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Dear My Future  作者: 湯たぽん
第三章 決意
12/35

その2



『 ツヴァイ全隊員、作戦司令室に集合せよ!』

大音量で、滅多に使われることのないツヴァイ本部全館放送を聞いたのは、シュロが隊員+シローみんなで昼食をとっているときであった。

「 私達も?」

ヒソカがパスタをからめたフォークを置いて首をかしげる。

「 そうだろうな。シローは静かな子だし、作戦室に連れて行っても大丈夫だろ」

と、気軽にシュロ。

「 ま、どの道俺達に出動命令が出ることはないんだ。いかなくてもいいんじゃないか?」

と、やる気なさげに言うイスカはリゾットを食べていた。

「 ま、一応行ってみよう。俺達はツヴァイだ」





作戦司令室についたシュロ達を迎えたのは、異常に殺気立った隊員と、それ以上に目もあてられぬほどに狼狽したツゲの姿であった。

「 あぁ、シュロ!すまないがお前達も出撃してくれ!」

そのまま首を絞めにくるんじゃないかと思うほどの勢いで突進してきて、ツゲはシュロの肩をつかんだ。

「 どうしたんだ、ツゲ?」

状況がつかめず、シュロが尋ねると、ツゲは今度は顔を近づけてきた。

勢い余って頭突きをくらい、シュロがうずくまるのも目に入らない様子で、狼狽しきったツゲは叫んだ。

「 どうもこうも、ゴーストが発生するんだよ!」

「 ・・・いつもの事じゃないか。

 最近はほとんど毎週といっていいほどの発生数だな」

と、シュロを助け起こしながらイスカ。

「 違う、そうじゃない!」

「 ・・・発生しないのか?」

いつもは冷静なツゲがこの時ばかりは混乱していた。

矛盾するツゲの言葉が何を伝えたがっているのかなかなか理解できずにシュロ達は首をかしげた。


「 落ち着いてよ、ツゲさん。他の隊員もみんなパニックになってるみたいだから、あなたが落ち着いて指示出さないと大変な事になっちゃうわよ?」

ヒソカがツゲの顔を覗き込むようにしてなだめている。

同時に、シローがビクンと体を震わせた。

シローは検査だの何だのと言って連れまわしていくこの男の事を嫌っており、今日もモクレンの足にしがみついて前に出ようとしなかった。

だがツゲの顔から何かを感じ取ったのだろうか、恐る恐る口を開いた。


「 もしかして・・・ここに出るの?」

「 ここ?」

するとその言葉に反応して、ツゲが半ばヤケになって叫んだ。

「 他に何があってこの俺がこんなに慌てるっていうんだ!?

 そうさ、ここ、この街、この世界の中枢”セントラル”にゴーストが出現するっていう予報が出たんだ!今度は間違いない!!」

「 !!!?」

ツゲの慌てぶりに呆れていたシュロ達の目が大きく見開かれた。

アインスの本拠であり、ツヴァイの本部であり、全世界の首都である地球最大の都市”セントラル”。

一昔前であれば、考えもしないほどの巨大さである。

この街にゴーストが出現するとなれば被害は尋常ではすまない。

この巨大都市には1億を超える人が暮らしていた。

アインスの本部も巨大な研究施設だが、それを支える住居、交通網、経済全てが揃った街が必要になった。

世界が一つになったのだ、全ての国の首都も一つに重なったようなもの。”セントラル”はまさに全ての中枢となっていた。

そこにゴーストが出現すれば・・・

「 一般市民はどうする!?」

「 予報ではゴーストは午後4時頃。ブロック10~1、アインス本部、ここにも出現する。

 ブロック10までの市民には既に避難命令は出しているが、時間ギリギリなんだ・・・!」

「 くっ・・・!」

うなって爪をかむシュロ。ツゲが慌てるのも無理はない事態だった。




「 っ!シロー!!」

突然、イスカが叫んだ。

シローは顔を真っ青にして、床に倒れていた。

「 シロー!どうしたんだシ・・・」

「 動かすな!ここは触らずにすぐに医務室へ運んだほうがいい」

不意に冷静になったツゲが指示を下した。さすがに事件を目の前にとらえると判断は早いらしい。

戦闘準備のため騒がしく行き交う隊員を押しのけ、シュロは医務室へ走った。

未曾有のゴースト事件を目前に控えて、殺気立っている隊員もシュロの顔色を見て次々に道を開けた。

背負ったシローの体を動かさないよう、細心の注意を払いながら全力で医務室へ向かった。

走りながら、シュロは猛烈に後悔していた。またしても迂闊な事をしてしまった。

シローが倒れた原因ははっきりしていた。

「 ・・・考えてみればシローはゴーストに、両親も友達も、自分が生まれ育った街全てを奪われたんだ・・・

 同じ境遇の俺がそれに気付かないなんてな・・・」


「 この子の前でゴーストゴーストって連発するなんて、俺達は・・・俺はなんて無神経だったんだ・・・!」


天才とはいえ三歳の子供の、その心に負った傷はあまりにも深かった。

それを対ゴースト部隊と一緒に暮らしていればそのうち慣れるだろう、などと考えていた自分を、シュロ達4人は心の底から恥じた。





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