取り出して眺めた。

 行先は、エジプト文明かぁ・・・あたしってば、歴史には弱いのよねぇ。

 なになに・・・、目的地の時代はプトレマイオス朝といい、この時代の最後の王ファラオは、クレオパトラ七世で、一度は弟のぷとれまいおす十三世に追い出されたが、ローマのゆりうす・かえさるが、あれくさんどりあにはいったときに、ひそかにあいにいき、かれのきょうりょくで・・ぷとれまいおすを・・・あふっ、むにゃむにゃ・・・・・。


「ご夕食のメニューはお決まりですか?」

 突然の男の声に、あたしは、がばっと顔をあげた。

 いい男じゃん。じゅるじゅる・・・あっ、よだれがたれてた・・・。

「ええっと・・」

「洋食のCコースをお願いします。お肉はミディアムで、ワインはシャブリのシャルドネがいいわ。」

 答えようとしたあたしを無視して、リリーが先制攻撃をしかけた。ヤラレタ。

「かしこまりました。」

 美男のキャビンアテンダントは、リリーに向かって、にっこり微笑んだ。

 こらっ、そっちに気を取られるんじゃないっ。

「わっ、わたくしも同じものを・・・」

 ああ、なんて気の利かない返事なのかしら。

 自分で自分が嫌になっちゃう。

 でも、彼は、あたしにもにっこり微笑んでくれたわ。

 多分、リリーより優しい目で・・・笑われてたのかしら?

 落ち込みながら、あたしは手にした旅行ガイドをまた眺めた。


 タイムトラベルをする地点は、地球上の何箇所かに決められている。

 適当な場所にタイムアウトすると、過去のその場所に何があるか分からないので、衝突の危険があるからだ。

 決められた地点は、言ってみれば時間軸のハイウエーみたいなもので、途中に障害物が無いように、ちゃんと管理されている。

 だから、その地点で現在から過去に向かって時間軸に沿って連続的な移動を行っても危険はないわけ。


「ただいまからタイムトラベルに入ります。シートベルトをもう一度お確かめ下さい。」

 食事が終わって、しばらくすると、機内アナウンスが流れ、やがて窓の外は真っ暗闇になった。

 これから過去に旅行するんだけど、ちょっと時間がかかるのよね。

 その間にもう一眠りしましょ。



「エル、エルったら、もう。起きなさいよ。みんな出発しちゃったわよっ。」

 あたしは、リリーのヒステリックな声で目を覚ました。

 窓の外は眩いくらいに明るく、澄み切った空が広がっていた。

「ふゎ~、よく寝た。」

 大欠伸して、ニャンコみたいにノビしたあたしに、リリーが苛々して言った。

「んもう、早く着替えなさいよ。この時代に居られる時間は二十四時間しかないのよ。」

 そうなのよね。

 滞在時間が限られてるんだから、有効に使わなくちゃね。

 あたしとリリーは、機内のドレスルームに向かった。

 過去の世界を観光するためには、その時代の格好をしないと怪しまれちゃう。

 だから、着替えはとっても重要なの。


 ドレスルームに入ると、色とりどりのドレスが一杯並んでいる。

 あたしってば、どのドレスを着ても似合いそうで、どれにしょうかまよっちゃうわ。

 なんて、うっとり眺めていたら、

「ほれ、これエルの服よ。」

 と言ってリリーが一着の服を投げてきた。

「なっ、なによ、これ。あんたと同じへそ出しルック?」

 あたしは、粗末な布で作られたとってもシンプルな服を広げて言った。

「しょーがないでしょ。紀元前四十八年だって言ってたわよ。」

 まっ、古い時代だから、庶民の服装なんて、こんなもんかもね。

 でも、これじゃあたしの豊満な胸がはみ出ちゃうわ・・・リリーはその心配がないみたいだけど。

 あたしとリリーは、スポーツブラの上にお粗末な短い上着とミニのスカートを着込んで、シャトルで地上に向かった。

 シャトルの窓から地上を眺めると、どこまでも続く青々とした木々の間を、大きな川が流れていて、その脇にピラミッドがいくつか見えた。


「ファラオ様の宮殿なら、ほれ、あそこに見えるのがそうさ。」

 気の良さそうなお爺さんを見つけて、マイクロ通訳機のテストも兼ねて王宮の場所を聞いたら、鼻の下を伸ばしながら、すぐに教えてくれた。

 これもあたしの美貌のおかげね。

「でも、ファラオ様が、お姉様を追い出されたので、今はファラオ様はお一人もんだ。お前さんたち、宮殿に行ったら、ファラオ様にお目通りが許されるかもしれんな。いや、捕まっちまって、一生お使えすることになるかもしれんよ。ふぉっふぉっふぉっ」

 まっ、なんて好色な爺なの。

 あたしとリリーを交互に見て、鼻の下がますます長くなってる。

「ねぇ、おじ様、私たち旅の途中なんだけど、今夜のお宿が決まっていないの。おじ様どこか紹介していただけないかしら?」

 リリーが性格と真反対の猫撫で声で爺に言った。

「ふぉっふぉっふぉっ。それならワシの家に泊まるが良い。なに、お前さん方のような美人からは宿代なんかとらんよ。」

「あら、嬉しいわ。じゃぁ、お言葉に甘えて泊まらせていただくわ。」

 って、ぬゎんて大胆な・・・。

「ちょっと、大丈夫なの?リリー。まぁ、宿を探す手間が省けるし、宿代も節約できるから一石二鳥ではあるけど・・・。」

「ん~~~、まぁ、お爺さんだし、大丈夫でしょ。」

 能天気なリリーがケラケラ笑って答えた。

 何かあったら、こいつを生贄いけにえにして逃げよう。

 ちなみに、未来から来たあたし達は、当然この時代のお金なんか持っているわけがないんだけど、必要なら旅行会社が立て替えてくれる。

 ただし、旅行会社もこの時代のお金を得るために、未来から食料とかを持ってきてお金に換えるから、結構手数料が高い。

 宿代といっても馬鹿にならないのよね。


 スケベ爺さんの後について行くと、とても大きなお屋敷に案内された。

 通りに面したところは、呉服問屋のようだ。

 爺さんが入っていくと、大勢の若い衆が「お帰りなさいませ、大だんな様」と言って迎えた。

 あらら、爺さんったら、結構お金持ちだったのね。ラッキー♡。


 宿を確保したので、あたしたちは散歩がてら王宮を訪ねてみた。

 王宮の門の近くまで来ると、いきなり十人近い兵隊があたし達を取り囲んだ。

「あぁら、こんなに大勢の男性に囲まれちゃって、困っちゃう♡」

 咄嗟の事で、どうリアクションしていいか分からず、あたしはとりあえずブリッコしてみた。

「なに馬鹿やってんのよ、エル。逃げるわよ。」

 あたしは、リリーに手を引っ張られ、大慌てで逃げ出した。

 ・・・けど、二人ともすぐにつかまっちゃった。

 んで、王宮の中に連れて行かれたの。


「わぁい、王宮の中を見れてラッキー♡」

「・・・エル、本気で言ってんの?」

 ジト目でリリーが睨んでる。

「人生どんな時も楽しまなくちゃ。でないと、泣いちゃうかも・・・。」

 あたしは急に心細くなってきた。

 爺さんが言ってたように、帰してもらえなかったら、どうしよう。

 時間までにタイムマシンに帰れないと、この時代で生きていくしかなくなっちゃう。

 リリーの目に涙が浮かんでる。

 あたしも泣きそう。


 あたし達は、王宮の広間に通された。

 そこには、あたし達よりちょっと若い童顔の男の子と、かなりお子様の男の子が、大きな椅子にふんぞり返って座っていた。

 この若造がファラオかい。

 こりゃ、この国は滅びるわね。

 あたしは、若造の態度にちょっと腹がたった。

「余はプトレマイオス十三世だ。そちらは旅の者と称しているが、大変怪しいので、余が直々に吟味いたすことにした。もし、本当によその国からの旅人であるなら、外国の歌や踊りなど見せてみよ。」

「見チェテミョ」

 若造の隣で鼻くそをほじくっているお子様が真似して言った。

 まったく、いけ好かないガキンチョ達だこと。

「歌や踊りだって。どうしようか、エル。」

 珍しく弱気なリリーに、あたしはつとめて元気なふりをして、耳打ちした。

「楽しい踊りを踊ったら認めてくれるんじゃないかしら。どうせガキンチョだし。」

「楽しい踊りって?」

「んっと、ほら、ちょっと古いけど、ピンクレディーのUFO、どうかしら。」

「あぁ、カラオケでいつも踊ってる、あれね。」

 そう、カラオケでリリーとよく歌ってる定番だから、結構自信があるのよね。

 あたしとりりーが伴奏も含めて口ずさみながら踊り出すと、ファラオの坊ちゃんとその弟は、ポカンと口を開けて見ていたが、次第に歌に合わせて、お尻をフリフリしたり、ぴょんこぴょんこ跳ねたりして、大喜びしながら一緒に踊りだした。

 にゃはは、・・・大変ご満足されたみたい。

 そして、踊り方を教えろとか言って、散々お相手させられた後、あたし達は無事に解放された。

 世の中、何が役に立つか、分かんないわねぇ・・・。


 命拾いしたあたし達は、爺さんの屋敷に大急ぎで戻り、ほっと一息ついた。

「一時はどうなるかと思ったけど、やっと落ち着いたわね~」

 リリーが放心した顔で言った。

「でも、思い返してみると、やっぱ、腹の立つ奴らだったわ。」

「そうよねぇ。あんな風にして、片っ端から通行人を捕まえて、見世物をやらせて楽しんでいるのかしら。いくら王様だって、あんなの許せないわ。」

 あたしとリリーが部屋でファラオのガキンチョの悪口を言い合っていると、ドアの影に遠慮がちに立っている女と目が合った。

「えっと・・・?」

「・・・どちら様ですか?」

 あたしとリリーが尋ねると、その女はちょっと躊躇ためらってから、部屋に入ってきた。

 あたしたちと同じくらいの年のまじめそうな女だ。

 釣り上がったメガネを掛けさせて、タイトスカートでも履かせたら、似合いそうな感じ。

 あたしとタメ張れるくらいの、かなりの知的美人ってとこかしら。

「私の弟達の無礼をお許し願いたい。」

 あたしとリリーは、目を丸くして彼女を見つめ、お互いの相棒の方を振り返ってから、同時に叫んで、彼女を指差した。

「ええ~っ、あなたファラオのお姉さん?」

「いかにも、私はクレオパトラ七世と申す者。実は折り入ってお願いに参った。」

「はぁ~」

 彼女の神妙な態度に、あたしたちは居住まいを正した。

「私は弟に王宮を追い出されたのだが、父王が亡くなってから、この国は乱れてしまった。

 私は、常々、何とか大国のローマの力を借りてこの国を建てなおしたいと思っていたのだが、ちょうど今、ローマ軍の将軍がこの地に来ているのだ。

 しかし、追放された身ではおおっぴらに会いに行くこともままならない。

 聞けばそなた達は異国の旅人とのこと。

 我らが知らぬ知恵や知識をお持ちの様子。

 何とか私に力を貸してもらえないだろうか?」

 彼女は思いつめたように言った。

「つまり、その将軍に会いたいってこと?」

「警戒が厳重で近づくことができないのだ。」

「その男とは会ったことはあるの?」

「手紙のやり取りはしていたのだが・・・以前から会いたいと思っていたのだ。」

 そう言って、彼女は少し顔を赤らめてうつむいた。

 ピカッピカッ。

 あたしの鋭い女の感がひらめいた。

 はは~ん。ラブレターね。

 つまり会いたかったんだけど、お互い立場があるから会えなかったってとこかしら。

 随分悩んでいるみたいだけど、これは相当ラブラブってことね。

 ガキンチョは気に食わなかったけれど、この子は礼儀正しいし、こりゃ何とかしてやらねば。

 あたしのお節介の虫がムズムズしだしたわ。

「まっかせなさい。あたし達がその将軍とやらに会わせてあげるわ。」

「なにか考えがあるの、エル?」

「いい手があるわよん♡。」

 あたしは、壁にかかったペルシャ風の敷物を指差して、リリーにウインクした。


 翌朝、あたしとリリーは、助平爺さんに誠意を尽くしておねだりして・・・あまりに誠意が強すぎて爺さん、鼻血が出てたかもしんないけど・・・、ゲットした絨毯じゅうたんを爺さんちの若い衆に担がせ、ローマ軍の宿営地に向かった。

 何回かローマ軍の検問を通ったけど、「異国からローマ軍の将軍に献上の品をお届けに参りました。」と言って、ウインクすると、皆通してくれたわ。

 美しいって罪ね。

「やっぱり、豪商だけあって、お爺さんの通行手形って、便利ねぇ~」

 ・・・リリーにとってはそうかもね。


 そして、ついに将軍に会うことができた。

「余がローマ軍総帥のユリウスだ。この度は遠路はるばる異国の品を届けに来てくれて礼を言うぞ。」

 んまっ。

 将軍ってば、渋いけど素敵なおじ様。

 あの女には、ちょっと勿体無いわね。

 あたしは、もうちょっと将軍とお話がしたかったんだけど、また捕まっては大変と、リリーに引きずられてローマ軍の宿営地を後にした。


「今頃、あの二人はうまくやってるかしら?」

 タイムマシンに戻ったあたし達は、木々が緑に輝く下界を眺めていた。

「でも、あの彼女を絨毯に包んで送り届けるなんて、よく思いついたわね、エル。」

 リリーが感心していった。

「そりゃ、愛する二人のためだもの。でも、絨毯に包まれて、ちょっと苦しそうだったわね。」

「エルが『羨ましいわ、このっこのっ』とか言って、力いっぱい縛ったからでしょっ。」

「ほ・・・ほどけちゃいけないと思って、しっかり縛ったのよっ。」

「でも、途中からもぞもぞしなくなったし・・・息ができなくて、絨毯の中で失神しちゃったんじゃないかしら?」

「ああっ、そういえば、ひもを解いてあげるのを忘れちゃった!」

「それって、彼に気づいてもらえないんじゃない?!」

 リリーが突然真面目な顔になって言った。

「ねぇエル、あの二人って、歴史上、あそこで会うことになってたんじゃないかと思うんだけど・・・。」

「そういえば、そんな話をどこかで聞いたような気もする・・・。」

「もし会えてなかったら、歴史が変っちゃうんじゃないかしら・・・。私たち元の世界に戻れるよね?」

「・・・・・」

「・・・・・」

 あたし達の漠然とした不安を乗せて、タイムマシンは、闇の中に吸い込まれていった。

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