第2話:お互いの存在
ケイと出逢ってから半年が過ぎた。
菜穂はケイとのメールのやりとりのおかげで普通に高校生活を送れるようになっていた。
「おはよ☆学校行ってくるね。BYなー子」
ケイからのメールはない。でも、これがいつもの現状だった。ケイは社会人でとても忙しい。だからメールや電話はめったにしない。それでも、菜穂にとってケイは大切な存在だった。だからたまに返ってくるケイからの返事や、夜中にかかってくる電話が嬉しかった。また、菜穂は毎日ケイの携帯にワン切りをすることを習慣にしていた。ケイにとっても菜穂のワン切りは「私は今日も生きているよ!」という心の声に聞こえ、安心していた。ケイは会社に着くとすぐに携帯を確認する。時間がなくて返信することは出来ないが、菜穂からのメールを確認することがケイの日課になっているのだ。
「なー子は今日も元気だな!俺も仕事頑張らなきゃ!よぉし!」
ケイはとある警備会社に勤めている。この会社の勤務体制はけして良いものとはいえず、度重なる夜勤の影響で体を壊す者も少なくない。そんな中、ケイが仕事を頑張れるのも菜穂のお陰なのかもしれない。
着信音が鳴った。『なー子はいつも元気だね!俺はなー子の声聞けると今日も一日頑張ろうって思えてくるよ!BYケイ』
「あっ!ケイから久々のメールだ♪ふふっ♪」
こんな恋人同士のようなやり取りをしている二人だが、お互いに恋愛感情を抱いているわけではなかった。いや。もしかしたらお互いに好きという感情に気付いていないのかもしれない。それに、ケイには忘れられない人がいた。ケイはその女性と菜穂の危なっかしさをダブらせているのだ。そのことは菜穂も知っている。知っているからこそ恋愛に発展しないでいる。
夜、久しぶりにケイからTELがあった。
「もしもし。なー子?今時間大丈夫?」
「うん。大丈夫だよ!どぉしたの?ケイなんか元気ない?」
いつもは明るいケイが、今日は少し様子が違っていた。心配になった菜穂はお風呂上りで濡れたままの髪の毛を乾かすことさえ忘れていた。
「うん。今日は俺にとって嫌な日だから。あいつが、ユキが死んだ日だから。」
「あっ!そぉか。今日はユキさんの…。」