その2
「 そういえばあの時、他のゴーストが建物内に進入してこなかったのはなんでだろうな?」
看護車の中、イスカがくつろいだ姿勢でシュロに質問する。
建物内にいた男の子をヒソカとモクレンがあやし、シュロは怪我の手当てをしていた。
イスカの質問に、医者の診察を受けながら肩越しにシュロが答えた。
「 あの具現化していたゴーストが、建物の周りの存在の力を吸収し尽くしていたからだろう。
存在の力を吸い尽くすとゴーストはその場から動けなくなると考えればつじつまは合う。
力が吸い尽くされなくなった場所へ立ち入ることもできないんだろう。
3015年に起きた最初のゴースト事件でもそれを利用して鎮圧したんだろうな」
淡々と自説を説き、最後にやや沈鬱な調子でシュロは付け加えた。
「 ・・・つまり俺達はそんな程度の事もわからずにゴーストと闘っているんだな」
看護車が沈黙に包まれた。4人とも自分に課せられた任務の重さを今さらながら痛感した。
診察を終えてシュロが服を着込んでいると、ヒソカが無理矢理明るい声をあげた。
「 でも今回もシュロの大活躍で無事鎮圧できたってことじゃない。
具現化したゴーストなんて私見た事ないのに!」
大袈裟にはしゃぐヒソカを見て、モクレンも身を乗り出す。
「 あぁ、すごかったよ。
互角だとか危なかっただとか言うけれど、最後は一撃で戦闘不能だったもんな」
「 私もそれだけ強くなれたらなぁ~」
彼女は自分の槍、ソウルランスをもてあそびながら口をとがらせた。
精神力は扱いが複雑なため、ツヴァイの武器はその形態を大きく退化させざるをえなかった。
もちろん、精神力の未熟な男の子に触らせるのは危険なため今度はイスカが肩車している。
「 ふふ・・・帰ったらもっと厳しくしごいてやるか?」
シュロが笑顔を見せる。イスカやモクレンもしかめっつらを返しながらもどこか楽しそうにしていた。
任務の後はどうしても神経がとがってしまうが、普段はこんな楽しいチームだ。
辛い任務もこのメンバーならこなしていける。シュロはこの日初めての笑顔を3人と分け合うように楽しんだ。
車は高地をくだり、既に平坦な街の道路をヘリポートへと進んでいた。
「 ・・・あ~しかしなんだ、えーと」
モクレンがもごもご口を動かしている。彼には珍しく言葉を外に出すのをためらっている。
「 どうした?モクレン」
シュロが聞く。モクレンが話しやすいように軽い調子で声をかけている。
「 あぁ、えぇと・・・すごいよな、シュロは」
「 ん?」
「 あのゴーストなんて、俺は手も足も出なかっただろうな。
シュロが止めてくれなかったらあっという間ににやられてたかも知れない」
「 ・・・何が言いたいんだ?」
モクレンがいいにくそうにしている理由がわからずに、今度はシュロが聞いた。
「 私達と歳は変わらないのに、シュロは抜きん出てるわよね」
ヒソカが察して話をつなげた。
さらにモクレンが言いたかった事を代弁する。
「 ・・・キャリアの差よね。
シュロは12歳のときからこの任務についてたって聞いてる・・・
・・・なんでなのか聞いても・・・いい?」
普段から聞きたかったことなのだろう。
ヒソカもモクレンも、イスカまでもが遠慮がちにシュロをじっと見つめている。
シュロは男の子を複雑な目で見つめていたが、やがてポツリと言った。
「・・・みんなには・・・いずれ話すことになるだろうな。今は・・・まだ整理がついてない」
さっきよりも重い沈黙が訪れた・・・シュロも辛い。
自分のことを隊長ではなく、名前で読んでくれる部下達は信頼しているが、この事実を伝えるのは・・・。
「 ・・・・この子・・・どうなっちゃうのかな・・・」
窓の外を見ながらヒソカがつぶやくのが聞こえた。




