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*ボクノ幸セ*〈C6/39~〉

 クオルが女の子を物色(?)している話です(笑)

 本編第六章が終わってから数日経った後の出来事ですね。

 先に断っておこう。

 ボクにとって大事なのは、すべての女の子であって、決してヤローなんかじゃない。


 だから、ボクががんばるのは女の子がいるから。特に、この組織、『フルムーン』のリーダーであるレヴィシアちゃんは、栗色の髪の毛と青い瞳をした、すごくかわいい女の子なんだ。いつも、明るい笑顔を振り撒いて、みんなのためにがんばってる。ボクのドストライクな女の子。


 眺めて、時々抱き付いて、それで幸せだったんだ。けれど、最近は、少しフクザツ。

 すごく、キレイになったと思う。不意に見せる表情に、今まで以上にドキリとする。ただ、その理由が気に入らないだけ。


 ルテア。


 出会った当時は背も低くて、色の淡い長めの金髪は、どこからどう見ても女の子みたいだった。見た目は女の子みたい――でも、男。残念ながら。

 だから、女の子みたいであろうとも、ヤツに価値はない。


 まあ、むっさいオッサンよりは多少ましかな、程度の存在だったあいつが、レヴィシアちゃんがキレイになった『理由』なんだって、みんなが知ってる。ヤダヤダ、すっごく嫌だ。



 プレナも、ザルツと結婚して、キレイになった。もともとキレイだったけど、今は幸せそうで、あの仏頂面の傍らで柔らかに微笑んでいる様子に、ボクまでうっとりしてしまう。女の人は、そんな些細なことで驚くくらい変わるんだ。



 エディアは、サラサラのすごくキレイだった髪をばっさり切って、気が付いたら難しい顔ばっかりするようになってた。けど、その険しさが解け始めたのはいつ頃からだっただろう。

 鈴が鳴るような、思わず聞き惚れてしまう声をしていたこと、ボクは前から気付いてた。その声で歌うようになって、エディアはザルツのそばにいるプレナみたいに表情が柔らかくなった。みんなに聴いてもらえて、本当に幸せなのだと思う。

 やっぱり、女の子は笑っている方がいい。



 それから、リュリュ。

 まだまだコドモだ。なんせ、五歳だから。手足が短いのも、胸がないのも仕方がない。

 英才教育とやらでいつも忙しそうだけれど、あの根性はすごい。案外、美人になるんじゃないかって、それがボクの予感。



 そして、シーゼ。

 艶やかに流れる黒髪の、かなりの美人。なかなかお目にかかれないようなレベルの美人だっていうのに、中身はなんとなく抜けていて、むしろかわいい。ボクがじゃれて抱き付くと、ちゃんと抱きしめ返してくれる。そんなボクに、ヤロー共の羨望の眼差しが突き刺さるけれど、ボクはむしろ勝ち誇った笑みを返してやる。悔しかったら真似してみろ、と。

 まあ、さすがにユイの前ではしないけどさ。



 レーデさんは、いつもどこか思い詰めていて、あんまり笑わない。カゲがあるっていうのかな。でも、だから少し心配になる。ボクは彼女を見付けると、他愛のないことをわざと子供らしく間延びした語り口調で語ってみせる。そうすると、彼女は表面上だけでも笑顔になる。

 わかってるよ。心からの笑顔じゃない。話を合わせてくれるだけ。

 でも、それでいいと思うんだ。嘘でも、笑えれば。いつか、本当に笑いたくなった時、上手に笑えるように。レーデさんを心から笑わせるのは、まだ子供のボクには荷が重い。それは、仕方のないこと。



 ――とにかく、この組織には美人が多い。ボクのおかあさんも、なんだかんだいってもキレイだし。

 ボクにとって、それが何よりも大事なことなんだから。



 そんなある日の夕方、ボクは、男なのに何故かいつもつるんでいるゼゼフが、夕食の支度を手伝いに行って来ると厨房に行ってしまったので、一人でブラブラしていた。このクランクバルド家の敷地の中には、メイドのおねえちゃんがたくさんいる。なかなか新鮮なのだ。


 ただ、メイドのおねえちゃんたちに構ってもらおうと思った僕のアテは外れた。夕食前のこの時間、みんな忙しかったのだ。

 がっかりと肩を落としながら歩いていると、屋敷の裏手の方から、シャンシャン、トン、トン、と不思議な音がした。不審に思ったボクが、建物の陰からそちらを覗くと、そこには女の子の姿があった。


 栗色の髪をなびかせ、軽快な音を立てながら踊っている。その滑らかで悩ましい動きに、ボクは一瞬ほうけてしまったけれど、あれはレヴィシアちゃんだった。ボクはレヴィシアちゃんがあんなに踊りが上手だなんて知らなかった。だから、驚きと賞賛を込めて駆け寄ると、力いっぱい抱き付いた。


「レヴィシアちゃん!」


 けれど、その途端、ボクは違和感を覚えた。幾度となく抱き付き続けているボクだからこそ、間違えることが出来なかったのだ。手に残る、肉感的な柔らかさは、いつもとちょっと違った。

 やっぱり、レヴィシアちゃんじゃなかった。

 彼女は、とっさにかわいい悲鳴を上げた。レヴィシアちゃんなら、今更こんなリアクションはしない。


「だ、誰がレヴィシアよ! 間違えないでよ!!」


 さっきのかわいい悲鳴が恥ずかしかったのかも知れない。彼女は照れ隠しか、怒った口調と顔でボクを見下ろす。ボクは抱き付いたまま、彼女の顔をじっと見た。

 髪の色や背格好がレヴィシアちゃんに似ていたけれど、顔はどちらかというとつり目がちで、キリリとしている。でも、その気の強そうなところがまたいいな、とボクはなんとなく思った。


 抱き付く時、わざと高めを心がけて伸ばした手に当たる感触が名残惜しい。ボクはしばらく、ゆっくりと呆けたように首をかしげてみせ、きょとんと子供らしい表情を保ってとぼけていた。


 なのに、そんなイタイケなボクの頭を、彼女はこぶしを振り下ろして殴った。手加減がなく、目の前を火花が散った。けれど、まあ、いい目を見たから我慢しよう。

 むしろ、ボクはこの先、どうすればいいのかを瞬時に計算した。


「うぇ、ご、ごめんなさい、ボ、ボク、ボク間違えて……っ」


 ぽろりと泣いてみせると、やっぱり彼女は怯んだ。ボクのコブになった頭にそっと手を添える。


「あ、あの、ごめん。ちょっと加減が……」


 ボクは内心でほくそ笑みながら、更に声を上げて泣く。すると、彼女は更におろおろとして、泣き止まないボクをそっと抱き締めた。柔らかな胸の感触が頬に当たる。まさしく読み通りだった。


 女の子にはボセーホンノーってヤツがあるんだって。赤ちゃんや子供、そういう弱くてかわいいものに対して、びっくりするくらい無防備だから。ボクは子供である残り少ない今、それを思い切り生かすことにしている。

 もう後どれくらいか経ったら、さすがにこんな手は使えない。そうしたらそうしたで、何か対策を考えるしかないのだけれど。


 ボクがしばらくそうしていると、間の悪いことに、たまたま通りかかったレヴィシアちゃんの声がかかった。


「あ、クオル、ゼゼフが探してたよ――って、あれ? アイシェ……」


 レヴィシアちゃんにこの光景を見られるのは、ちょっとやましかった。ボクはとっさにアイシェと呼ばれた彼女の腕をすり抜ける。すると、彼女はびっくりするくらい鋭くレヴィシアちゃんをにらんだ。レヴィシアちゃんも困惑したように苦笑する。二人の空気は険悪だった。


 え? ヤキモチ?

 ボクのせい?

 ボクのせいだと嬉しいのに。

 とか思ってしまう。


 明るく元気なレヴィシアちゃん。

 刺々しいけど、実はかわいいアイシェちゃん。

 どっちもいいなぁ、とボクはぼんやりと考えた。悩むよね。悩んじゃうよね。


 とにかく、かわいい女の子がまた一人、この組織に参加してくれたこと。それがボクには何よりの喜びで収穫だった。ウキウキと弾む気持ちで眠りに付く。


 今日はいい日だった。




 ただし、後日、気に入らない光景を目にしてしまった。


「ルテア、ちょっとこっちに来てよ」


 と、アイシェちゃんは親しげな仕草でルテアの腕に自分の手を絡ませる。ルテアは焦ってその手から逃れようとしていた。

 ――正直、ケッて感じだよ。

 本気で逃れようと思ったら、もっとあっさり抜けられるんじゃないか。

 そして、もっと面白くないことに――。


「あ、あのさ、あたしも一緒にいい?」


 レヴィシアちゃんが、ルテアの空いた方の手を不安げにギュッと握る。その時、ヤツが一瞬嬉しそうに頬を緩めたさまが、どうしようもなくムカつく。


「はぁ? いいわけないでしょ!」

「そう言わないで、ね?」


 そんなやり取りをみんなが遠巻きに眺める中、ボクはその渦中へ突撃した。ルテアに、思い切り体当たりを食らわせる。


「ルテア! ザルツが呼んでたよ!」


 二人が離れた隙に、ボクはルテアの服の裾を引っ張ってその場から連れ出した。あんなおいしい役どころ、味わわせてやるかっての。

 すると、ルテアはボクが助け舟を出してくれたのだと勘違いした。


「助かったよ、ありがとな」


 女顔でのん気に笑ってる。なんだこのオメデタさ。

 ボクは、自分のこめかみに青筋が浮いているのを、鏡を見なくても自覚することができた。


 ふざけんなよ、バーカ。


 唯一の年下、リュリュに対する興味があんまりありませんね……。

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