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Dear My Future  作者: 湯たぽん
第二章 過去
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その6

ひとしきり笑ってから、シュロはふと真顔に戻って、モクレンに聞いた。

「 二人目?さっき二人目って言ったよな。何が?」

「 シローと同じ体質を持った赤ん坊が過去にいたらしいのよ」

代わりにヒソカが質問に答えた。シローのベットに向かい、うつむいたまま。

シローの事を自分の子供の事のように心配しているだけに、過去の事例が何より気になるらしい。

しばらく面倒を見ることができるってだけなのに・・・シュロはむしろそのことが気になった。

「 ゴースト現象から助けられて、その子それからどうなったのかな・・・」

「 元気にしてるだろうさ」

うつむいたままのヒソカにシュロに気軽に答えると、今度はイスカが口をはさんできた。

「 真面目に考えろよ、シュロ。モクレンみたいな言い方で好きじゃあないが

 一時だけとはいえ軍隊に子供を預けるようなアインスだぞ、俺達がしっかりこの子の将来に責任を持ってやらないといけない」

「 だがこの子のゴーストの力を全く受け付けない体質はツヴァイの軍人としても有用だ

 ”一人目”の子もゴーストと戦う立場にあるのかもしれない。シローもそうなるべきかもな」

突然、シローを見ていたヒソカがカッとなったのか、振り向いてかみついてきた。

「 シローにそこまで要求するつもり!?

 ゴーストに襲われたからってその後の人生まで決められるわけないでしょ!」

「 シローにとっても、一人目のその子にとってもゴーストは自分を孤独にした憎い敵なんだ!

 自分がどんな目にあってもそれを解明してくいとめたいと思うはずだろ!」

さすがにシュロも我慢できなくなり、テーブルに手をついて大声をあげた。

「 ”一人目”と同じ人生を歩めっていうのも間違ってるわよ!

 この子にはこの子の人生があるの!」

「 だが”一人目”はそうやって生きてきたんだ!」

モクレンとヒソカに加えてシュロの怒号も部屋に響き渡る。

叩き付けるように押し付けている拳のおかげでテーブルは真っ二つに割れるかと思うほどきしんでいた。

しかし―――

「 ・・・ちょっと待て。シュロ」

一人冷静に話を聞いていたイスカが口を開いた。

「 ”一人目はそうやって生きてきた”だって?

 ・・・その子の事を知っていそうな口ぶりだな」

シュロがハッと顔を上げた。

ヒソカとモクレンもそのことに気付き、食い入るようにシュロを見つめていた。

「 まさか・・・その子」

「 軍人にでもなってるっていうのか・・・?」

ヒソカとモクレンが真っ青になって呆然とつぶやいた。

二人が可愛がっているシローの将来。

まだ満足にしゃべりもできないこの子にも、そんな重い運命が待っているかもしれない・・・

イスカとシュロも、その事実に心を暗くしていた。


しばらく、誰も口をきけなかったが・・・

「 シュロ。その”一人目”について知っているなら話してくれないか・・・本当に軍人になったのか?」

意を決して、モクレンが口を開いた。


しかしシュロは黙っている。テーブルに額を押し付けて、なかなか話そうとしなかった。

「 ・・・シュロっ」

「 あの街で、ゴーストが動かなくなった時な。あぁそうかって俺は納得してた」

ふと、シュロが話しはじめたのはシローを助けた街でのことだった。

身を起こし、テーブルを見つめながら淡々と、物語でもするように。

「 ツゲがあのことを仮説として有力だと言ってた事も俺は以前から知っていた」

たまりかねてモクレンがシュロの体を起こし、額を押し付けるほどに近づけて言った。

「 話をそらさないでくれ。俺達はシローの将来に責任を持たないといけないんだ。シュロだってわかっているだろ?」

「 ・・・あの時もゴーストは止まっ―――」

「 そらすなって言ってるんだよ!」

モクレンがシュロの体を揺さぶろうとするのを、イスカが止めた。

「 あの時っていつの事だ。シュロ」



「 3015年、ゴースト現象が最初に起こった時だ。俺自身は覚えてはいないんだがな」

「 ・・・っ!」

三人が揃って立ち上がり、戦慄した。

「 まさか・・・シュロ・・・」




「 ―――そうだ。俺が生まれたのも3015年8月。俺もゴースト現象を生き残った人間の一人だ・・・」




いつもはにぎやかなはずの談話室が、この時ばかりは完全に沈黙に包まれた。

シュロは恐れていた。自分の過去に。

ゴーストに対する意識が他の三人と違うのは元から自覚していた。

イスカとヒソカは一般の人々を守るため。モクレンも同じだが、アインスを毛嫌いしている。

そして自分は、人生のために闘っている。自分の人生を狂わせたものと。

その意識の違いがはっきりしてしまえば、もう一緒に闘う事はできなくなるかもしれない。

それがシュロをためらわせていた理由だった。

沈黙の後、何が起こるか・・・シュロは想像して、ぶるっと身を震わせた。

と―――




「 ・・・ぷっ」

それが何を表す言葉なのか、はじめシュロには全く理解できなかった。

「 は、はははは!!!」

それはモクレンの笑い声だった。

モクレンは笑うだけ笑うと、涙をぬぐいながら言った。

「 いや、すまんすまん。それじゃあシュロが鬼のように強いのも当然だなと思ってね」

モクレンにつられてイスカとヒソカも笑っていた。

「 確かにそうだ。小さい頃からずっとゴーストと戦ってたんだな。色んな意味で・・・」

「 すごいね、シュロは」

口々にシュロを褒めたたえ、今度はシローのベッドを見た。

「 でも今日からは他人事じゃないぞ。シュロは勿論だけど、シローだってもう俺達の仲間なんだ。ちょっとの間だけどな。

 ゴースト現象の原因をつきとめて、二人を呪縛から解放しないとな!」

シュロは呆然としていた。こんな反応がくるとは思ってもみなかった・・・

「 みんな・・・」

安堵と嬉しさで涙がこぼれる。

自分の過去を話したのはこれが初めてだった。

「 悪い方向へ考えてたみたいだな。俺たちはそれほど冷たい人間じゃないぞ」

いつの間にかイスカがすぐ隣に来ていた。起きていたシロー肩車して。

「 変わらないさ、シュロの過去に何があろうと。そのくらいの時間は共有してきただろ?俺たち」

みんながシュロを囲んでいた。モクレンも、ヒソカもイスカもシローもみんな笑っていた。


「 やるしかないな・・・」

シュロもつられて笑っていた。








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