その1
「 掃討完了しました。ゴーストの沸きはストップした模様です」
増援部隊の、若い隊長(といってもシュロと比べれば年かさであろうが・・・・)が報告にきた。
装備を外す手を止め、シュロは頷いた。
「 うむ、ご苦労。いい手際だったな。新設部隊とは思えない連携だった」
「 ありがとうございます。自分は、シュロ大尉と一緒に闘えただけで十分です。
自分達新米には及びもつかない動きで、感服しました。
今回もすばらしい活躍でしたね」
興奮した様子で瞳を輝かせ、早口で賛辞を述べる隊長から顔をそむけ、周りを見回しながらシュロはつぶやいた。
「 ・・・それでも誰も助けられなかったな・・・」
戦闘が終結し、静けさを取り戻した山奥の白い街は・・・あちこちに死体が散らばっていた。
戦闘中は気にしないようにしているが、改めて現場を見てみると、外傷もなくただ眠るように死んでいる人達。
彼らは、本当に何の表情もなく倒れている。ゴースト現象を初めて目の当たりにして、恐怖に怯える顔すらない。
精神力を吸われ表情を作り出す力すらないほどに衰弱して死に至るためだ。
増援部隊隊長は、シュロにつられて街の人々の様子を見た途端顔面を蒼白にして目を閉じた。
何の恐怖もなく、無表情な死に顔はむしろ見る者に恐怖を与える。
しかしゾッとしながらもシュロを気遣って、カラカラになった喉からなんとか言葉をつむいだ。
「 ・・・あなたのせいではありません。予報が外れたのです、しょうがありません。
シュロ大尉は、これまで多くの人々の命を、ゴースト現象から守ってきたのです。
しかも誰にもその存在を知られることなく。自分は尊敬しています。どうか気を落とさずに・・・」
「 ありがとう。・・・遺体の処理は任せる。隊員の疲労が激しいので看護車に乗って先に帰還する」
遺体の処理を任され、さらに顔色が悪くなった隊長は、敬礼をひとつしてから部下をまとめはじめた。
ゴースト現象の恐ろしさは、現場を目の当たりにして初めてわかる。
予報、処理方法が既に確立されているにもかかわらずアインスがこの現象を一般人に隠すのはこのためだ。
予報が当たれば事前にツヴァイを配置し、住民には適当な理由をでっちあげて避難させるだけで済むが
今回のような事態が起きればまず間違いなく人口の100%が死滅する。All or Nothingなのだ。
そしてこの街は・・・
シュロは何もかも、心までもが白くなっていってしまうような死の街に背を向け、歩き出した。




