勇者の話。
ちょっと下ネタです。そうゆうのが嫌いな方は、嫌いじゃなくなってからお読み下さい。
青い空、白い雲、照り付ける太陽。
季節は夏、時間は昼過ぎ、しかし、別段何が変わっていたわけでも無かった。
ただ、すずしげな服を着て、本日十本目のアイスを母の目を盗んで食べている。
場所は自宅、もっとも落ち着ける自室にて夏の昼下がりを満喫している。
名前はゆり子。
ちょっぴり古風な名前がコンプレックスの十六歳、ピッチピチの女子高生だ。
物語は、彼女が育てた歴戦の勇者と、彼女が作り出した混沌の魔王が中心である。
それでは彼女の様子を見てみよう。
アイスを食べ終わり、体を部屋のベットに預けている。
「・・・うっ!?」
謎のうめき声、やばそうな顔で自らの下腹部を押さえる。
「と・・・」
と?
「・・トイレ行きたい。」
・・・朝から十本ものアイスを食べた、当然の結果。
いわゆる“便意”である。
しかも、“大”の方だったらしい。
「うぅ〜トイレトイレ」
立ち上がり、部屋を出て、階段を一気に駆け降りる。
一段降りる度に、便意が増す。
しかし、トイレは階段を降りたすぐそこ、多少便意が増しても、大丈夫だろうと彼女は油断していた。
降りた先にはトイレのドア。
開けようと、ドアノブに手をかける・・・と、
スカスカッ
つかめない。
スカスカッ
やはりつかめない。
「なんで・・・!?」
そこにはあるべき物がない。
ドアノブがない。
“故障”とだけあった。
「おっ、お母さん!!!トイレどうなってんの?」
ゆり子は自らの激しい便意を抑えるように、叫んだ。
「故障よ故障。書いてあんでしょ?夕方には業者さんが来て直してくれるから我慢しなさい。」
母はそう言い放った。
だが、トイレに入れると思い込んでいたゆり子にとって、これは有り得ない事態、既に事は急を要すると言うのに我慢どころの話ではない。
彼女の中には、腸には、今だかつてない強大な便意、混沌の魔王がその猛威を振るっているのである。
無論、彼女も伊達に小学校、中学校で戦って来たわけじゃない。
小学校、中学校で大便をすると、回りから嫌な顔をされ、変なあだ名を付けられるときさえある。
それが小中学校の、暗黙のルール、学校の便意は家に帰るまで我慢、だった。
それによって鍛えられた伝説の戦士にして歴戦の勇者、名を“肛門”と言った。
しかし、今回の敵は、混沌の魔王に相応しい大物で、流石の歴戦の勇者も、激しく消耗していた。
(くっ!このままじゃ、奴が私の勇者を押しのけて出て来てしまう・・・早くなんとかしなきゃ!!!)
とにかくトイレに入らなくてはならない、ドアノブがないからといって、トイレ事態が壊れたわけではない。
(とにかく、ドアを開ける!!!)
そしてゆり子は、壊れたドアノブ付近の小さなくぼみに指を掛け、力を入れて引っ張る。
無論、引っ張っている間も容赦なく襲ってくる混沌の魔王兼便意を押さえるため、下腹部に力を入れないようにしながら歴戦の勇者兼肛門入口付近に力を入れる。
「うぅーーん!!!」
だが、無常にもドアは全く開く気配がしない。
そうしている間にも、混沌の魔王は力を増してゆく。
「くっ!だめだわ!!!」
諦めたゆり子は次の方法を考えようとする。
しかし、考えようにも魔王の力が勇者を追い詰め、考えがまとまらない。
(でっでっでっ・・・)
油汗が滝のように体中を流れ落ちる。
(・・・でる!!!)
――――ブッっ!!――――
嫌な音が聞こえた。
ゆり子は僅かながらに涙を流し、母への言い訳を考えようとしたその時に、気付いた、勇者は、まだ負けて、いなかったのだ。
そう!つまり、出たのは魔王の手先にして大切な戦力、ONARA・オナラである。
臭いこそあれ実は出ていない。
勇者が寸前まで頑張った結果、手にしたチャンスである。
オナラがでたことで余裕ができたゆり子は思い出した、近所の公園に天国と書いてヘブン(公衆トイレ)があることを。
公園までは歩いて二分、ギリギリ間に合う距離である。
ゆり子は直ぐに玄関に急いだ。
だが、下腹部に刺激を与えれば混沌の魔王の力が更に増しかねない。
つまり、急ぎながらゆっくりと、それでいて早く。
もはや、やってる方も書いてる方も訳がわからなくなっていた。
それでも、目標ははっきりとしている。
TOILE・トイレである。
玄関を出て、夏の直線的な日光を浴びる。
普段なら深呼吸でもして、夏を体中に感じるのだが、今そんなことをすれば、便を体中に感じてしまう。
(ぐっ!!!)
ただ歩くだけでも、混沌の魔王は力を増し、歴戦の勇者と一進一退の攻防を続けている。
公園までは、真っ直ぐ歩いて一分半、右に曲がって三十秒。
頭の中で何度も計算を繰り返しながら前に進む。
しかし、計算外の事が起こった。
高校の同級生、ひそかに想いを寄せている男子生徒が何故か前方五十メートル付近にいて、こちらに向かって歩いている。
ゆり子は焦った、トイレに行きたい、しかし、彼がいる、彼が通り過ぎるのを木陰で待つか?それがいい!幸い彼はまだこちらに気付いていない。
そんな考えが頭に浮かんだその時だった。
「あっ!ゆり子ちゃん!」
彼はこちらに気付いてしまった。
(・・・どないしたらええねん!?)
焦りに駆られ、心の中が若干大阪弁になる。
しかし、魔王と勇者との戦いは今や熾烈を極めていて、これ以上待っていられなかった。
ゆっくりと近づいてくる彼、ゆり子は歩くスピードを変えずに突き進む。
ただ、驚くほどの形相で、前に立つ全ての人が避け、子供は恐怖に涙した。
(グッバイ、私の青春。)
心の中でそう呟きながら、意中の彼の横を通る。
その恐ろしい形相を見た彼は、後にこう語っていた。
「・・あれは・・・般若でしたね・・・ええ、あんな彼女を見るのは初めてで・・・恐怖に凍り付くとはまさに、あの事でしょうね・・・。」
まぁ、余談である。
さて、自分の青春に別れを告げて、トイレへと急ぐゆり子。
下半身の戦いはいよいよ大詰めを迎えていた。
余分なガスも殆どなく、まさに、勇者と魔王の一騎打ちだった。
ゆり子は公園を視野に捕え、足を早める。
公園に入り、トイレを見つける。
その距離僅か四十歩。
(いける!!!)
そう思った瞬間、余りに予想外の衝撃がゆり子の腹を打ち付けた。
(アッヘハ!?)
声に出来ない悲鳴を上げる。
腹にあるのはサッカーボールだった。
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「スイマセーン!大丈夫ですか!?」<BR>
遠くから聞こえてくる悪魔の手先もとい子供の声、子供はときに残酷と言うが、これはダメでしょ、と一人で思う。
「大丈夫ですか!?」
サッカー少年が近づき声をかける。
(大丈夫な訳あるかァァァァァアァア!!!)
と、言いたいが、そんなことをすれば、ギリギリのところで踏ん張ってくれた勇者肛門に申し訳が立たない。
ゆり子はゆっくりと進み始める、魔王を倒す唯一の場所、TOILE・トイレに向かって。
その後ろ姿を見たサッカー少年は後にこう語った。
「凄かったですよ・・・髪がくしゃくしゃになってて・・・鬼・・って言うのかな?まさにそんな感じでしたね。」
ちなみに、この少年はこの後サッカーを止め、野球少年となって甲子園を目指したりするのだが、それはまた別のお話。
ゆり子はトイレについた。
中に入り、開いている場所を探す。
幸い、全てのトイレが開いていた。
急いで一番近いトイレに入り、ベルトを外し、ズボンを下ろ(自主規制)
そして混沌の魔王は去った。
激しい戦いだった。
彼女はこの戦いを心に刻む。
そうして、戦後の後処理をしようと、手を伸ばして、そして、彼女は呟いた。
「・・・紙が・・ない。」
THE・END
初投稿がこんなんでスイマセン。
反省してます、マジで。